第108話 闘技場の騒ぎの後で
フェンリルの登場による騒動で大騒ぎになった武術大会は、結局決勝戦が行われることはなかった。
シルヴァノとペイルの戦いは結局没収試合となり、先に準決勝を勝ち上がっていたオフライトが優勝ということで幕を閉じることになった。なんとも一部の方々が納得いかない結果である。
そして、フェンリルの出現で闘技場から避難していった人たちで、サンフレア学園の学園祭は混乱が起きた。脱出した人たちで大騒ぎになったものの、すぐさま沈静化してしまう。というのも、闘技場に強力な防壁が発生したのだ。
この防壁は、フェンリルに興奮しながらもチェリシアが仕掛けたもの。しかもかなりの大規模なものだ。さすがはヒロイン。やる時はやってくれるのだ。
魔物が出たということで騒ぎになっていた学園内もこの防壁の出現で一気に冷静な雰囲気になり、静かに撤収作業が行われた。
こうして、静かな雰囲気の中でサンフレア学園の学園祭は幕を閉じた。
ところが、当然ながらロゼリアたちには、すぐさま定番行事が待っていた。
そう、言わずと知れたお城訪問である。
もう何度目となるだろうか。シルヴァノの婚約者候補の一人であるロゼリアは胃が痛い。ニーズヘッグを連れ、小さくなったフェンリルを抱きかかえたアイリスも複雑な表情だ。
なぜこんな報告会が行われるかというと、国王と女王は、真っ先に避難させられたからだ。自分の息子がそこにいるというのに、宰相や副団長の判断で避難をさせられたのだ。それゆえ、詳しい状況を確認できていないので、当事者たちから説明を求めているというわけである。
「さて、此度の事態の状況、詳細を報告してもらおう」
謁見の間。
ブランシェード女王が、ものすごい剣幕でロゼリアたちに詳細を求めている。なぜなら、フェンリルの出現した闘技場内に、最後まで残っていたのだから。
「女王陛下に申し上げます。どうやら武術大会で使用する武台に、何者かがあらかじめ召喚陣を仕込んでいたようなのでございます」
女王の問い掛けには、ペシエラが答えている。
逆行前の人生では、実の母親のようによくしてもらった記憶があるゆえ、ペシエラはその恩義を感じている。そのため、正直に話をしているのだ。
「あの白銀の狼と話をしていたその少女は何者なのだ。助かったのは確かだが、詳しく話してもらうぞ」
ペシエラの説明が終わった直後、スノーフィールド公爵が声を荒げながら問い詰めてくる。
それもそうだ。アイリスのことを知っているのは国王と女王、宰相、それにロゼリアたちの周りのごく少数だけだからだ。スノーフィールド公爵や騎士団副団長も知らないため、そのように問い詰めてくるわけだ。
あまりにもうるさいので、ロゼリアはたちは話をすることにした。
「この方は、アイリス・フラウアードと申して、チェリシアやペシエラの侍女をしております」
ロゼリアが説明を始めると、アイリスは淑女の所作を取っている。一応男爵令嬢だったこともあり、そこそこの所作ができている。
「ならなぜ、その娘にあの狼は従ったのだ」
「小娘とは、バカに……むぐっ」
「黙っていろ、フェンリル」
続けて飛ぶスノーフィールド公爵の言葉に、フェンリルが怒りを爆発させそうになるが、ニーズヘッグが慌てて口をふさいでいる。暴れられるとアイリスが困ることになるからだ。
「このアイリスが、神獣使いと呼ばれる存在だからです。かつてこの大陸に存在したという神獣使い、ベル・フラウアードのご子孫なのですよ」
「なんと?!」
スノーフィールド公爵が驚いている。
もはや文献などでしか確認できない存在ゆえ、大きく驚くのも無理はない。
アイリスはすかさず、呪文を唱える。
「召喚、蒼鱗魚、ニーズヘッグ、フェンリル!」
自分の傍らにいる二体すらも召喚にかけている。
次の瞬間、ニーズヘッグとフェンリルの擬態は解かれ、さらには一対の青色の魚が空中に現れる。この状況には、スノーフィールド公爵やノワール副団長が驚きを隠せないでいる。
「おやおや、何の騒ぎだい」
「おんや、フェンリルじゃないか。久しぶりだねぇ」
「お前らも久しぶりだな。相変わらずのんびりしておるな」
呼び出された蒼鱗魚は、フェンリルとのんびりと言葉を交わしている。
それにしても、ばかでかい神獣と幻獣が四体もいれば、さすがに国王たちも驚かざるを得ない。今回初めて見ることになるシルヴァノたちも、言葉を失わざるを得なかった。
「やれやれ、我らだけでこの驚き様は困るな」
「そうだな。ベルが契約していた神獣や幻獣などの数は数十にも上る。これから先は増えるだろうから、現段階でこれでは先が思いやられるというものだ」
ニーズヘッグとフェンリルが呆れている。
「まあまあ。神獣使いを知らなければ、こうなるのも無理はないさね」
「それよりも、わしらが呼ばれた経緯を説明しておくれ」
「ああ、どうやらサファイア湖の時と同じように、召喚陣を用いた愚か者がいたようだ」
「まあまあ、そうなのかい」
「困るねぇ。ベルの能力を悪用されちゃあねぇ……」
ニーズヘッグが説明をすると、蒼鱗魚ですら表情を曇らせている。それだけ、ベル・フラウアードという人物とそれに関連したものが、彼らにとって特別なものだということだ。
「しっかし、我らの目をかいくぐり、発動まで気が付かれぬとはな……。なんという巧妙な連中だ」
「ふん。今回の召喚陣と出てきた魔物は我が粉砕したが、あの程度に気が付かぬとは、お前もまだまだ子どもだな、黒トカゲ」
「なんだと、犬コロがぁっ!」
「ちょっと二人とも。ここで暴れないでよ!」
フェンリルとニーズヘッグが一触即発状態になるも、アイリスのひと言ですぐさまおとなしくなってしまった。
その様子を見ていた国王たちは、改めて神獣使いという存在の重要性を認識させられた。
今回の事件も大した被害もなく幕を閉じられたのだが、今回の召喚陣は何者が仕掛けたものかはまったく分からない。しかも警戒を強めていた中で起きたことゆえに、課題を浮き彫りにする結果となってしまった。
最終的には今回の件の調査を進めるとともに、今大会で活躍した一年次生の四人を労って、今日の謁見は解散となったのだった。




