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逆行令嬢と転生ヒロイン~緋色の令嬢  作者: 未羊
第三章 学園一年目

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第105話 白銀の狼

 闘技場の武台上に突如として現れた白銀の狼フェンリル。

 そこへ、闘技場内を見回りしていたニーズヘッグが駆けつけていた。


「その魔力は……。そうか、あの黒トカゲか」


「誰がトカゲだ、犬コロが! 我はニーズヘッグだぞ!」


「人のことを言えまい。そちらが名前で呼ばぬから、こちらもそういわせてもらっただけだ」


 ペシエラの前で、フェンリルとニーズヘッグが言い合っている。


「ところで、お前がなぜここにいる。お前の住処ははるか北の極寒の地であろうが」


「そんなこと、我の方が知りたい。変な光に包まれたかと思えば、ここにいたのだからな。だが、飲まれた瞬間に、同時に誰かに呼ばれるような声を聞いた気がする」


「ほぉ……。お前の実力ならこの程度の召喚に抗えたであろうに。わざわざ食らったというのか」


 フェンリルとニーズヘッグの口論が続いている。

 そこへ、城から駆けつけた王国騎士団がやってくる。魔物が現れたと聞いて、対処のためにやってきたのだ。


「なんだ、あの強大な狼は、武台から現れたといったな。どこかの愚か者が召喚の魔法陣を仕掛けていたのか」


 銀髪の長い髪をなびかせた壮年の男性が姿を見せる。彼はスノーフィールド公爵、プラティナの父親である。強大な魔力を持っているとあって、魔法に長けている彼が呼ばれたのだ。


「ふーん、あれが魔法陣か。弟の領地に仕掛けられていたものと、同じ仕組みのようね」


「ということは、同一犯の可能性が?」


「そう思われますね」


 隣から女性がひょっこり顔を出す。青色の髪の女性は、シアンと似た雰囲気の顔立ちをしている。彼女はマーリンとシアンの姉であるセルリナである。突如魔物が現れたという話を聞いて、興味深そうにやってきたのだ。

 セルリナと話を終えたスノーフィールド公爵は、フェンリルへと視線を戻す。

 フェンリルが現れた場所からは、次々と魔物が出てこようとしている。その状況を見て、一刻を争うものだと判断する。


「いくぞ。なんとしても王都への被害を最小限にとどめるのだ!」


「はっ!」


 スノーフィールド公爵の命令で、王国騎士団が動く。


「雑魚どもが! 我の邪魔はさせぬぞ!」


 その動きを察知したフェンリルが吠える。

 フェンリルの雄たけびが場に響き渡ると、スノーフィールド公爵たちは足がすくみ上り、召喚陣から出現してきた魔物たちが凍り付いてしまう。魔物が凍り付く様子を確認したフェンリルは、実に忌々しそうにその地点を睨みつけている。


「ふん、このようなちんけな召喚陣で我を呼び出したのか。……まったく忌々しい」


 再びフェンリルは吹雪を吐き出し、武台全体を凍らせてしまう。


「どこの誰かは知らぬが、こんなものを誰にも気づかれずに仕込むとはな。だが、我を呼び出してしまったことを後悔させてやろうぞ」


 フェンリルは一度高く跳び上がり、勢いをつけて武台へと着地する。

 着地の衝撃によって、武台へと亀裂が走り、一瞬で粉々に砕けてしまった。


「なんてことですの。まさか武術大会の武台そのものが、召喚陣にされていただなんて……。想定外ですわ」


 外部からの侵入を想定していたペシエラは、完全に裏をかかれたことに驚愕している。自分たちの警戒をあざ笑うかのように仕掛けられた罠に、ペシエラは怒りがこみあげてくる。

 こうなると、すぐにでも仕掛けた犯人を探したいところだが、今はそうもいかない。

 目の前には巨大な白銀の狼であるフェンリルが陣取っている。彼が怒り狂っている状況では、とてもではないが放っておけるわけがないのだ。

 ところが、フェンリルはペシエラに対して予想外な言葉をかけてくる。


「運がよかったな。どうやら我の敵は別のところにいるようだ」


 フェンリルがひと言を発すると、ペシエラは冷や汗を流している。

 その隣には、直前に武台から降りて難を逃れたシルヴァノとペイルも駆けつけている。どうやら一緒に戦う気のようだ。


「ペシエラ嬢、私たちも戦います」


「なんだか強そうだが、この状況を放っておけるわけないしな。やれるだけやってやるってもんだ」


「ふん、やめておけ。お前たちなどいくら集まろうと我には敵わぬ。無駄に命を散らすのは、我も勧めぬぞ」


 剣を構える二人の王子に対して、フェンリルはとても冷めた様子で話している。

 その間も、フェンリルと王国関係者たちとのにらみ合いが続いている。


「待って!」


 緊張が漂う中、一人の女性の声が闘技場内に響き渡る。

 全員の視線が、その声のした方向へと向けられる。そこに立っていたのは、ピンク色に染めた髪の毛に眼鏡をかけた女性。そう、ニーズヘッグと行動を一緒にしていたはずのアイリスである。

 どうやら、異変を感じたニーズヘッグが先走り、置いてきぼりを食らったようなのだ。そうして、遅れながらにしてアイリスは武術大会の会場へと駆けつけたのである。

 フェンリルが苛立ちを見せてアイリスの方へと向き、威嚇の視線を向ける。


「小娘が! 邪魔をするというのなら、お前も食らって……」


 同時に声でも脅しをかけようとするのだが、なぜかフェンリルは途中で言葉を止めてしまった。

 威嚇のために怒りに満ちていたはずの目は、目を見開いて驚愕の色を見せている。

 一体何が起きたというのだろうか。ペシエラたちは困惑を隠せなかった。

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