第104話 王子対決
シルヴァノとペイルは、試合開始の合図とともに一気に距離を詰める。
互いの剣が振り抜かれ、金属音が響き渡る。
刃を潰した模擬剣とはいえど、ぶつかり合えばしっかりと音が響き渡るのだが、その音はかなり大きく、二人がどのくらいの力で剣を振るっているのかがよく分かる。
だが、この後にはオフライトとの決勝戦が控えているというのに、大きな音が響き渡るほどに力が入っている。こんな調子で決勝戦を戦えるのか不安になるくらいだ。
その当人たちは、まったくそんなことなど微塵も考えていなかった。アイヴォリーとモスグリネ、それぞれの国の意地を背負った王子同士の戦い。そう、これは意地のぶつかり合いだのだ。
さらに、二人が共通して見ている姿がある。
それは、ペシエラだ。
自分たちよりも三つも年下でありながら、年齢差や体格差などをものともしない剣技。二人はペシエラのその姿に刺激され、あらゆる物事に真剣に打ち込むようになったのだ。
オフライトに負けてしまったことで戦う機会を失ってしまったものの、その恩返しのために見守る前で最高の試合をしてやろうじゃないかと考えたわけである。決勝など、すでに視野にはなかった。
まさかの「私のために争わないで」状態になるなど、誰が想像しようか。当のペシエラはまったくそのようなことは思っていないのだが、二人の戦いを見守る姿はそのように見えてしまう。
はてさて、この王子対決は、一体どちらに軍配が上がるのだろうか。
「ふっ、なかなかやるな。 アイヴォリーの王子は容姿がきれいなだけのお坊ちゃんだと聞いていたんだがな」
「モスグリネの王子は、乱暴なだけとは聞いていたのですがね。意外と結構真面目なんですね」
剣をぶつけ合う二人はお互いに煽り合う。そうして不敵に微笑んだかと思うと、一度距離を取り合う。そうやら力が拮抗しており、ただの剣の打ち合いではらちが明かないと判断したからだ。
一度呼吸を整え合うと、再び飛び込んでいく。剣と剣がぶつかり合い、凄まじい音が会場に響き渡る。いや、剣だけではない、隙を見ては体術も交えている。剣戟の合い間にこのような攻撃を織り交ぜられるとは、二人の戦闘センスの高さが見て取れる。日頃からどれだけの鍛練を積み上げてきたのだろうか。
お互い一歩も引かず、攻め合いの戦いが続く。まったく決着がつくような様子はまったくない。
戦いが続き、互いに疲労が見え始めた時だった。
武台の中央付近が、チカチカと光り出す。
「シルヴァノ殿下、ペイル殿下、お逃げ下さい!」
強大な魔力を感じ取ったペシエラが叫ぶ。
その瞬間、武台の中央から強大な魔力が漏れ始める。
「なんですか、これは」
「ちっ、ただ事じゃねえな。いったん勝負はお預けだ!」
さすがにシルヴァノとペイルも気が付いたようで、武台の中央から離れていく。
二人が武台から飛び降りると、中央からあふれ出す魔力が一気に強まる。一気に強まると同時に強力な冷気が辺りにあふれ始め、武台は一瞬で凍り付いてしまっていた。その場にいては二人とも危険だったので、実に間一髪だった。
寒い魔力に覆われた武台の上に、うっすらと大きな何かの影が見える。
「これは魔物の召喚?!」
「うそでしょ。魔物の襲撃イベントは、二年次で起きるはずのでしょ!?」
ロゼリアがチェリシアが叫ぶ。
「ペシエラ、みんなを避難させ……って、ペシエラ?」
ロゼリアが避難を呼びかけようとすると、隣にいたはずのペシエラが忽然と姿を消していた。
「むぅ、ここはどこだ! 我を、我を呼ぶのはどこの誰だ!」
ペシエラの行方が気になるロゼリアとチェリシアだったが、突然聞こえてきた大声に、武台の中央へと視線を向ける。そこにいたのは、白銀の毛並みを備えた大きな犬、いや、狼だった。
「フェンリル?!」
チェリシアが叫ぶ。
「仕方ないわ。チェリシア、観客を避難させるわよ」
「あっ、うん」
ペシエラのことが気になるが、このままでは被害者が出かねない。二人は避難誘導を行うことにした。
同じように会場中には兵士が現れて、闘技場から観客を避難させ始めている。
「出せ! 我を呼び寄せた者を今すぐにだ! さもなくば、この場を凍てつかせてくれる!」
フェンリルはかなり混乱しているようで、大声でよく分からないことを叫んでいる。
「この場に何の用ですか」
「うん?」
フェンリルの前に、ペシエラが姿を見せる。その手にはどこから用意したのか剣が握られている。
「おい、よせ。ペシエラ、そいつと戦う気か!?」
「当然ですわ。みなさんが避難する時間を稼がなければなりませんもの。ふふっ、強敵との戦いとなると、腕が鳴りますわ」
壁際に避難していたペイルの呼び掛けに、ペシエラはどこか楽しそうに答えている。
「ぬぅぅ……、我も機嫌が悪い。そこまで死に急ぐというのなら、その希望、叶えてやろうではないか!」
「あら、やる気十分ですわね。話し合いで終わるのならば、その方がよかったのですけれど」
吠えるフェンリルに剣を構えるペシエラ。一触即発状態の双方だったが、その間に突如として割って入る人物がいた。
「よう、久しぶりだな、犬コロ」
そこに現れたのは、執事服に身を包んだ黒髪の男、そう、ニーズヘッグだった。




