第103話 やらかしのチェリシア
武術大会は進み、あっという間に決勝トーナメントの一回戦のラストを飾る第八戦が行われる。
ブロードソードを片手に武台に上がったペイル王子の相手は、双剣を扱う六年次生先輩だ。
「ここは武術大会。たとえモスグリネの王子様だろうと、そんなのは関係ねぇ。アイヴォリー王国の方が上だと思い知らせてやろう」
双剣でペイルを差しながら偉そうな口ぶり。負けフラグを立てまくりである。
「ほう、ならば、その自慢の力とやらを見させてもらおうか」
負けじとペイルも煽っている。
二人のにらみ合いが最高潮に達した時、試合開始の合図がなされる。
結果はペイルの圧勝。
互いに煽り合った状況だったのだが、六年次生の方が冷静さを著しく欠いてしまっていた。その結果、双剣という武器を活かしきれずに単調な攻撃を繰り出してしまい、あっさりと返り討ちに遭ってしまったというわけだ。
入学直後にペシエラを相手にして負けてしまったペイルは、悔しさから猛特訓を重ねていた。そんなペイルからすれば、冷静さを失った攻撃など余裕で躱せたというわけだった。
この時の剣筋を見ていたペシエラは、ペイルがかなり楽しんでいるようだと分析していた。逆行前と逆行後にそれぞれ一回ずつ直に剣を交えているペシエラだからこそ、このような分析ができたのだろう。
「ちょっとお姉様、頭を撫でないで下さいませ。わたくしは子どもではありませんわよ」
「あっ、ごめん」
冷静に分析をしていたペシエラの頭を、チェリシアは無意識に撫でてしまっていた。逆行前の記憶があるために、子ども扱いされることは嫌なペシエラである。
手を引っ込めたチェリシアに対して、ペシエラはじろりと視線を向けている。その様子を見ながら、ロゼリアはつい笑ってしまっていた。
「それにしても、ずいぶんとペイル殿下は不機嫌そうに見えましたわね。あんなに執拗に煽らなくても、楽勝でしたでしょうに」
ペシエラはロゼリアの反応を無視しながら、腕を組んで難しい顔をしている。
その隣では、ロゼリアとチェリシアが顔を見合わせている。どうやらこの二人は、ペイルの不機嫌の理由が分かっているらしい。だが、ここではあえて言う必要はないかと、黙っておくことにした。
そんな三人が見守る中、順調にトーナメント戦は消化されていく。
じっくりと見つめていたものの、特に問題があるようには見えない。しかし、最後まで気を抜けるような状況ではないため、三人は試合を観戦しつつ警戒は怠らなかった。
そんな中、準決勝の一戦目が終わる。
「オフライト様が決勝進出ですわ」
「さすがは、騎士団の副団長をお父様に持つだけあるわね」
「なんだか、相手の人が可哀想になってくる強さだわ」
どうやら、三人が予想していた通り、オフライトが決勝まで勝ち進んだようだ。
となれば、その対戦相手が誰になるのかというのが気になるところ。その対戦相手を決める準決勝のもう一戦は、大会屈指の注目カードである。
「さて、シルヴァノ殿下とペイル殿下の対決ね。これは、動画に残しておかなくちゃ」
チェリシアは変なことを言いながら、収納空間から何かを取り出している。それは、カメラのようで、ちょっとカメラと違ったもののようだった。
「あら、お姉様、それは?」
「前世にあった動画を撮影するビデオカメラを再現してみたものよ。驚かせようと思ってこっそり作ってたのを、さっきまで忘れてたわ」
なんと、チェリシアはビデオカメラを作り上げていた。
どうやら仕組みは、魔石に組み込む魔法を写真魔法から録画魔法に切り替えるだけでできたらしい。ちなみにその録画魔法というのは、アイリスの髪飾りに仕込んである魔法のことである。
このことをうきうきとした気持ちで説明するチェリシアだったが、対照的な表情でペシエラがチェリシアを見ている。
「お姉様、それでしたら、わたくしとオフライト様の試合は撮影されていたのかしら?」
ペシエラから質問をぶつけられると、チェリシアは顔を引きつらせながら、ペシエラから視線を外していく。そう、撮っていなかったのである。
「お姉様のおバカーッ!」
ペシエラが大声でチェリシアを叱りつける。
「ああ、その映像があれば、反省会ができましたのに……」
ペシエラは頭を抱え込んだ。
しかし、いつまでも漫才のようなことはしていられない。ロゼリアが二人に声をかける。
「そろそろシルヴァノ殿下とペイル殿下の試合が始まるわよ」
「おっと、そうでしたわね。お姉様、ちゃんと撮影して下さいませ」
「分かってるわよ」
ペシエラにジト目を向けられながら、チェリシアはビデオカメラを構えている。
「ああ、美形が剣を構えると、とても絵になるわね……」
「分かっていたけれど、チェリシアって結構面食いみたいね」
ぽつりと呟くチェリシアを見ながら、ロゼリアはつい呆れてしまう。
「審判が出てきましたから、もう始まりますわ。注目しますわよ」
ペシエラの指摘で武台へと目を移すと、審判をする教官が登場している状況ははっきりと見える。
シルヴァノとペイルが剣を構え、じっと睨み合いながら態勢が整う。
会場中が息をのんで見守る中、いよいよその時がやってきた。
「始め!」
審判の合図で、武術大会屈指の好カードである王子対決の幕が切って落とされた。




