第102話 躍進の王子
ロゼリア、チェリシア、ペシエラの三人は観客席に戻ってくる。
武台に目を向けると、戦っている顔ぶれから察するに、どうやら三戦目が行われているようだ。二戦目を見逃してしまったと分かり、ペシエラは少々残念そうにしている。
その三戦目もあっという間に終わってしまい、第四戦目が始める。
武台に上がってきたのはシルヴァノ王子のようだ。
姿を見せたシルヴァノには、周囲から声援がかけられており、かなり慕われていることがよく分かる。
現在のシルヴァノは、剣術に魔法、勉学に対して真剣に取り組んでいるとのことで、周囲からの評価はかなり高い。次期国王として、みんなが自慢げに話すくらいとなっている。
さて、そんなシルヴァノの相手だが、四年次生の棒術使いの男子学生のようだ。かなり長い得物を使うらしく、リーチではかなり差をつけられてしまっている。ところが、シルヴァノはかなり余裕の表情を見せている。
「殿下、ずいぶんと落ち着いていらっしゃるし、自信もあるみたいね。前回も一年次からご参加なさっていたけれど、その時は予選敗退だったわね」
ロゼリアは驚きの表情とともに、そんな感想を漏らしている。
「そうですわね。最終日は学園祭を見ていらっしゃいましたわ。わたくしが無理やりついて行っていましたけれど」
「そんなことしていたの、ペシエラ」
「ええ。殿下ととにかくお近づきになりたくてですね。わたくしの狙いは、その時から女王になることでしたから、裏工作は大事ですわよ」
ペシエラの方を向きながら驚愕の表情を浮かべるロゼリアに対して、ペシエラは淡々とした表情で告白していた。
とはいえ、それが功を奏したからこそ、自分のあの断罪劇につながったわけだ。裏工作という単語に、ものすごく納得がいくというもの。
「と、とにかく今は殿下の応援ね」
驚かされてばかりのロゼリアだったが、気を取り直して武台へと視線を戻す。
武台の上に立つシルヴァノが持っているのは、ペシエラが使っているものと同じサーベルだ。小さくて可愛いペシエラでも絵になっていたのだが、シルヴァノが持つとまた違った感じで絵になる。
少し見とれていたロゼリアが、チェリシアとペシエラへと振り向くと、二人はどこからともなくカメラを取り出してシルヴァノの姿を撮っていた。
「ちょっと、どこからそれを出したのよ」
「収納空間に押し込んでいましたわ」
「この日のために本格的に完成させたんだからね。使わないともったいない」
ぎょっとした表情を浮かべるロゼリアに対し、ペシエラはまったくもって冷静に、チェリシアははにかみながら答えている。
チェリシアの編み出した写真魔法を、ペシエラが魔道具にしようと必死になっていたカメラは、いよいよ本格的に完成したようである。
ちなみにこのカメラ、学園祭の実行委員たちにも提供してあり、使い心地などを聞くことになっている。光魔法の使い手でなくても扱えるとあって、実行委員たちはかなり喜んでいたのだとか。
「こうやって写真を残しておいたら、不正などの証拠にも使えるからね」
「ちなみにですけれど、魔石一個で数百枚は余裕で撮れますわよ。苦労したかいがありますわ」
饒舌に話しながらも、まったく撮影をやめようとしない二人である。さすがにロゼリアは呆れてしまう。
ちなみに、値段をつけるとするならば、現時点では希少性を考慮して金貨百枚前後にはなるだろうとのこと。
そんな中、シルヴァノの試合が始まった。
対戦相手がシルヴァノへと突っ込んでくる。
「キエエエエッ!」
棒を振りかざし、シルヴァノに対して正面から突きを放ってくる。
棒はリーチが長いし、そこそこの軽さがある。どちらに避けても、追撃は免れないだろう。
そこで取ったシルヴァノの行動は、なんと棒を剣でいなすというものだった。そう、動かないのである。
思いもしなかった行動を取られ、相手はそのまま無防備にシルヴァノに突っ込んでくる。その脇腹に、剣の柄を用いた一撃が入る。
相手は苦しみながらその場に膝をついてしまい、あっという間に勝負はついてしまった。
圧勝である。
相手も予選を勝ち抜いたので、それなりの腕を持っているはずなのだが、シルヴァノは実に冷静に対処して勝利してみせた。今のシルヴァノは、間違いなく逆行前のシルヴァノとは違う。王位を継ぐ者としてふさわしいだけの風格を持ち合わせていた。
この圧勝劇に会場は大いに沸いている。
シルヴァノが笑顔で手を振れば、会場の女子たちはもうメロメロである。
「シルヴァノ殿下は、ずいぶんと本気ですわよ。年下であるわたくしに剣のことを聞きに来られましたもの。逆行前では夫婦になった仲でしたけれど、ここまで意欲的な殿下は初めて見ましたわ」
シルヴァノのたらしっぷりにロゼリアは言葉を失っている。そのためか、このペシエラの話も耳に入ってきていないようだ。
ところが、このシルヴァノの活躍に黙っていない者が一名ほど存在していた。
「順当に勝ち進めば、当たるのは準決勝か。シルヴァノ王子、相手にとって不足なし!」
胸の前で両手の拳をぶつけ合う人物。そう、隣国モスグリネの王子であるペイルだった。
一回戦の最終の第八戦で登場するペイルは、その闘志をあからさまに燃やしているのだった。




