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星屑の旅路(スターダストジャーニー)  作者: ほしのみくる
エピソード1 亡霊の彷徨
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記録04 視えぬ異変

実験の余韻が残る中、ふと現実に引き戻される。

ケイとアイの2人がこの船に招かれたのは偶然じゃない。

実験が終わり、薄暗いラボには静寂が戻っていた。シェーネが目を輝かせながらモニターに表示されたデータを食い入るように見つめている。


「とんでもないわね……」

興奮を抑えきれないシェーネがそう呟いた瞬間、どこからともなく、低く響く男の声がした。


「恐ろしいな。なぁ、ケイよ……」

それは単なる驚きではなく、深い嫌悪と畏れが滲んでいた。


ケイは眉をひそめ、反射的に背後を振り返る。しかし、そこには誰の姿もなかった。ただ、空気が揺らめいたような違和感が残るだけだった。


「……?」

一瞬の沈黙の後、ケイは僅かに目を細めた。


「オダコン、そこか?」

そう言いながら、ケイは手にしたBOLRを無造作に投げる。


その時、宙でBOLRが制止した。空間が揺らめき、突如として歪んだ波紋が広がり、それを掴む手が覗き、徐々にその全貌を表した。顔から何本も触手を生やした軟膜質な肌の男の姿がゆっくりと浮かび上がる。


「ふむ……相変わらず腕は鈍っていないようだな。気配を感じ取るのだ」


その姿がはっきりと浮かび上がると、現れたのはオダコン・マーシュだった。

陸生頭足類(スレイプニル)の潜入任務のエキスパートであり、全身の色素を操り光学迷彩を発動できる。


「生命の輪廻を覆すなど……そんなものは、道理を逸している」

彼は低く呟く。


遥か彼方の惑星から流れ着いただろう巻物に残された『忍者』と呼ばれる戦闘民族の教えに心酔する彼にとって、自然の摂理を乱すものは受け入れがたい。再生の力そのものが、彼の信じる理と相容れないものだった。オダコンはBOLR(ボルア)をケイに投げ返す。


そして、彼は細い目をさらに細め、ケイの様子をじっくりと観察した。


「……ケイ、お主、それを目で追っていなかったな?」


ケイは無言のままBOLRを弄ぶように指先で回した。投げられたそれを追って無意識に手が動き、指先に収まっていた。その自然すぎる動作に、自分でもわずかに違和感を覚える。


「別に……」

「フッ、やれやれだな……ジャックに診てもらえ。己の精神と肉体を理解してこそ本物の忍となるのだ」


その言葉にケイはわずかに口元を歪めた。だが、それ以上何も言わずBOLRを腰のポーチに収めた。


オダコンは視線を外さずに続ける。

「視覚だけじゃないだろう……味覚はどうだ?」


ケイは短く息を吐いた。「さぁな」と言うに留めるが、その反応を見たオダコンの表情がわずかに曇る。


そのやり取りを見ていたアイが、静かに進み出る。


「ケイ、ジャック様に体調を診てもらった方がよろしいかと」


「……お前まで……」

ケイは仕方なさそうに首や肩を回し、踵を返した。


アイはその背中を見送りながら、オダコンに目を向ける。

「オダコン様、あなたも何か感じたのですね?」


「うむ…」

オダコンは短く頷き、低い声で答えた。


アイはその言葉を聞きながら、カプセル内に浮かぶ血まみれの肉塊を見つめた。透き通る液体に漂うそれは、かつての生命の形を留めぬまま、ただそこに存在していた。


ケイの身体は、これ以上壊れていくのを待つだけなのか——。


アイはそっと目を伏せる。再生の力を使えば、彼の身体を救えるかもしれない。しかし、それは彼に何をもたらすのか。完全な回復か、それともさらなる代償か。

この揺らぎは、ただの計算式では解決できない。


「ケイの異常は、我らが思っている以上に深刻かもしれん……な」

それぞれの想いが交錯する中、フォーカスする対象が主役の2人に移ります。次の話も是非読んでいただけると嬉しいです。

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