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入学

あたりが静寂になったせいで、雨が強くなったと勘違いした。


僕は浅木と目を合わせまいと言わんばかりに過剰に浅木を避け周りをキョロキョロ見た。


掲示板には新聞部が書いた国外の記事が貼られている。


「フランスで人間に危害を加える未確認生命体」


「フランスで作られていた人間兵器インオーガニック育成本部が全焼」


「フランスの高級ホテルで大学生の男性が自殺未遂」


どれも不穏で不吉な記事しか貼られていない。


誰かが僕を見ている。


頭が刺すように痛い。片頭痛だろうか。


僕はもう一度浅木に目を向けた。


幼馴染は動かない。


そんな姿を見ていたら、今までの記憶が蘇ってきた。







中学1年の春。


校舎をくぐると、見慣れない顔がたくさんあって吐きそうだった。


僕は誰とも目を合わせないように俯いて歩くと目線が自然と下に行く。


雨上がりの湿ったアスファルトには桜の花びらが張り付いていた。


クラス表を握りしめて自分の教室に早足で向かっていると、


思いのほか近くに教室のドアが見えた。


スライド式ドアの冷たい金属の引き手が指先に触れ、緊張感が増した。


僕は思い切ってドアを横に引き、リュックを背負い直して


自分の出席番号が書かれている席に座った。


周りを見る勇気もなく、ただ僕はいつも持ち歩いている花の図鑑を開いて


担任が来るのを待っていた。


数分が数時間にも感じたのはこの時が初めてだった。


ようやく担任が教室から顔を出し、


遅刻など初めからなかったかのように涼しい顔をして教卓に立った。


担任「ご入学おめでとうございます。


これから1年間このクラスを担当する「■■■■■■」です。よろしくお願いします。」


定年近いベテラン教師だった。


感じるはずのない視線を僕は浴びながらも必死に担任の話を聞いた。




担任「今日のHRはここまで。これから教科書を配って名前を書くので


油性ペンを用意して待機していてください。」



そういって担任は教科を取りに静寂だけをおいていって教室から消えた。


静かで物音を立てれば注目を浴びそうな空気がどうしても耐えられない。


僕は息苦しさを感じながらも新しく買い替えた筆箱を手に取り、


油性ペンを取り出そうとした。


、、、


シャーペン2本、まだ買ったばかりの角がある消しゴム、


光に当てれば反射しそうな15センチ定規、赤、青、黄色のマーカーペン三本、


小学校では無縁だった三色ボールペン、そして重要な油性ペン、


が無い。


嘘だ。学校に行く前に確認したはずなのに。


耳鳴りが激しい。


誰にも借りられない。


初日から忘れ物をした女だなんて少しでも思われたらと考えるとめまいがする。


どうしよう、と迷っていたら横から肩をつつかれた。


僕は驚いて体が大きく跳ねた。肩をつついた人物もつられて驚いた。


「ねぇ、ペン2本あるから貸してあげる。」


そういって女の子は僕に油性ペンを差し出した。


配慮ゼロの声量だったが、今はそんな事を気にしている暇はなかった。


ゆか「、、え、いいの?」


顔を上げて女の子の顔を見た。目があって慌ててそらした。


「うん。」


ニッコリと眩しい笑顔を向けられ僕は少し目を細めながらも両手で丁寧に受け取った。


ゆか「、ありがとう、」


「うん!あたし、りんだから。好きに呼んで。」


りんと名乗った彼女は、髪の毛が自慢なのだろうか。


同性も羨むほどの恵まれた髪質で、努力の結晶なのが見えた。


ゆか「、、僕は、ゆか。よろしくね」


ド陰キャ特有な挨拶で自分でも少々引いたが、りんは快く受け入れてくれた。







あっという間に時間が経ち、下校になった。


学年主任からのお話やらなんやらで座り疲れた僕は立ち上がって大きく伸びをした。


初学年集会の緊張は解け、周りも緩みきった雰囲気で昇降口に向かっていた。


りん「ゆか!いっしょかえろ!!」


後ろから声をかけられ驚いたが僕は振り返って駆け寄った。





りん「ゆかってどこの小学校だったの?」


りんは落ちていたきれいな桜の花を見つめながら僕に問いかけた。


ゆか「小倉小学校だよ。市役所の近くの。」


りん「あーあそこ??遠いな。うちはねあずき町に住んでるんだー」


桜の花に興味を失ったのか、または飽きたのか。


ぽいと桜の花を排水口に投げ入れて再び歩みを始めた。


何気ない雑談を交わしながら、僕たちは帰路に沿って歩いていた。




りん「じゃ、うちこっちだから。じゃーねゆか。また明日。」


りんは僕に小さく手を振ってから背を向けた。


僕も手を振って自分の家に向かった。






入学から数日が経った。


僕はようやく周りをよく見ることができた。


そして、幼馴染の存在を理解した。


「遅えよ。俺ずっと右隣の席だったんだけど。」


ゆか「ごめんじゃん」


浅木。


3歳の頃に入園してきた浅木は極度の人見知りで、あまり外にも出ないということで


先生からも親からも心配されていた。当時大将ムーヴをかましていた僕が浅木を


無理やり連れ出して友だちになったらしい。浅木の親に会うたびにお礼を言われていた理由


はこれかと気づくのは小学校高学年の頃だった。


腐れ縁なのか、運がいいのか、同じクラスそして隣の席になっていた。


浅木「にしてもお前、まだその本読んでるんだな。」


頬杖をつきながら半笑いで言われた。


バカにされたと3秒遅れて気づき軽く睨んで怒った素振りを見せた。


ゆか「そんな事言われても。くれたの浅木じゃん。」


僕は花の図鑑をぱたんと閉じ、表紙を見つめた。


ど真ん中にタイトル、文字を引き立たせるように花の写真が散りばめられていた。


僕は浅木に向き直った。


色白で、触れたら壊れてしまいそうなどこか儚げな透明感があった。


目つきは全くそんなこと無い。あの時の可愛い顔はどこへ行ったのだろうか。


浅木「何だよこっち見んな金取るぞ」


口調も全く可愛くなかった。





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