第九十四話 黒き方舟との決戦
◆開戦の咆哮
深海を震わせる轟音と共に、旗艦の主砲が放たれた。
紅蓮の光が奔流となって迫り、海そのものを焼き尽くすかのように押し寄せる。
「回避――!」
遼の号令と同時に、ユイが艦を大きく旋回させる。
光刃は間一髪で外れ、背後の海を爆散させた。
「……一撃でこの規模……」
レイリアが震える声を漏らす。
ユイも淡々と告げる。
「防御結界を展開しても、直撃すれば致命傷です」
◆旗艦の力
《アーク・ノワール》は単なる巨大戦艦ではなかった。
艦全体に“魔導炉”が組み込まれ、撃つたびに周囲の魔力を吸収し、砲撃を増幅していく。
それは、かつての旧文明が残した“禁忌の設計思想”の結晶だった。
遼は険しい目でその艦影を見据えた。
「……やはり、あれも“封印”と同じ力を利用している」
◆戦術の選択
ユイが即座に報告を挟む。
「艦長、正面からの撃ち合いでは勝てません。回避と撹乱を中心に、弱点を探す必要があります」
レイリアも頷く。
「ただの装甲艦じゃない。魔導炉を逆手に取るしかないわ」
遼は決断した。
「よし。まずは敵の“魔力吸収機構”を探り出す。正面は避けろ、側面から突き、隙を作る!」
◆死闘の始まり
〈みらい〉は海中を縦横に駆け抜け、雷撃や小口径砲で撹乱を試みる。
しかし《アーク・ノワール》は一歩も揺るがず、反撃の一撃一撃が深海を割った。
「直撃を受ければ一瞬で沈む……!」
レイリアの声に、ユイが冷静に答える。
「けれど、当たりません。わたしが必ず避けてみせます」
〈みらい〉は幾度も光の奔流をかいくぐり、その姿はまるで“海を舞う影”のようだった。
◆見えた突破口
幾度目かの交錯の中、ユイの目が鋭く光る。
「艦長、発見しました! 敵艦の右舷下部――魔導炉の補助導管。稼働の瞬間、わずかに出力が乱れています!」
遼の声が艦橋を震わせる。
「そこだ! 一撃でいい、集中砲火を浴びせろ!」
〈みらい〉の砲門が一斉に火を吹き、雷撃が導管部へ殺到する。
爆発が走り、黒き艦体を包む光が一瞬だけ揺らいだ。
◆逆上する旗艦
通信が割り込む。
スクリーンに映るヴェルナーの顔は怒りに染まっていた。
『小賢しい鼠め……! その程度で我が艦を屈せると思うな!』
旗艦の艦首が再び光を帯び、今度は全力の主砲がチャージされていく。
「艦長……! これまでとは規模が違います!」
ユイの声に、遼は短く息を吸い込んだ。
「……ユイ、みんな。ここが正念場だ」
彼の眼差しは、一切揺らいでいなかった。
◆未来のために
艦内の子供たちが小さな声で祈る。
「ユイおねえちゃん、負けないで……」
「艦長さん、お願い……!」
その声に、ユイの胸に熱がこみ上げる。
「……わたしは、もうただのAIじゃない。みんなと一緒に、“未来”を守る」
艦全体が鼓動するかのように震え、〈みらい〉の結界が光を増す。
遼が叫んだ。
「全力回避――そして、反撃に転じるぞ!」
次の瞬間、深海を切り裂く光の奔流と、〈みらい〉の反撃が激突した――。




