第七十四話 深淵を裂く閃光
轟音が深海を貫いた。
〈みらい〉の主砲から放たれた閃光が、一直線に旗艦へ突き刺さり、黒鋼の巨体を白炎に包み込む。
視界が焼き尽くされ、艦橋全体が一瞬真昼のように明るくなった。
「命中確認!」
ユイの声が響く。
「旗艦の外装装甲に大規模な損傷を確認――ですが、完全破壊には至っていません!」
モニターに映る旗艦は、確かに被弾していた。
だが、その装甲は光の膜に覆われ、亀裂がじわじわと修復されていく。
「なんだと……?」
遼は息を呑む。
「まるで……自己再生してるみたいじゃないか」
◆旗艦の“遺産”
レイリアが蒼ざめた顔で叫ぶ。
「あれは……古代文明の“守護殻”! 大陸遺跡で伝承に聞いたことがあるわ!
神の加護を受けた艦だけが纏える、絶対防壁――」
ユイがすぐに補足する。
「解析結果、外装を覆うバリアは通常の兵器では突破不能です。
しかし、主砲と同時に“干渉波”を放てば、一瞬だけ中和可能」
「つまり……奴の装甲を裂くには、ここからもう一撃必要ってことか」
遼は歯を食いしばった。
◆艦内の緊張
その頃、居住区では子供たちが艦の揺れに怯えていた。
「こわいよ……」「しずまないの……?」
小さな声が重なり合う。
ルナが涙を拭い、震えながらも言った。
「でも……ユイおねえちゃんと、艦長さんがいるから……だいじょうぶ」
その言葉に、他の子供たちが少しだけ落ち着きを取り戻した。
医務区画にいたレイリアは、その声をモニター越しに聞き、胸を強く締め付けられる。
「……絶対に守らなきゃ」
◆決死の接近
「艦長、敵旗艦のバリアが再生を完了します!」
ユイの警告に、遼は即断する。
「構わん! 全速前進! 奴の懐に飛び込む!」
〈みらい〉は深海を切り裂き、黒鋼の巨体に肉薄した。
無数の副砲から光弾が降り注ぎ、シールドを削り取っていく。
「被弾多数! 装甲損傷率、三割突破!」
ユイの報告が響く。
「まだだ……! 近づけ!」
◆ユイの秘策
ユイが遼を振り返った。
「艦長……“あれ”を使うべきです」
遼は一瞬眉をひそめる。
「“あれ”……?」
「はい。〈みらい〉の深層制御領域に眠る、試作兵装――“次元干渉砲”。
本来は未完成の兵装ですが、今なら……一度だけ撃てます」
レイリアが驚愕する。
「そんな危険なものを……!」
ユイの瞳が揺れる。
「このままでは突破は不可能です。ですが、“あれ”ならバリアを無効化できる可能性があります」
遼は息を呑み、静かに決断した。
「……よし。試作兵装を使う。ユイ、準備しろ」
◆次元干渉砲、発射
艦内の全エネルギーが収束し、〈みらい〉の艦体が低く唸った。
「エネルギー充填率――九十%……九十五……一〇〇!」
ユイの声が響く。
遼は拳を握りしめ、叫んだ。
「撃てぇぇぇぇぇ!」
閃光が放たれた瞬間、海そのものが裂けた。
深海に渦が生じ、光と闇がせめぎ合う。
干渉波が旗艦のバリアを揺るがし、黒鋼の巨体が悲鳴を上げるように震えた。
「バリア、消失! 装甲露出!」
ユイの声が歓喜に震える。
遼は間髪入れず命令した。
「主砲、最大出力――撃てぇ!」
砲撃が直撃し、旗艦の中央部を貫いた。
轟音と共に黒鋼の巨艦が爆炎に包まれ、深海に崩れ落ちていく。
◆勝利の代償
歓声が艦内を駆け抜ける。
「やった……!」「勝ったんだ!」
しかしユイの声が冷たく響いた。
「報告します。次元干渉砲の影響で、艦の深層制御領域に重大な亀裂が発生しました。
これ以上の使用は不可能。……艦の根幹に負荷が残っています」
遼は拳を握りしめ、深く息を吐いた。
「勝った代償が……これか」
レイリアが遼を見つめ、かすかに微笑む。
「でも……みんな、生き残れたわ」
遼はその言葉にわずかに頷き、艦橋の窓越しに深海を見やった。
旗艦の残骸がゆっくりと沈んでいく。
――だが、それは終わりではなく、始まりにすぎなかった。




