第七十三話 決断、突破の刃
深海を揺らす轟音の中、〈みらい〉の艦橋は赤い警告灯に包まれていた。
モニターには、無数の赤い光点――グラディオン海軍の艦隊が執拗に追撃を続けている。
「敵艦、依然百隻以上。追尾を継続中です」
ユイの声は冷静だったが、その瞳の奥にはわずかな焦りがにじんでいた。
遼は前方を睨みつけ、唇を結ぶ。
「……このまま逃げるだけじゃ、いずれ消耗して沈む」
◆作戦会議
艦橋の空気は重苦しく張り詰めていた。
レイリアが拳を握りしめ、遼に問いかける。
「じゃあ、どうするの? 子供たちだっているのよ。逃げ切れないなら……戦うしかない」
遼は静かに頷いた。
「戦う。ただし、正面から殴り合うんじゃない」
ユイが補足する。
「敵の数は圧倒的。我々が持つ兵装をもってしても、正面戦力での勝算は二%未満です。
しかし――艦隊全体を動かしている中枢、旗艦を叩けば状況は変わります」
艦橋のスクリーンに、グラディオン海軍の隊列が映し出される。
その中心には、ひときわ巨大な艦影――黒鋼の巨艦があった。
「……あれか」
遼は低く呟いた。
◆艦内の民間人
その頃、居住区では衝撃が走るたびに子供たちが怯えていた。
小さな少女ルナが泣きそうな顔でレイリアの裾を掴む。
「ねえ……これ、ずっと続くの? また村みたいに燃えちゃうの?」
レイリアは膝を折り、ルナと目線を合わせた。
「大丈夫よ。〈みらい〉は、簡単に沈まない。……艦長もユイも、みんなを守るために戦ってる」
その言葉に、他の子供たちも少しだけ表情を和らげた。
だが、彼らの瞳には不安と期待が入り混じり、〈みらい〉という鋼の箱舟にすべてを託していた。
◆突破計画
作戦会議室に戻った遼は、ユイと二人で航路を確認した。
「ここから北方に二百海里先、地殻の裂け目がある。そこを抜ければ追撃を振り切れるはずだ」
ユイが頷く。
「ただし……その途中に、旗艦が布陣しています。避けることは不可能です」
遼は深く息を吐いた。
「つまり――必ずあれを突破しなきゃならないってことか」
ユイが遼を見つめる。
「艦長……判断を」
数秒の沈黙。
遼は拳を握りしめ、強い声で言った。
「――旗艦を抜く。あれを突破して、生き残る」
◆旗艦への接近
〈みらい〉は緩やかに進路を修正し、敵の中央突破ルートへと舵を切った。
艦内は静まり返り、全員が次の瞬間に訪れる激戦を予感していた。
「敵艦、進路変更を感知! こちらを包囲し直しています!」
ユイの報告に、遼は力強く答えた。
「構うな。予定通り突っ込む」
艦橋の窓に映る旗艦は、黒き巨壁のように海を塞いでいた。
その表面には古代文字が輝き、まるで生き物のように脈動している。
レイリアが息を呑む。
「まるで……遺跡の結晶体と同じ……」
◆旗艦との交戦
次の瞬間、旗艦から光弾が放たれた。
深海を焼き尽くす閃光が、一直線に〈みらい〉を貫こうと迫る。
「回避機動!」
遼の声と同時に、ユイの操艦が艦を急旋回させた。
光弾はかすめ、艦体に強烈な振動が走る。
「損傷軽微! ですが、もう一撃は耐えられません!」
ユイの声が鋭く響いた。
遼は歯を食いしばり、決断する。
「なら――一気に間合いを詰める! 近距離からぶち抜く!」
◆最後の賭け
〈みらい〉の砲門が光を帯びる。
旗艦との距離は急速に縮まり、双方の兵器が唸りを上げる。
子供たちの叫び声、レイリアの祈り、ユイの冷静な声――。
そのすべてを背負いながら、遼は叫んだ。
「――撃てぇぇぇぇぇ!!!」
深海を切り裂く轟音が響き、閃光が旗艦を直撃した。
爆炎と衝撃波が渦巻き、視界が白く染まる――。




