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奥津城守の帰還  作者: みかか
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『彼女』の訪れ 3

 まず大事なのは、この魔法はかなり複雑なものであると理解することだった。

それを解きほぐし、単純化を極端にすすめれば、三種類の魔法の同時行使ということになる。

ひとつめは、身体から魂を引きはがす……身体と魂の縁を切るといえばいいだろうか。

ふたつめはその魂を他者の身体に移すこと。

みっつめ、その身体と魂の間に強固なつながりを作り、固定すること。

ミラエステルの大伯父さんが遺してくれた対策はストレートで、ひとつめにあたる魔法から身を守るためのもの。

実際、起点となるそこをつぶせば、魂を抜かれまい。


 しかし、さわりを聞いただけなのに私ととことんまで相性が悪い魔法だということはわかる。

別の身体を操るのとは別に、私は簡単に体を移れる。

つまり身体から魂を引きはがすのも、人間に比べて容易だろう。

その上で別の身体、このダンジョンの外にある別の身体に入れられて固定されたら……この奥津城はその時点で終わりだ。

それをミラエステルもわかっているから、まず初手として剥がされない守り方があると伝えてくれたということだろう。

ただしそれは、基本的な【御守り】としての考え方と運用である、というのがアスターさんの結論だとも。

剥がせなくても、壊せばいい。……ナオのように。


 より積極的なかたちで対抗できないかということで、そのためにこの魔法を使う方向で彼は研究を続けていた。

そして、習得面から見ると……

「やはり、この魔法は行使そのものに準備が必要ということですわね」

 そんな研究をしていたアスターさん本人はといえば、「頭を使いすぎたから骨休めに」という名目でこの旅に同行したのだという話だった。

今、彼はスライムたちをぷにょぷにょしてリフレッシュしている、らしい。

……溶けないんだろうか、とふと不安になりはしたけど、あのスライムたち最近ナオを追いかけたりもしていないし、大丈夫、かも。

あれ? やっぱりあのスライムたち、知恵つけてきてない?

それはそれとして。


「複雑な魔法は、計算と同じですわ。ええと、ナオさんはまだ掛け算は習得なさっておられませんわね?」

「ええ。まだ習得する歳になっていないから。後で私が」


 代わりに私が答える。


「では……同じ数字での足し算を延々とするより、同じ数字であれば掛け算に置きかえれば数式が短くできるように、単純なものを別の同じ作用と結果をもたらす、整理しやすいものに置き換えて複雑な魔法を発動させることができる、という仕組みですわね」


 この説明を応用すると、複雑な魔法は、つまりは連立方程式だ。

三種類ならちょうどいい。

XとYが、それぞれの魔法。それを組み合わせて。

これはさすがにナオにとっては理解の上限を超えている。

だけど目を白黒させながらも、ナオは必死でついてこようとしている。


「複雑ゆえに、呪文だけでの行使は難しいのではないか、だからこそ、複数の外的要因によって手順の簡略化を行っているのではないかというのが、伯父の推論ですわ」

「たとえば、アイテムなり魔法陣なりで?」

「ええ。そのうちの一つでも見抜いて邪魔することができれば、第二第三段階で魔法を止めることができる、と」


 他の身体への誘導を断ち切る方法が使えれば、ナオのともだちを「生き返らせる」ためのリンクを切れるということでもある。

そのことはナオも理解できたようだ。

わからないが食いついて来ようとしていた顔から、にわかに不安さが消える。

ぐ、と力がこもっている。

ぽつりぽつりと教えてくれた話によれば、どんなにまともそうな暮らしに見えても、それは彼女たちの精神のバランスをとるためのものでしかないと思う。

あえて例えるなら、兵器の手入れ。

そんなところに、ナオが友だちを置いておけないと思うのは当然だろう。

私だってそうする。


「ただ、少し問題がありますの……」


 とても言いづらそうな様子に、私はあれだと悟る。

次の身体への導線の推論その一、魂の入る先の身体に、あらかじめ印がつけられているのではないかということ。

ナオをお風呂にいれたとき、そういったものはなかったし、聞けば起きた後でお風呂を使っていたというから、流せるもので描いたか書いたかしていた、ということは考えられる。

だけど、敵地に潜入しているような時に消せるだけの水を用意できるかといえば、そんなことできるわけもない。

必然的に、その行先の……まだ生きている身体を「どうにかする」ことになるだろうな、とは思ったので、そっとミラエステルにうなずき返すと、彼女もそっとうなずいた。


「……なにを、誘導に浸かっているかわかりませんの。ナオさんのご友人の場合、最悪の場合部屋そのものの破壊が必要になるかもしれませんわ」


 直接的には言わず、間接的に。

だからナオにはきっと、アイテムなりを目印としていると思われただろう。

……「それ」は私の仕事だ。


「いずれにせよ、現地に行くというのが必要になる、そういう理解で大丈夫かしら?」


 これ以上ナオに深く考えさせないようにと、私は言葉を続けた。


「ええ。重要なものであればあるほど、手元に置きたくなるのは当然ですわね。だからこそナオさんとご友人は必ず、『お城』の儀式の部屋で目を覚ましていたのでしょう」


 ミラエステルも、私の言葉に続ける形でうなずいてくれた。




 ひとまずは魂を守りながら、本拠を潰すしかなさそうだというあたりで結論となり、ナオは自分の部屋へと戻ることになった。

なにか言いたいことがありそうだったんだけど、彼女の中で上手く言葉にすることができなかったらしい。

言葉を出そうとしては、声にならないまま首を振っていた。

あとでゆっくり、お茶でも飲ませながら聞かなくちゃね。


 今は庭園の片隅で、東屋にいるアスターさんが皇女様とお話しているのをぼんやりと見ながら、私たちもしゃべっているところだ。


「いろいろ考えたんだけど、やっぱりやるしかなさそう」

「……ええ」


 殴り込みといいたかったのだけど、ミラエステルの語彙にあるかしらと迷って言葉を濁したけど、わかってもらえたらしい。


「んー……問題点が、いろいろ」


 まずやはり私が外に出られない事。

全力で(もちろん、そうすればまともな人間なら頭蓋骨が粉々だということはわかってるんだけどね)ぶん殴ってやりたいのに、手が届かないのがもどかしい。

それに、ナオたちの魂を誘導している部屋を知らない事。

なにより、おそらく『お城』の中央部に行くまでにどれだけの人間を相手にしなくてはならないか。

私は疲れないとはいえ……。


「それで、外に出ることに関して、少し思いついたことがありますの」


 ミラエステルが少し小首をかしげて私を見る。


「いつもお話をしているあのお人形のように、操作するゴーレムを使うのはいかがかしら? もし等身大のゴーレムであれば、動くのに不足は無いように思えましたの」

「ああ……」


 操作型のゴーレムは、命令設定するゴーレムよりも複雑な作業に向いている。

私が直接視界を使い、作業できるから。

そして、今使っているものよりも精度が高い物を作れば、本体なみに動けるかもしれない。

今までは作業用に大急ぎで作っていたから、……実質おしゃべり一号くらいだ、見目にも気を使ったようなのは。


「その手で行くわ、私」


 やることがひとつでも見えたら、それを足場、手がかりにして『私』の思考は安定する。

と、同時にしなくてはならないことを思い出した。

私は少し彼女に待っていてもらい、自分の控室に戻った。

手にはシオリの化粧箱。

ナオの部屋にしまおうとして、思い直して自室にもってきたもの。

……これこそが、シオリの棺に相応しいと思ったから。

読んでいただきありがとうございます。

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