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奥津城守の帰還  作者: みかか
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『彼女』の訪れ 1

 真夜中をずいぶんと過ぎ、そろそろ空の端が白み始めたころ……先ぶれとしてやってきた人が、見張りゴーレムのいるあたりで声をかけてくれた。

手を振って、来訪を知らせてくれている。

この間約束した通り、数日をかけてミラエステルがこちらにやってきた。

ダンジョンの管理者は、ダンジョンを離れられないんじゃないかって問題は、『彼は誰の城』はうちとはシステムが違うらしく、彼女は割と自由に動けるらしい。

ただやはり、彼女の生命とダンジョンは連動しているらしく、守られる立場であるとのこと。

護衛としても何人かが同行しているらしいのが見えた。


 普段ミラエステルの所から食料品が届くときは、連絡があってから一日くらいたつと、人ではない人、人の姿をしているけれど、どうやら人そのものではない人が先ぶれをしながらやってくる。

入り口からスライムたちは出て行かないので、外から呼びかけてくる形だ。

どうも近くの街から運んでくれているらしい。

私が中のスライムたちをおさえてから返事をすると、中に入って荷物を置いていってくれる。

今回は遠方からだから、しばらくかかったらしい。


「はぁい」


 返事をしてから、あまりにも地球風の返事だったことに気づいた。

まるっきり宅配便が来た時の反応だわ。

急いでエントランスに出ると同時にスライムを退かせ……あれ? いない。

てっきり待ち伏せでもしてるものと思ったのだけれど、片隅に積みあがってプルプルしてる。


「入ってもよろしいか」

「どうぞ。それからようこそって、ご主人にお伝え願える?」


 ややあって入り口をくぐったのは、どうやら獣人らしい。

ゾトによく似てるけど、マズルが長く、耳が大きい。

狼らしい。


「奥津城の守り人よ、歓迎を感謝する」

「ご主人様、どうぞ」


 つづいて現れたのは、背の高いメイドさん。

旅装の彼女に手を引かれ、旅装のドレスに身を包んだお姫様……私の友人が現れた。

その後ろにももう一人。

今度は背がさらに高く、黒づくめの、絵に描いたような吸血鬼の男性だった。

なるほど、この人が「魔法研究をしている伯父さん」のアスターさんなのだろう。

アスターさんは興味深そうにエントランスを見回し、壁際のスライムを見つけて目を輝かせた。

その姿は、「絵に描いたような吸血鬼」が一気に崩れる無邪気な様子で、ほほえましくさえある。


 ミラエステルが私を見て微笑んだ。

人形の大きさからじゃない、というだけでちょっとだけ緊張する。


「おひさしぶり。それからはじめまして。彼は誰の城の主、ミラエステル=ロクサーヌですわ」

「ようこそ、我が主人の庭へ」


 友人相手とはいえ、ダンジョンの管理者らしさを失わないように気を付けながら、先導して庭園の扉を開く。


「皇女の奥津城の管理者。名は無いので、その点はご容赦を」


 そして、中で佇む……おぼろな光をまとっている皇女様を前にして、ひざまずく。


「そして我が主人、皇女エレイラナ殿下です」


 皇女様は静かに微笑んで帝国式の身振りでの挨拶をした。

応えるように、ミラエステルもカーテシーで挨拶をする。


「はじめまして。皇女様におかれましては、ごきげんうるわしゅう」


 ナオが起きていたなら、お姫様同士の挨拶に感激していたかもしれない。

薔薇をはじめとしたありとあらゆる花が咲いているようにも見えていたのだから。




 実はミラエステルから来訪の話を聞いてから、どうするかを考えていた。

改めてダンジョンの庭園を見回して、気付いてしまったのだ。

……ここに、あんな城に住んでいるミラエステルを、呼ぶ?

毎日庭師ゴーレムが庭園を整えてくれているし、掃除も欠かさない。

ダンジョンの内部も、スライムが綺麗にしてくれている。

だけど、それとこれとは話が違う。

夜のお茶会を何度もやっていたけど、それを私が覚えているものだから、その違いというものを自覚してしまっていた。

シオリまでの『私』だったら、比較は不必要なことだから、考えもしなかった。

人間生活を学習してしまった弊害といえるかもしれない。


 そもそも、おもてなしに向いていないのだ。

人としての生を終えた、皇女様の城たる、このダンジョンは。

来訪者といったって、はるか昔、帝国があったころにお参りに来た人たちくらいのもの。

ゾトたちはお客さんではあったけど、元々避難民を一時滞在させてたのに近いかたちだったし、それがあったから半分野外みたいな庭園でも不満は言われなかったんだろうけど……。

いうなれば、初めて友だちが家に来る……いや、もちろんそんな高校生の時みたいなものじゃないんだけど。

お茶を出すにしたって、私の手元にあるものは、彼女に貰ったものだ。

茶器だって、木のカップを石化させるのがせいぜい。


 それに、前に彼女は、シオリのお墓に参ってくれるといっていたけれど、それらしい物を私は造っていない。

シオリの【残り】があるだけだ。

しかも、彼女の最期の場所も、客人を通せるようなところには無い。


 いつでも、とは行ったけれど、そういえば私、元から友だちを家に呼んだことあんまりないな……?ということに気づいてしまった。

もっと友だちづきあいについて、学習しておけばよかった……!

後悔は、あとからやってくるから後悔、ってのは正論だ。


 色々ぐるぐる考えていたら、ナオが不安そうにこっちを見ていた。


「お姉ちゃん、お客さん……こわい、お客さん?」

「ううん。私の友だち。ほら、いつもご飯を送ってくれている人だよ」


 そこまで言ってから、また別の事に気づく。

ナオがお客さんに「こわいひと」がいることを知ってる……?

いや、まさかね。


「来てくれるなら、せっかくだし気持ちよく過ごしてほしいなって、いろいろ考えてたの」

「じゃあ、私もおそうじとかする?」

「いいよ。大丈夫。それより皇女様に、また地球の話をお聞かせしてくれる? ガチャガチャの話とか」

「うん!」


 かけていくナオを見送って、ふとひとつ思いついた。

東屋をひとつ、新しく作るのはどうかしら?

ミラエステルも、さすがに来てその日のうちに帰るということはないでしょう。

彼女の過ごせるような場所を庭園の中に作る。

ここの『空』の仕組みを知っている私には、それはとてもいい考えのように思えた。

読んでいただきありがとうございます。

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