かんがえごと
ゾトから、また石が届くようになった。
石に添えられた手紙によれば、新しい街づくりは山を掘るところからだそうで、その際に出る石のうち大きなものを私に出せるとのことで、私との商売は鉱山においても喜ばれているそう。
また、例のゴブリンについても情報をくれていた。
帰って間もなくの夜に、灯りも持たず山に近づいてきていたところから、暗視ができるのは間違いなく、手には道具を持ち、見張りのコボルトを見るなりギャアギャア喚いたそうだから、威嚇でもしていたのでは、と。
数をたのみに見張りを抜けて、鉱山内部に入り込もうとしたが、人間の襲撃に備えて作っておいた扉がおおいに役に立ち、山内部そのものへの侵入をされる前に潰せたらしい。
今後も夜間は扉を閉め、夜番の数を増やすことにしたという。
ひとまずはゾトの方もこれで一安心だろうか。
そういえば、と私は手紙から顔を上げた。
庭園の中の植物はそろそろ色づき始めたものもある。
外に出ないので忘れていたが、季節は確実にめぐっている。
……そのことに、私は改めて焦りを覚えた。
ナオを地球に戻す手段については、前に『私』が私を地球に送った術式や、シオリの遺したカードを手掛かりにできるだろう。
術式はちゃんと残されているし、魂だけを送り返すなら、肉体とともに送らねばならないことに比べれば比較的簡単なはずだ。
けれど、ナオの友だちという二人をどうやって救うか。
二人の子どもは、今も『王都』でゲームの主人公を演じさせられているだろう。
ナオの話を聞く限り、厳重に、外の世界を見せないようにしながら。
十重二十重というけれど、それくらいの『過剰包装』の中にいると予想はつく。
その上、二人とも洗脳みたいなことに少なからずなっていることも考えられるから、おとなしく従ってくれるとは考えにくい。
そしてナオ自身のことにもなるのだが、下手に体から魂を抜けば、例の復活の部屋に直行させられてしまうのも、予想できる。
その誘導をどうにかしないかぎり、抜いた傍から子どもたちを他の体へと奪い返されてしまう。
『王都』、ひいては『お城』に突入なりできるようになれば、……いっそ城ごと潰してやろうかとさえ思う。
やろうと思えばできてしまうのが、『私』たちの体の怖いところ。
この点において、今障害になっている『私はダンジョンの外に出られない』という事項がブレーキにもなっている。
救いは、ナオ自身はそんなに焦っているようには見えないこと。
あの子は賢いから、私にそう見えないように振る舞っているだけかもしれないのだけれど。
「おねえちゃん」
「……どうしたの?」
「教えて」
ぼんやりとしていた私に、そのナオが声をかけてきた。
出してきたのは、あの部屋の本。
もともとあそこはシオリの倉庫で書庫だったから、彼女の本をそのまま置いていた。
元々ナオたちは自学自習にちかい形でこの世界の文字をおぼえたらしいのだけど、改めて教えると、すいすいと覚えて行った。
ああ、子どもの学習ってこうだったわと思い出したりしたものだった。
先日のゾトたちの来訪のとき、ナオは仔ドラゴンの相手をしながらでも、あの書棚の本を読んでいたようだった。
私が持ち出していた初歩の魔法の本以外にも教本はいくつかあったらしい。
しかしながら、出してきた本は高等レベルの魔法の教本。
その中の召喚魔法のページだった。
「これ、難しいよ?」
「うん。でも、こっちの魔法は覚えてるから」
「……え?」
私はあらためて、ナオに彼女が覚えている魔法を訊ねてみた。
出るわ出るわ、上級の攻撃魔法。
範囲魔法も、えげつないのを取り揃えている。
こんなの軍属の、それこそ戦闘開始と同時に敵陣に叩き込むような、生きてる固定砲台にするようなものじゃない。
そのくせ、その前段階のものであるとか、初期に練習用に覚えるような、たわいない害のないようなものは、無い。
ここに来る前に覚えたっていう、身体強化魔法。
それだって他の攻撃魔法と比べたら、レベルが低い方に違いすぎる。
まるで強化をし過ぎたら、ナオたち本人を抑えられないとばかりに。
英才教育とか、そういうきれいなものじゃない。
『賢者様』とやらは本当にこの子を……この子たちを、兵器にしてたんだ。
「おねえちゃん?」
「ううん。大丈夫、わかるわ。ここよね?」
「うん、そこの一声のところ読み方がわからないの」
考え込みすぎて、ナオを不安にさせちゃった。
いけないいけない。
ナオが覚えたい召喚魔法……ゲームでもよく見かけるタイプの魔法。
ただしこの世界のものは、ゲームと違って別世界から呼ぶものじゃなくて、あくまでも手元に引き寄せる「アポート」に近い性質のもの。
「これ覚えたら、ナツノ君をいつでも呼べるようになるし、こっちに来る時間を使わなくっていいかなって」
「なるほど。……あ、なつの君って、あのドラゴンの名前?」
「うん、訊いたら教えてくれた」
仔ドラゴンことなつの君は、ナオの名前を訊くことはなかったらしい。
「そうねぇ……。でもこれは物とか、眷属……えーと、自分のペットみたいなものにしか使えないよ?」
そう言うと、ナツノ君に首輪つけるのはだめだねぇ、とナオが笑った。
「逆に、物なら手元に呼び寄せられるから、忘れ物をしたときとか便利よ」
「うん。落し物しちゃったときとかも?」
「あ、それは絶対おぼえときたい」
たぶんこの教本を作った人間は、そういうことは考えてなかったろうなと思いながら、ほんの少し、この子に物騒な魔法ばかり教えた奴に意趣返しができたような気がした。
読んでいただきありがとうございます。




