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騒動前:01:ぶっ飛ばすのはドイツ連邦共和国ではないでしょう

一万pv、100件のお気に入り突破!

そのうちアンケートを配置しますので、よろしくお願いします^^



 いつもは気にしてなかった、頭から爪の先までの身支度。昨日より少しでも綺麗に見られるように、恋する乙女は細かいところまで気遣うのだ。……なんだそう言うと、自分が目が合っただけで頬を染める少女漫画主人公になった気がするけど、やっぱり乙女とか無理だわ。どっちかっていうと、漢乙女と書いておとめ呼べそうな感じだわ。


 鞄につけているキーホルダーを揺らして数十分、教室に着くと、既に花島が着ていた。その周りに毎日引っ付いていた友達と取り巻きがいない。彼をいないものとして気にせず談笑している。日頃を知らない生徒じゃなければ、ただ孤立している人にしか見えないだろう。


「村島ー、おはよう」

「おはよう中野」

 挨拶してくる親友に挨拶で返せば、ニコリを笑う。

「中野、ちょっといい?」

「はいはい? おお、人気のないところで襲われちゃう」


 ふざけたことを言いながら私に連行された中野、職員室の前につくまで問答無用で引きずった。引きずられながら「襲われちゃうー」と中野が連呼していたためか、此処にくるまで視線が痛かった。百合とでも思ったか、残念だったね。


 この学校の職員室には、人が来ない。『La Folia-枯れた花のさき-』は、乙女ゲームにしては珍しく教師の攻略対象がいないので、用がある生徒しか来ない。この時間なら、既に教師は中に入って会議をしているし。


 私の手から解放された中野は、掴まれていた腕を「痛い痛い」とさすりながら笑う。冗談ばかり言う親友は、これから聞く質問の応答次第で――敵だ。


「あのね、中野」

「なあに、村島」

「アンタはさ、昨日の花島をどう思う?」

 顎に手を当てて考える。

「めんどくさそう……」

「期待通りの答えをありがとう、安心したわ」


 私の大の親友は、昨日のカンニングの濡れ衣を濡れ衣された事件を、面倒くさいと称しましたとさ。その犯人に仕立て上げられたのは私の好きな人なんがね。


 ……でも、これで安心した。

 中野は味方にもならないけど、敵にもならない。


「じゃあさ、中野。これから私、花島に付きまとうから」

「あんらー、ストーカー化?」

「そしたら絶対、私も孤立するのよね。分かるでしょ、巻き添え」

「ふんふん」

「だからさ、中野、アンタ、私と花島がまたクラスに馴染むまで、一度も話しかけないで。絶対に、一度も、よ?」

「オッケー、了解了解」


 あっさりと。予想通りあっさりと納得する。ここで偽善じゃないけど、「私も一緒にいるよ」なんて言われたら興ざめどころの話じゃない。軽い覚悟で仲間ヅラしてんじゃねえ、ってキレるところだ。


 親友にしては友情を感じられない、なんてことはない。ここで私の言うとおりに、これから一切話しかけてくれないことのほうが、私には友情を感じる。

 始めから、中野はこういう人物だ。事勿れ主義の上に、面倒くさいことは嫌い。また何かに執着することがない。しても軽いものだ。

 こうして、あっさり離れて、またあっさり傍に来てくれる中野こそが、難ありの私の親友だ。……正直、中野のこと凄く好きな私としては、ちょっと辛いけど。


 まあ、これも花島のため。打倒、悪女ヒロイン。罵倒、攻略対象。

 ええ勿論、宣言通り攻略対象も罵倒で撃退しやがりますけどもね。


「で、私がいいって言ったらまた話しかけて来てね」

「おけおけ」

「その時は未来のダーリンである花島も宜しくして」

「あらら、まじか。了解よん」


 んじゃあね、と言って一人で教室に帰って行く。私は一人残された職員室で、職員会議を盗み聞きする。落ち込んでいる花島に話しかけに行くのは、まだ後だ。

 なんせ今の会議は、カンニングの濡れ衣を着せたとされている、花島亮介についての議題だから。


「彼は日頃いい子です。成績は悪いですが、他人を貶めてまで自分の順位を上げようとするほど気にしてもいませんでしたし、対人関係で何か不自由なことがあったようには思えません」

「そうですね……いくら証言があったとかいえ、自白は勿論その現場を見たわけではないですし、被害にあった松阪くんが直接言ってきたわけではないですし……」

「第一は松阪くんの判断でしょう。本人が傍にいるのが嫌と言うのなら、やはり厳しい処分が必要になりますし……」


 成程、本当なら退学ものなのだが、日頃の態度や人気もあり、一つの証言だけでは退学は難しいと。そこは流石花島と言うべき、彼が悪役でなかったら、顔だけなら凄くいい九重那智のような美人と恋人になっていただろう。今となっては相手を飛び蹴りしてまで阻止するけど。


 というか、証言した生徒がいるのね。もう少ししたら二年全体に広まるだろうけど、今はまだクラスメイトとちょっとくらいしか知っていないはずだ。二年に知り合いがいなかったり、知る機会がなかったら、結構こういうことでも知らないままの人もいる。そもそも人気者と言っても、クラスと部活くらいで、他の攻略対象のように目立っているわけでもないので、知らない人は花島の存在すら知らない。「その人誰?」の人もいるのだ。


「まだ時間はある、ね。でも急がないと危ないのは変わりないし」


 いくら証言のみと言っても、クラスではその証言も証拠もあるし、広まれば退学となるのは時間の問題だ。用無しの悪役は退場、ヒロインはめでたしめでたしを楽しむ。ゲームではそんなんだけど、現実じゃ高校退学が未来に影響もするから。花島が退学になるまでに、前のようにクラスメイトに退学してほしくないと思うほどの人気者に戻すか、濡れ衣を着せられた攻略対象に退学を止めるように進言して貰うか、その事件さえなくしてしまうかしなければならない。


 一番楽なのは、攻略対象の説得だ。濡れ衣を着せられた攻略対象はヒロインの幼馴染で、かなり男前な性格をしている。通常ならば教師が言ったように気の迷いですむけど……今じゃどうだろう、ヒロインの信者化しているかもしれないから。取り敢えずは今日の反応を見ないといけない。


 ……教室に戻るか。

 もうすぐチャイム鳴るし、教師たちの意見も聞くことができた。そろそろ一人寂しい子犬花島に話しかけてやるか。


※※※


 教室に戻ると、ヒロインである九重那智と攻略対象が既に登校し、談笑していた。ヒロインは私とクラスメイトなどではなく本当は隣のクラスなのだが、攻略対象の一人がこのクラスにいるので堂々と入ってきているのである。しかし談笑している中に、一昨日のように笑っている花島の姿はない。中野と話す前と同じように、一人で俯いている。暗い暗い、ドナドナが流れてそうなほど暗い。話しかける気萎えるー。

 しかし子犬花島は暗くても可愛い。犬の尻尾が垂れている幻覚が見えなくもない。


「おはよう、花島」

「あ、!」

 私が声を掛けると、目を輝かせてバッと顔を上げる花島。微笑ましい。

 しかし、それと同時にクラスメイト全員――いや、中野以外の視線が集まった。気にしないフリ。

「あのさ、ずっと言いたかったんだ」

「……な、なに?」

 会話が嬉しいのか声が上擦っている。そのいろんな期待をぶち壊す!

「昨日、アンタが声かけた所為で、家で飲む牛乳がなかったのよね。あの場所で飲みきっちゃってさ、今日一個二個奢ってよ」

「まじか!」

 ショックを受けたように、ガーンという効果音がつきそうなくらい大袈裟に口を開ける。漫画だったら目の下に縦の三本線が書かれていたことだろう。

「あとさ、ついでにパンとアイスと板チョコと飴とお握りも奢ってくれる?」

「ついでの方が多いぜ、村島……!」

 財布絶滅の危機、とか言って、さっきとは違う意味で顔を伏せる。ゾクゾクしちゃう。


 うーうー唸っている花島と平然と話をしている私。まわりから見たら意味不明で理解のせきない行動だろう。中野のように私を知っていない人間は、目を見開き唖然としている。まあ、それもそうだろう。昨日まで、私たちは苛められているのを庇うまで親しくしていたどころか、一日に一言話せばいいというくらいだった。だからと言って視線に怯み、会話をやめるわけではないが。

 暫くすると、我に返ったクラスメイトの一人が声を出す。

「――――何、村島、花島のことパシってんじゃねえよ!」

「おいおい、可哀想だろ?」

 明るい声に期待の籠った目で私を見上げる花島。ただ現実は、これで友情が修復されるほど簡単ではない。

 そのクラスメイト――寄ってきた男子生徒三人の内一人が、花島の肩を抱く。

「でもさ、なんなら俺のも買ってきてくれよ」

「な、村島がいいんだったら、俺らもいいよな?」

 三流悪役か貴様ら、いい度胸だクソども。

 真っ青になって縮み小さくなった彼は可愛いが、やはり私以外の人間に苛められていると思うと腸が煮えくり返って灰になっても焼かれるくらいの激情が湧いてくる。


「――――あのさあ、」


 っていうかさ、ずっと我慢している私って偉いと思うんだよねー。

 優しくって敵わないっていうか、この教室にいる中野と花島以外の生徒は私を崇め奉るべきだと思う。


 ほら例えば、止めようか迷っても困惑してまったく動きそうにない、件の攻略対象で九重那智の幼馴染、松阪寛人とか。

 どのタイミングで止めれば一番花島の印象に残るか、それでどれだけ惚れこまれるか計算している九重那智だとか。


「私以外が花島を苛めないでくれるかな、クソ野郎」


 足を振り男子の腰あたりを軽く押せば、不意を衝かれたソイツが簡単に倒れる。背後にあった誰かの机にぶつかり、その机を巻き込んで倒れたためか、結構大きな音が響く。


 驚いたクラスメイトの中で、一番に動いたのは同じように花島に迫っていた、ソイツの友人らしき生徒。


「何すんだよ村島!?」

「煩い、騒ぐな。そんくらいでゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ。――そもそもちゃんと忠告したじゃない、花島苛めるな、って。……今だけど」


 さて、ドイツからぶっ飛ばそうか?



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