124話 不死身⑨
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「うぇっ!!」
そんな見るに耐えない光景に、ラヒムは目を背けて、路上に突っ伏して吐いた。
「...ひでぇ」
ラヒムの反対側で化け物に向かっていたシシャモも、その光景を見て、悪態を突きながら、気分がとても悪くなってくるのを感じていた。
「何よ...何なのよぉ....」
敵である化け物とて、ラヒムとシシャモが感じている不快感を共有していた。
何故、よく日曜朝に放送しているような特撮番組で、ヒーローの変身シーンにて敵が攻撃してこないのか、理解できた気がする。
確かに相手は今、隙だらけなのだが、そんな闘志を粉々に打ち砕くほどに、目の前で起こる惨状は筆舌尽くし難いものがある。
ただの男の裸体でさえ、それを見ると言うことは唾棄することであるが、しかも、それが宙に浮かび、しかも白い光を纏っているとなると、これはもう名状し難い光景であった。
「うぷ...卵さん...公然猥褻罪ですよ...」
ラヒムは口を必死で押さえたり、拭ったりしつつ、仲間を非難する。
「仕方ねぇだろ...俺だって、まさか、こうなるとは思ってなかった...」
その非難に惨状の原因である卵が、少し申し訳なさそうに答えた。
しかし、その惨状もやがて、やっと見るに耐える物に変わってきた。
一端全裸になった卵の体に、甲冑が浮かんで、彼の体に装着されだしたのである。
丸い甲を支えるように銅鎧が、2つに分かれながら、彼の体を覆い、金具で固定される音がすると、続けざまに具足や籠手が浮き、銅鎧に繋がった。
そして、装着が終わると、白い光を纏ったまま、卵は地に足をつけて、腰に差してあった、戦闘用ピックを両手で握りしめ構えた。
ラヒムも先日まで、卵が身に纏っている甲冑を見たことがあったが、現在、彼が着込んでいる、その卵のような丸い形をした甲冑はとても新鮮味に溢れる物であった。
錆果てた間接部は、錆一つ無く磨き抜かれ、輝き。
首元にて、甲の動きを支える鉄枠は、やかましい音を立てることなく、彼の首の動きを滑らかに促す。
巨大な卵に手足が生えたような、歪な外観をしてはいるが、手足の付け根に備えられた、丸くて幅の広い肩当てなどは、その歪んだ形状を、自然で勇ましく魅せている。
そして、何よりラヒムが先日に見た、甲冑と違う点は、まるで甲冑全体に絡みついて包み込むように彫られた、蛇の紋章であり、その蛇の頭部は甲の頂点に位置して、蛇の両眼には血のように、紅く輝く宝石が二つはめ込まれており、その宝石が白い光を吸収し、妖しく光っている。
「...新品の着心地はどうだ?団長」
それを眺めつつ、吐き気をようやく克服したシシャモは、卵の姿を頼もしそうに見ていた。
「...相変わらず暑苦しいな」
「だろうな」
卵の現実的な感想に、シシャモは愉快そうに笑った。
そして、目の前の化け物に対抗するべく、彼は素早く、先ほどバックスが灰になった際に取り落とした細身の剣を、拾い上げて中段に構えた。
「...おい。鳳凰騎士団のマールとやら」
卵は、悠然としてピックを構えつつ、目の前の化け物へ一歩踏み出した。
「改めて...俺も名乗らせて貰うぞ...」
そう卵は甲の中からくぐもってはいるものの、できる限り誇らしく言葉を紡ぐ。
「俺は巫女の防人であり...依然としてその、長を勤める者...血塗れのハンプティ・ダンプティ...」
卵は本来のキャラクター名を名乗るのは、あまりに恥ずかしかったので、今回は昔よく言われた二つ名を使うことにした。
「卵かけご飯...じゃなかったんですか?」
だが、せっかくのシリアスな場面を台無しにする一言を、容赦なく横からラヒムが言った。
卵は、この戦闘が終わったら、真っ先にラヒムを小突いてやろうと、甲の中で表情を引き吊らせた。
「...副団長の千本槍...レビヤタン...」
「シシャモでしょう?」
続けざまに、シシャモも通り名の一つで名乗ろうとしたが、それさえもラヒムに邪魔された。
シシャモも卵同様に、これが終わったら、ラヒムを蹴ってやろうとあからさまに、顔を引き吊らせた。
「...まぁいいや。名乗るなんてやっぱり柄じゃねぇや」
「そうだな...」
二人はため息をついて、得物を構えた。
その一連の流れを、親切心で見終えた化け物は、どこと無く二人に同情を感じつつも、炎を纏う翼を天高く掲げ
「...いいでしょう。掛かってくるといいわ。...灰すら残さずに燃やし尽くしてあげる」
威厳を持って構えた。
先に仕掛けたのは卵であった。
ピックを振り上げつつ、威勢を上げて化け物へ突っ込んでいく。新たな甲冑は重さは変わらないが、間接部は素早くピックを振り上げる動きを、滑らかに補助した。
「何も学習しないのね」
その卵が突っ込んでくるのを、あざ笑うかのように、化け物は片方の翼を、盾にするかのように、突っ込んできた彼の前へ突き出した。
今まで、その盾を崩せた者はおらず、誰しも炎に飲み込まれて灰となる。
そして、卵は今までの無謀な者と同じく、ピックを翼へ振り下ろした。
振り下ろした瞬間、翼は細かな炎となり、敵の体を容赦なく包み込むことを化け物は知っていた。
だが、その振り下ろされたピックは、炎に包まれることはなく、逆に包み込もうとする炎を退けて、まるで小切れを斬るような勢いで、化け物の翼を両断した。
「っ?!」
それを見た化け物は慌てて、腕を引いたが、既に翼の先端を包んでいた炎は、化け物の体を離れ、宙に舞うと、燃え盛っていた炎が一瞬にて消えた。
「なんだ!やっぱり利くじゃないですか!」
それを見たラヒムは、先ほどの卵の言葉は嘘であると叫び、熱狂する。
「...加護か」
だが、熱狂するラヒムとは対照的に、シシャモは冷静に一連の動きを、観察している。
「何故だ?!我の体に...」
思わず化け物は狼狽し、片翼の先端を失いながらも、接近する卵を払いのけようと、翼を激しく羽ばたかせた。
その瞬間、周囲に炎の柱が音を立て出現し、近づいてきた卵の体を一瞬の内に包み込んだ。
「燃えろっ...燃えるがいいっ...」
化け物はその炎に包まれた卵が、ロストすることを祈るように叫んだが、柱の中から、卵が勢いよく飛び出してきた。彼の甲冑には焦げ跡一つ見受けられない。
それを見て、化け物は一層狼狽を強くし、その隙を見て、やはり攻撃が効くのだと錯覚したラヒムが、化け物の脇腹へ短剣を鋭く投げつけたが、それは呆気なく炎に飲み込まれ、返ってこなかった。
「どういうことだ...これは...」
ラヒムの奇襲を無視しつつ、化け物はこちらへ迫ってくる卵へ、落ち着かない言葉を投げかける。
「...所詮。お前が使っているチートはその程度だってことさ」
その言葉に対し、卵は化け物の懐に飛び込みつつ、不敵に言い放った。
『お前...裸ってよ...いや、なんでもない。忘れてくれ』
傭兵組合所属~千里眼のグバ




