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Lamia?  作者: mo56
第1章 放浪にて
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121話 不死身⑥

 「副団長...」

 バックスが決死の奇襲を行う寸前まで、ニッキは彼と同じように物陰に隠れて、怪物が隙を作り出す瞬間を待っていた。

 だが、先ほど怪物が卵にトドメを刺そうとしたとき、本当はバックスもニッキもその隙を襲おうとは考えていなかった。

 本来、卵の存在など二人には心底どうでもよかった。

 あんなハゲデブなど何人ロストしようと一向に構わない。問題はあの怪物が如何にして卵にトドメを喰らわした後に、シシャモに攻撃を集中させる際に隙を突くかであった。

 だが、卵がうめき声をあげた時、バックスは居ても立ってもいられなくなり、思わず怪物の背後へ走っていった。

 何故、そのような衝動に駆られたのかはわからない。

 先ほどまで、何故あのハゲデブが元上司に信用されているのかバックスはわからなかった。

 だが、ここ数日あの男と同行し、常に感じたことは、彼が大事なムードメイカーであることだった。

 バックスは走り出した瞬間に何故、先日ロストした己の元上司であるフレークがあの男が、凄い存在であると言っていたのをやっと理解した。

 彼はこんな残酷で有害であるゲームの中において、それを暖かく正当化させてしまうような雰囲気を持っているのだ。主に彼自身の失態ばかりであったが、ここ数日何かと笑えることばかり、彼はしでかしてきた。

 

 あの男はきっと、風体の割にマスコット的な存在なのだ。

 確かに、クロスボウの腕や、ピックの扱いがとても長けているとは言えない。だが、それらを差し引いてもあの男が気さくで、どこか憎めない雰囲気を醸し出しているのに今やっと気づいた。

 今ここで彼をロストさせてはいけないと、バックスの心のどこかで何かが囁き、体を突き動かしたのである。

 

 だが、結果はあまりにも無惨であったことは、そんなバックスの急な心情の変化を知らないニッキの瞳に、まざまざと写っていた。

 「灰になっちまった...」

 そうニッキは大きな体を震わせながら呟き、その彼女の傍らにて、共に隠れて隙をうかがっていたユエが言葉にならない恐怖を震えで表している。

 「畜生...殺してやるっ」

 ニッキは恐怖を振り払って物陰から無謀にも飛び出そうとしたが、それをユエが体を震わしながらも、必死で彼女の足を掴んで止めさせた。

 「離しなっ!チビ」

 「ダメっ...ニッキさんも殺されちゃう...」

 「だが、副団...バックス殿が灰にされたんだ!このまま見過ごせるか!?」

 ニッキはこのときばかりは、慎重にユエに専用チャットで怒鳴りつけたが、小柄な彼女はニッキの足を掴んだまま離そうとしなかった。

 「大丈夫...きっと勝てるよ...私にはわかるもん」

 そんな当てもないことをユエは真剣に言いのけて、まるでニッキよりも、自分が遙かに大きい存在かのような眼差しで、彼女を見上げた。

 その顔には不安げな色は一切無く。

 ただ純粋で静かに、勝利を確信している何かがあった。

 それが一体なんであるのかニッキにはわからないが、一応護衛対象であるユエの命令では、仕方がないと、この場限りは柄にもなく我慢することにした。

 「じゃ...どうやってあのチートの化け物を倒すのさ?」

 ニッキはそうユエを見下ろしながら、どこか当たり散らすかのように言った。

 それに対して彼女は呟くように

 「巫女の加護があるの」

 そう一言、静かに言った。



 「うぉぉ...」

 目の前にてバックスの灰が散りゆく光景を眺めながら、卵は必死にその場から逃げだそうと体を暴れさせた。

 だが、重い甲冑は相変わらず彼の体を束縛し、地面に縛り付けたままである。

 「変な邪魔が入ったけど...まぁいいわ」

 怪物はバックスの灰を払うと、卵の方へ向き直った。

 顔には殺戮の笑みが浮かんでいる。

 廃人野郎と卵は叫びたくなったが、生憎そんな罵声を打ち込むことで、起きあがる作業を中断したくなかった。

 「ま...待てよ。お前、俺をロストさせて一体なんの特になるっていうんだよ?!」

 しかし、以前から気になっていたことを聞くにはちょうどいいと卵は思い、暴れながらも片手を怪物へ突きだして、哀れみを誘うような文を打ち込んだ。

 「...いいわ。せっかくだし、答えてあげましょう」

 その卵の言葉が通じたらしく、怪物は一端卵へ伸ばした炎の手を止めて、口を開いた。

 卵のすぐ近くにはシシャモもいるが、素手では怪物に立ち向かいようがなく、今は怪物の言葉を聞くしかなかった。

 「今度はちゃんと最後まで聞けるわよね?」

 怪物はまた勝ち誇った笑みを浮かべながら、卵を見下ろした。

 マゾな性癖ならば、こういう光景も悪くないのだろうと、画面の前で井出は思ったが、生憎自分はマゾではなかった。

 「...私たちは、以前にあなた達が騎士を壊滅させた事を恨んでるわ。どんな事情があるかは知らないし...知りたくもない。けどね...あなた達が誘拐した巫女が一番重要なのよ」

 「巫女?」

 「...とぼけないで。本当は全て知ってるんでしょう?」

 「...俺は知らねぇ。...シシャモだってわからないよな?」

 「いや、多分お前だけだ。状況が掴めてないの」

 卵は必死にシシャモに話を振ったが、彼は何故か冷めた目を卵に返した。

 「いや、だって巫女がどうとかなんて、最近話題にのぼったぐらいで...なぁ?」

 「お前が一番のキーキャラの癖に覚えてないのかよ?」

 「覚えてねぇよ!数年前の事なんてよぉ!バイト探しで大変だったんぞ?!」

 「あぁ。コンビニの」

 「そうだよ!コンビニの...面接受かるまで大変だったんだぞ!てめぇ!」

 いつの間にか卵は、重い甲冑のせいで首が回らなくなり、自然と目の前で呆気にとられた顔をしている怪物をみて話していた。

 きっと、目の前の怪物を操作しているのは、どうせ働いてもいない廃人プレイヤーなのだろうと、卵は勝手に決めつけた。そんな奴に俺の苦労がわかってたまるかとも思った。

 本題からどんどんズレていってしまってるが、関係なかった。

 「...面接?」

 「あぁ!接客業なもんだから、強面だとダメだと店長の奴が...今時そんな事、気にする奴なんていねぇよな!」

 本題からズレてしまったばかりか、卵は全くこの場に関係ない怒りを、目の前の怪物にぶつけ始めた。

 それを見て、傍らでシシャモがクスクスと笑っているが、怒りだした卵にそんなことはどうでも良いことだった。

 「明日もバイトがあるっていうのによぉ...俺を寝かせないつもりなのか?!」

 「いや...それは自己責任じゃぁ...」

 「黙りやがれ!不死鳥だか七面鳥だかしらねぇけどよぉ...ネトゲは現実があってこそ楽しいものだろうがぁ...」

 「え...いや...」

 「もういい!俺は落ちて寝るぞ!いいよな!?」

 どことなく駄々っ子じみた卵の怒声に、怪物はしばらくどう対処すればいいのか、わからなくなった。

 唯一、シシャモだけがこの場において冷静に現状を面白おかしく見ていた。

『つい熱くなりすぎて、リアルな事を口走るな?場が冷めちまう』

追い剥ぎ組合所属~ベニッド

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