116話 不死身
「この人殺し!」
そうニッキの叫び声が路上に木霊した。
一体これまで彼女自身、何人ほどロストさせたかわからないが、お前が人のことをいえるのかと、思わず卵は反論したくなったが、彼女の形相が尋常でないので、ここは静かに返答するしかないと、クロスボウに矢を装填しながら思った。
「まぁ確かにそうだが、この女はリビじゃない。偽物なんだ」
「なんでそんなことがわかる?」
「だって、このまえ片腕を喰いちぎれたのに腕がありやがる」
「...回復したかもしれないだろっ?!」
「そういうゲームじゃねぇだろうがよ」
卵に諭され、ニッキは目の前で路上に転がっているリビの死体を一瞥したが、すぐに卵の方を向き、激しく噛みついてきた。
「...じゃあ義手だ」
「じゃあってなんだよ...。そんな短期間で義手なんて用意できないだろうが」
「腕の良い鍛冶屋がいたんだよっ」
「いい加減なこというなや」
何故ニッキがそれほどまでに怒るのかわからないが、義手であるかないかは確認すればすぐにわかると、横からギレットがリビの死体へ近づいた。
「...義手じゃねぇな。本物だ」
慎重に槍を構えて、少し死体を突っついてから、死体の袖を捲ると、そこには確かに死んではいるものの、綺麗な白い肌をした生身の腕が覗いていた。
確かな証拠が現れた以上、これ以上ニッキが怒る理由もなくなり、彼女は少々呆然と死体を眺めながら、呆けた調子で口を開いた
「...この女は一体誰なんだ?」
「そんな事知るもんか」
ギレットは適当に死体を調べ尽くすと、死体の側に突っ立って、ニッキと同じく呆然としているユエの方を見た。
やっと姉と再会できたと思ったのに、まさか偽物だとは夢にも思わなかったろう。
「...まぁ元気出せよ」
そう呆然とその場に立ち尽くしているユエに対して、卵は慰めの一言を言って、肩に手をおいたが、やはりセクハラだと払いのけられた。
「ちっ...とにかく長居は無用だ。このまま宿場街にいこうや」
妙に卵が近寄ると気丈になるユエに舌打ちをしながら、卵は皆に見回しながら言った。
「それはいいが、ミダズはどうする?」
「...忘れてた」
それに対してシシャモが冷ややかに言うと、卵は面倒くさそうな顔をして、その場に居る筈の無い、あの腕の良い守銭奴の顔を探してみたが、やっぱりミダズはいない。
今いる行政区に入ってから、姿が見えなかった。
大方もっと手柄を挙げようと、一人抜け出して騎士共に喧嘩を売りに行ったに違いない。
そう簡単にロストするような腕ではないが、あの守銭奴のことだ。突っ込みすぎて大勢に囲まれているかもしれない。
だが、仮にそうだとしても、わざわざ探して助けに行こうと思うほど、卵がそこまでミダズに義理立てする必要はどこにもなかった。
「ほっとこうぜ」
「それは駄目だ」
「なんでだよ?」
「...また、変な難癖付けられて、金せびられたら困る」
しかし、卵がミダズのことを放っておこうとすると、今度は彼にシシャモが噛みついた。
彼の言い分がわからない訳でもないが、元はといえばシシャモ自身が、ミダズの粘りに屈したのが悪いのではないだろうか。
「じゃぁ...そうだな。ここは多数決だ」
少しため息を付いて、卵は皆を見回しながら言い放った。シシャモに口で勝てる気はしないので、ここは全体論で誤魔化すべきである。
「私は...早めにここを抜け出した方がいいと思いますね」
その卵の提案に真っ先に答えたのはバックスで
「お...私もバックス殿に賛成ですっ!」
次に特にこいつは何も考えなしに、バックスに従うであろうニッキが大声を出し
「早く...姉さんを探さなきゃ...」
そう小声でユエは呟き
「俺も賛成だな。ここは物騒すぎる...少し休みてぇ」
少し肩を伸ばしながらギレットが呻くように言い
「...」
そして、最後にゴネた本人であるシシャモが、根負けしたのか、諦めたように無言で頷いた。
「じゃぁ決まりだな。...気を落とすなよ。あいつもそこまで金にうるさくねぇって。...そんじゃさっさと行くか」
そんな皆の反応を見て、卵は締めくくるように、気を落としているシシャモを慰めるように、薄ら笑いを浮かべた。
「...行かせないわ」
だが、そう卵が言い放ち、一同が動き出そうとした瞬間。急に冷めた声がギレットの背後から聞こえた。
一体誰だと一同がギレットの方へ振り向くと、その声の主は先ほど卵が顔面に矢を打ち込んで、殺したはずの偽物であった。
明らかに生きては居ないはずであるのに、彼女はまるで何事もなかったかのように、平然と静かに顔に矢を突き刺したまま、ギレットの背後で薄ら笑いを浮かべて立っていた。
「こいつ!?」
その怪異のすぐ傍らに立っていたギレットは、すぐさま身を翻して、死体に槍を突き入れようとしたが、熟練の彼でさえ、不意に死体が己の顔面から引き抜いた矢が、彼の腹部に素早く突き刺さる一撃から、身を守ることができなかった。
ギレットは一体、自分の身体に何がおきたのか、理解する前に自慢の槍を取り落としながら、路上に崩れ落ちた。
「女の顔に矢を放つなんて、失礼だと思わない?」
そんな崩れ落ちる傭兵組合随一である槍の使い手を眺めながら、死体は陽気に笑って見せた。
こんなことがあるのかと一同は狼狽した。
他のゲームならいざ知らず、この「Lamia?」において、顔面に矢を喰らって平然と生き延びている者など、現実で考えてみてもあり得ないはずだ。
「あらら。そんな鳩が豆鉄砲喰らったような顔しなくても良いじゃない」
そんな狼狽する一同を愉快そうに眺めながら、死体...いや、リビの偽物はギレットに突き刺した矢を彼の身体から引き抜いて、一歩前へゆったりと踏み出した。
一同は思わず一歩下がり、それを見てまた偽物は愉快に笑った。
「まぁ無理もないわよね。ノーマルな人達ですものね」
「...お前...一体...」
そんな偽物にかろうじて卵は声を引き絞って問うと、偽物はわざとらしく頭を礼儀正しく一同に下げ
「申し遅れたわね。...私は鳳凰騎士団だn」
偽物は悦に浸りつつ、自己紹介をしようとしたが、その隙に卵は再び矢を放った。
何故生きているのかはわからなかったが、あざ笑われるのも癪に障るので、つい引き金に指が伸びた。
「ちょ...」
矢は見事に、偽物の右肩に命中し、今度は逆に偽物が狼狽しつつ、肩に突き刺さった矢を握る
「あんた...人の話のとt」
偽物は何か言おうとしたが、今度は卵の脇からシシャモが槍を真っ直ぐに突き出して、偽物の腹部を貫いて路上へ叩き伏せた。
「ひぎゃぁっ!?」
偽物は間抜けな悲鳴を上げつつも懸命に槍に手を伸ばすが、シシャモに続いて、ユエが彼の脇から飛び出して、偽物に素早く鎌を投げつける。
「や..やm」
投げつけた鎌は偽物の脇腹を抉り、偽物は苦しそうにしているが、最後の駄目押しとばかりに素早く偽物の背後に回り込んだニッキとバックスが、握りしめた鉄拳と鋭い切っ先を、顔面と喉へ突き入れた。
「お前の名前なんか聞いてねぇ」
そんな一同の攻撃を眺めながら、卵は憎々しげに言い捨てた。
『基本は不意打ちがあるんだ』
~戦士組合 バリスタ




