111話 市街戦①
一体どれぐらい左クリックをしただろうか。
そろそろ指がつってしまいそうだと、ニッキを操作しながら米山は冷房の利いた部屋の中で思った。
今日は昼間から特にすることもなく、面倒なのでずっとベッドで横になって寝ていた。
課題か何かあった気もするが、半ば担任から無視されている存在の自分は3年になってから、特に課題提出について気にしたことがなかった。
もっとも気になることと言えば『Lamia?』であろう。
最近になってようやく、共にプレイするリア友ができた。
そいつはクラスの中で、己の次に恐れられている小林という巨漢である。しかし、当の本人はそのことについてさほど気にしていないらしく、体格と似て図太い精神の持ち主のようだった。
そんな奴のことを考えてみれば、自然と体がゴミで散らかった部屋の中を縫って、乱雑に置かれたノートPCの前にたどり着いたのはある意味自然な流れであった。
「また来やがった!」
そう先頭に立っていたニッキは叫び声をあげた。
先ほど行政区に入った辺りから、敵の攻撃が激しくなった。それも先ほどの商業区などで相手にした即席騎士共が比べ物にならないほどにやっかい場合手ばかりであった。
まず装備を一つ取ってみてもそうだ。
即席騎士共は適当な甲冑に身を固め、強固な盾などを持っていたが、そのせいで鈍重な動きになってしまい。
多数で一人に襲いかかる傭兵達の攻撃から逃れることができなかったが、今相手にしてる連中は鳳凰の描かれた胸当て以外に金属制の防具を身につけておらず、一度傭兵達に囲まれても、素早くその囲いから脱することができ、しかも一対一の戦いにおいては、まず傭兵側に勝ち目はないほどの腕前だった。
「お前は前にいろ、敵が抜けたら私が殺るからなっ。いいか?一人たりとも抜けさせるな?!」
「へいへい...」
そうニッキを見上げるようにバックスが指示を飛ばす。
先ほどの気絶からやっと目覚めた彼は、何かと口調が荒くなってしまった。
しかし、それはラヒムのロストを汚らしく隠蔽しようとしたニッキとユエとギレットに対する怒りからだと言うことはわかりきっていた。
まぁ、わかりきっていても、どうしようもないことではあるが。
「返事は?!」
「はいっ!!」
しかし、返答に気に入らなかったバックスは、手に携えた剣の先端で軽くニッキの体を突っついた。
仮にも女であるニッキにそんなことをするとはセクハラではないかと、ニッキは声をあげたくなったが、不平の代わりにしっかりとした返事が出た。
「もう何人目だ?」
「まだ3人だよ」
「?...30人ぐらいロストさせたと思ってたぜ」
「時間がかかるからな......でもお前特に何もしてないだろうが」
「まぁな」
太く筋肉で引き締まった両腕をニッキが前方から短剣などを構えて突っ込んでくる敵と相対する後方で、卵とシシャモがやる気なさそうに得物を携えてくっちゃべっている。
そんな二人の間には護衛対象であるユエが小さい体ながらも、鎌を構えて、戦闘に参加したいのか興奮で小刻みにふるえていた。
「大体ニッキが片づけちまうからな。楽でいいぜ」
「そういえばミダズの奴は?」
「金稼ぎに、どっか飛んでったぜ」
「じゃぁ合計...5人か」
今にも鎌を振り回そうとしてるユエを押さえながら、シシャモと卵が言葉を交わすとその後ろから
「6人だよ。俺のことを忘れるなよ」
そう槍を構えて後方を警戒している、ギレットが口を出した。
「わりぃ忘れてた」
「なんだよ。人が親切で後ろを守ってやって...」
「あぁ悪かったよ。...傭兵組合の方だったか?」
「そうだ。バストロク支部傭兵組合所属の...」
そう卵がギレットに軽く謝って、ギレットの奴が胸を張って答えようとすると、急に彼はその場で棒立ちになって上を見上げた。
「どうした?」
そう卵がユエを押さえる役をシシャモに押しつけて、ギレットに話しかけようとすると、彼は卵が近づいた途端、いきなり手に携えた槍を素早く頭上へ突き出した。
一瞬何が起こったのかと槍の穂先をあわてて眺めると、ギレットの槍におでん串に刺さった具のように、田楽刺しになった軽装の騎士が突き刺さっていた。
胸から突き刺さった槍の穂先は、見事に胸当てを貫通し、背中から穂先が顔を出していた。
「槍の使い手...ギレットだ」
そうギレットはすまして、槍に突き刺さった哀れな騎士を振り抜いて答えた。
ニッキの目の前に迫ってくる騎士は3人だった。
一人は短剣を前に突き出して構え、もう二人の方は短めの槍を携え、槍を携えた二人は穂先をニッキの体めがけて素早く突き出してきた。
「ふんっ」
それを素早くニッキは籠手で二つの穂先を払うと、攻撃を回避されたのを見て、別々の方向へ後ろへ飛ぼうとした一人の顔に拳を叩き込んでやる。
一応その騎士は顔面を鳥の頭を模した仮面で防護していたが、ニッキの鍛え上げられた腕力の前に、むなしくめり込んだ。
「一人ぃっ!」
そうニッキは叫ぶと、もう一人後ろへ飛んだ敵を探そうとしたが、視界に敵の姿は映らず、一体どこに行ったかと思うと、すぐさまわき腹に衝撃が加えられ、敵は己の側面に回り込み穂先をニッキの体へ突き刺したのだと知った。
だが、幸いなことに穂先は深く突き刺さることはなく、敵の隙を突いた攻撃は逆に己の動きを止まらせてしまうことになってしまい、槍をニッキの体から抜けずに躊躇している隙に、頭上にニッキの振りおろした拳骨を受け、即座にロストした。
「二人ぃっ!」
そう勝利の雄叫びをニッキが上げて、もう一人は何処に行ったかと周りを見回すと、その3人目は既にニッキの背後にて襲いかかろうとしていたが、バックスの細身の剣にて喉元を突き刺され、事切れていた。
「おい、一人も抜かすなと言ったじゃないか」
そう騎士の喉から剣を引き抜いて、血糊を拭いながらバックスはニッキを強く睨んだ。
「すみません!バックス殿!」
その睨みに対して、ニッキは不平を言うこともなく素直に彼に素早く頭を下げた。
操作する米山としては苛立つことではあったが、番犬騎士団の時に散々やって、体に染み着いている行為だった。
「すげぇな。瞬く間に3人ロストさせたぞ」
「後ろの槍使いとは段違いだ」
「うるせぇ!お前等なにもやってねぇだろ」
そんなニッキとバックスを感心しながら、ギレットの腕前を口にすると、すぐに後ろから卵の兜をギレットが槍の穂先で突っついた。
「やるさ。すぐにな」
そうシシャモがギレットの方へ振り向いて、彼の頭のすぐ横に槍の素早い突きをくわえた。
一体何をするんだとギレットが叫ぼうとすると、彼のすぐ後ろからくぐもった声が聞こえ、ギレットも後ろを振り向くと、そこには今まさに後ろから襲いかかろうとしていた騎士が、頭をシシャモの槍に貫かれ、崩れ落ちる瞬間であった。
「ほらよ。後ろがお留守だ」
そうシシャモも先ほどのギレットのようにすまして言うと、ギレットは愉快そうに笑ってそのようだと、頭を掻いた。
即席の集まりではあるが、どいつもそれなりの腕前だと、今のところ何も戦果の無い卵は内心そう思って、俺たちも何かしないといけないなと、シシャモに変わって押さえているユエを見下ろしたが、彼女はとても不快そうに卵を見上げて
「セクハラですよ」
そう軽く卵の腕を抓った。




