107話 古塔③
また、しばらく階段を上っていると、また彼の隣に扉が現れた。
もう警戒心すら薄くなり、ラヒムは普通に扉の取っ手を持ってゆっくりと開いてみた。
今度の部屋は先ほどの武器庫より広い作りで、様々な甲冑などが壁際に置かれていた。
その甲冑が立っていれば出会い頭に驚きもしたが、甲冑はどことなくいい加減に投げ捨てられる形で、壁際に置かれていた。
「今度は防具庫か...」
そう呟きながら、ラヒムは甲冑達を見回してみる。
どうせ先ほどの武器庫と同じで、手に取れないだろう。
それにもし手に取れたとしても、甲冑などラヒムの腰にあるポーチに入りきらない。
甲冑を身につければ、そのまま持っていくこともできるが、ラヒムの体力ではとてもじゃないが、甲冑など身につけられない。
「卵さんでもいれば、持っていってもらうんだけどな...」
そう都合の良いときだけ卵を必要とするラヒムが、甲冑を見回していると、急に彼は値踏みする目を一つの甲冑に留めた。
「なんで、卵さんの鎧があるんだ?」
広い防具庫の一番奥に置かれた鎧に、ラヒムは意識を向けられた。
その鎧は先日まで卵が身につけていた、例の卵の形を模した甲冑がそこにあったからだった。
確か、先日にもうこれは使えないと卵本人が、打ち捨てたはずだ。
ラヒムは気になってその甲冑を見てみると、確かにその甲冑が卵の身につけていた物に酷似しているが、所々違う部分があることに気づいた。
まず、先日打ち捨てた鎧は錆だらけで、間接部も稼働する度に鉄の擦れる不快な音を立てていたはずだが、今ラヒムの目の前にあるその甲冑は新品同然に綺麗だった。
しかも、下の武器庫に立てかけれていた武器にあった装飾が甲冑には施されており、壁に立て掛けられた松明の明かりに照らされると、蛇の模様が艶めかしく光るのだ。
「なんでこんなところに...」
卵の鎧はゲーム内で大量に流通している甲冑ではなく、特注品であったはずだ。
本人もそれを自慢げに語っていたことをラヒムは覚えている。
それに、誰が好き好んでこのような奇妙な甲冑を身につけたがると言うのか。
矢に対して傾斜装甲の効果があると、卵は以前言っていたが、それが実際に役だった試しはラヒムの経験上ない。
そもそも奇襲を胸とする追い剥ぎが、矢で狙われるような状況になってしまっては意味がないのだ。
しかも、形が異様すぎて、人気があるとは思えない。
この甲冑を着込むためには、卵ほどの筋力と、この形状に見合った醜い太った体が必要だ。
「特注品の在庫か?」
思わず呆れたようにラヒムは呟いて、他の鎧を眺めてみた。
しかし、どの甲冑も卵の奇妙な形をした甲冑と五十歩百歩の物ばかりだった。
魚と言い表せばいいのか、それとも龍と言い表せばいいのか、長身の人物向けの甲冑が、卵の甲冑の隣に置かれていた。
その横にはラヒムの身の丈より、少し大きい平均的な大きさの甲冑が置かれていて、これはどうやら虎を模した物のようだった。
白い毛皮を首あたりにつけて短いマントととし、他の鎧より比較的薄い装甲はどうやら、機動性を重視した作りのようだ。
形はどことなく、子供の日に飾るような武者鎧に似ており、異様ではあったが、この鎧はそこそこ売り出すとすれば人気が出そうだ。
「ここは鍛冶組合の秘密倉庫か何かかな?」
そう適当な推測を呟きながら、ラヒムは他の鎧を眺めてみた。
虎の甲冑の隣には魚か龍の甲冑よりも大きくゴツい甲冑が置かれている。どうやら牛を模した物らしい。
よくあるファンタジーで出てきそうな牛の化け物であるミノタウルスを、甲冑にすればきっとこうなるような想像の産物だ。
「カッコいいじゃん...ん?」
どことなく博物館でも回るような気分で鎧を見ていたラヒムは、下手物→下手物→カッコいいもの→カッコいいもの の順で見てきたが、カッコいい甲冑の次は下手物であった。
虎と牛の甲冑は形からして、人気がありそうなのだが、その横の甲冑はどう見ても奇妙なものだった。
鉄の甲から角が生えているのは、よくある作りであり理解できるのだが、間接部や腰の部分が羊毛に覆われているタイプを見るのは初めてだ。
よく見ると小手から鋭利な棘が突き出ているが、その棘の隙間は羊毛が埋め尽くしている。
「これは...羊...か?」
見れば見るほど奇妙な作りをしている。
卵の甲冑も奇妙であったが、この羊を模した鎧はダントツで奇妙だった。
きっとよほど偏屈な奴が着込む甲冑なのだろう。
「色々とあるもんだなぁ...」
そう小林は画面の前で呟いて、少し伸びをした。
変わった甲冑達についつい見入りすぎて、少々目が痛くなってきていた。
目を休めようと何度か目をマッサージして、不意に壁に掛けられた時計を見てみた。
時刻は9時を回り、さほど夜遅い訳でもない。
課題は昼間に済ませておいたし、隣部屋の祖父が何か言ってくる気配もない。
あまりに静かすぎると逆に祖父に何かあったのかと不安になるときがあるが、隣部屋から聞こえる祖父のいびきを聞くと安心できた。
しかし、小林はその安心のせいで、バストロクに残してきたユエ達のことを完全に忘れていた。
だが、そんなこと気にせずに小林はラヒムの視界を操作して、他の甲冑を眺めようとした。
「ん?」
先ほど目を休めたのに、また食いつくように小林は画面を見た。
ラヒムの視界を背後に向けた途端、あるものが見えたからだ。
それは先ほど彼が開いた扉から、少しだけ頭を出してラヒムを見ていた。
『俺の装備の利点を理解してくれる奴は団長だけだった...。団長の鎧も大分...変だったが...』
巫女攫い遊撃担当 羊追いのベップ




