第11話「暴かれた真実と十年の空白」
書斎の重い扉が背後で静かに開いた。
ルシアンはビクッと肩を震わせて振り返る。
入り口に立っていたのは、黒い軍服姿のクロードだった。
彼の視線が涙に濡れたルシアンの顔に注がれ、次いでその腕に抱かれた手紙の束へと移る。
クロードの顔から一瞬だけ血の気が引いたように見えた。
常に冷静な灰色の瞳が大きく見開かれ、彼にしては珍しく無防備な表情を晒している。
息の詰まるような沈黙が部屋に重くのしかかった。
ルシアンは手紙を抱きしめたまま、震える声で言葉を絞り出す。
「……どうして、あなたがこれを持っているんですか」
クロードは何も答えない。
ただ立ち尽くしたままルシアンを見つめている。
厚い手袋に包まれたその手は固く握りしめられていた。
「私はずっと、忘れられたのだと思っていました。捨てられたのだと」
涙声になってしまうのを必死に堪える。
十年間ずっと胸の奥に深く刺さっていた棘が、今になって激しく疼き出していた。
クロードがゆっくりと歩みを進める。
重い靴音が絨毯に吸い込まれていく。
彼はルシアンの目の前で立ち止まると、苦しげに短く息を吐き出した。
「……捨ててなどいない」
かすれた低い声が静寂を震わせた。
「俺がその手紙を見つけたのは、三年前だ」
ルシアンは目を丸くしてクロードの顔を見上げた。
三年前に見つけた、その言葉の意味がすぐには理解できない。
「前当主だった父が亡くなり、俺が公爵位を継いだ。だが、親族どもは若造の俺を傀儡にするつもりだった」
クロードの言葉は訥々としていたが、その奥には隠しきれない鋭い怒りがにじんでいた。
「お前からの手紙は全て、叔父たちが握り潰していたのだ。俺とお前を引き離し、俺を孤独にするために」
ルシアンは息を呑んだ。
届いていなかったのだ。
自分が毎日泣きながら書いていた手紙も、助けを求めるような切実な言葉も、クロードの元へは一通も届いていなかった。
「叔父の不正を暴き、当主としての実権をすべての権力とともに握った日。奴の隠し金庫の中からこれを見つけた」
クロードの大きな手が、ルシアンの抱える手紙の束にそっと触れる。
「気が狂いそうだった。お前がどれほど俺を呼んでいたかを知って、すぐに迎えに行こうとした」
「……それなら、どうして」
「男爵家は借金の取り立てから逃れるために、領地を捨てて行方を眩ませていた。探すのに三年かかった」
クロードの灰色の瞳に、かつて見たことのないほどの切実な色が浮かんでいる。
冷酷な公爵という鉄の仮面の下で、彼はずっと血の滲むような思いでルシアンを探し続けていたのだ。
届かなかった手紙の空白の時間が、音を立てて崩れ去っていく。




