55. 漆紀と彩那、悩む
「ただいまー」
「遅いですよ! 冷めちゃったじゃないですか!! 三十分は経ってますよ!」
漆紀が自宅の玄関を開けると苛立ちで上ずった声を上げる彩那が出迎えてくる。
「大丈夫、逮捕しに来たとかじゃなかったから。ほら、温め直して食べるぞ」
「む~っ……とんだ邪魔が入りましたよまったく」
彩那が食卓のテーブルに戻り、漆紀は鶏肉のキムチ炒めが乗った皿を持ち、電子レンジに入れて温め直し始める。
「結局何の話をされたんですか?」
「簡単にまとめると、あの警察官は俺の今までの行動を知ってる。萩原組のこととか佐渡のこととか……で、俺に提案してきたんだ。学徒会で匿ってやるって」
「学徒会!?」
警察官という存在からは連想出来ない言葉に彩那はまたもや上ずった声を上げて固まったまま漆紀を見つめる。
「ああデカい組織だし、あの警察官の弟が色々やろうってんで手伝ってくれって」
「学徒会といえば迷惑集団じゃないですか! 学生運動で騒音出すし物は散らかすし、そのくせやたら勉強熱心で学力が妙に付いてる意識高い系の人達ばっかり集まる痛い組織ですよぉ!? 竜王様には合わないですって!」
「いやまあ、学校が爆発しちゃって授業ないし……流石にこのままずっとノー勉強はやばいなと思うし、学徒会はちょうどいいかなって」
「良くないですよ! あんなとこ行ってたら、竜王様が変な感じに意識高い気持ちの悪い感じの人になっちゃう……特になにかやるわけでもないのに、喫茶店とかでノーパソ開いたりするような人間になるうううぅぅぅ!!」
「ならねえよ! それに俺にとっては利害一致する部分もあるんだよ」
「利害一致って?」
「警察官の弟は、日本から反社を一掃し治安を改善するって大きな目的があるんだってよ。そのために俺みたいな特異な存在……まあ魔法使いの事だが、魔法使いを集めてるってよ。んで、その力を使って手始めに最初は竜理教を一掃しようって方針らしい。本家竜理教のことだけどな」
竜理教を一掃するという旨を聞くと、最終的には佐渡流も一掃されるのではと彩那は危惧する。その危惧も一秒だけのことで、本家竜理教を一掃するという方針が漆紀と利害一致したのだと彩那は納得し一先ず安堵の息を吐く。
「というか、その警察官の弟って何者なんです? 竜理教を一掃するだの、随分偉そうに目的を掲げてますけど……その上、魔法使いを集めているならそれだけの人材を束ねる力を持ってるってことじゃないですか。そんなのってある程度の権限を持ってる人間じゃないと無理ですよ。誰なんです?」
「警察官の名前ならわかるぜ。あの警察官、神代って苗字だった。弟の名前は知らん」
「神代……神代……ん? ちょっと待って下さい」
彩那はスマホを取り出して検索して何かを調べ始める。漆紀は電子レンジで温めた鶏肉のキムチ炒めを取り出し、テーブルに置く。
「竜王様……警察官の方は神代と言いましたね?」
「ああ。神代、警察手帳にもそう書いてあったし」
「これ見て下さい」
彩那は緊張と焦りと驚愕などが入り混じった面持ちでスマホの画面を漆紀に見せた。
「神代輝雷刀……初代学徒会会長の曾孫で現学徒会会長です」
学徒会会長。
それは全国学徒会の最前点であり頂点である。全国で学生活動と学業に研究など多岐に渡る活動を全国各都道府県で行う学徒会全員を束ねる存在。
といっても地方ごとに学徒会会長に準ずる役職はあるため、学徒会会長は名目上全国を束ねているという事になっている。実際の全国に渡る予算繰りや活動まで全て東京にいる学徒会会長のもとで決めているわけではない。
学徒会会長の権限が大きく及ぶ範囲は関東一帯であり、それが施策を行う範囲内となる。
「まさか……あの警察官の弟が学徒会のボスだってのかよ!?」
「苗字だけで考えると、そうっぽいですが……まあ、苗字被ることぐらいあるでしょうし確定ではないです。でも、魔法使いを集めて束ねるリーダー性や、それでいて一組織を追い込む方針を決めたりするある程度の権限を持ってる人物となると……」
「コイツの手伝いしろってのか」
漆紀は画面に映る神代輝雷刀の顔をじっと見つめる。全国学徒会の東京本部でその全てを執る男の顔は若年らしい柔らかい顔つきをしていた。ただしその目つきには誰しもが感じるほどの強烈で熱く剛健なものがあった。
「学徒会に、行くんですか?」
「……あの警察官から連絡先をもらったんだ。弟が学徒会会長なのか聞く」
「聞いてどうします?」
「会長なら、会ってみよう。学徒会に行くかはそれから決める。俺と同じ様に、魔法使いを集めてるってんなら、宮田の潜んでる竜理教を叩くのに利用出来るかもしれねえ」
「学徒会会長ともなると、なかなか会えないものでは?」
「向こうが会いたがってるんだ。ならなんとか話を取り付けられるだろ」
「なら今電話しますか?」
「……明日だ。日を改めてあの警察官に電話するか。そんで、会長と会って話してみる」




