53. 噛みしめる日常
漆紀の自宅にて。
「いただきます」
漆紀と彩那の声が重なった。
時刻は午後七時。日中激しく動いて魔法と戦闘の修行をこなし、二人は夕食の時間を迎えていた。この日はビーフシチューにパンというシンプルな食事だった。
「なんか竜王様、表情というか空気というか……少し柔らかくなりましたね」
「そうか? あんまり自覚ないんだけどな」
「妹さんにちゃんと話せたからじゃないですか?」
「そうかもな……」
実際漆紀は真紀に宗一の死の事や、佐渡でのことから今までに至る出来事、友人達の事を話せて肩の重荷が降りた気がした。
しかし昨日起きた烏丸蒼白による武蔵多摩高校大爆破は漆紀にとって更なる重荷となる出来事であった。知り合い程度の関係性の者も、それなりに仲の良いクラスメイトも大爆発で死んだ。生き残った生徒は一年生全員、同級生では彩那、小太郎、七海と、体調不良で学校に来なかった者くらいだ。二年生の多くと三年生は大勢死亡している。
夕方のニュース時点で、警察発表の死亡者数は400人を超えている。大爆破についてはテロ事件として報道されており、その犯人探しが現在も警察によって行われている。
この事実はとても重い。今回の件に関しては、漆紀と彩那が魔法をより最適な方法で使って蒼白が一手を出す間もなく封殺していれば防げた悲劇なのだ。
「でもまだ重いよ……だって、昨日のあの大爆発……三年生と二年生のほとんどが爆死だぞ。夕方のニュースじゃ死亡者400人越え、200人以上が行方不明だぞ……行方不明って、結局は爆発で体がなくなって見つからないって事だぞ。実質死亡だ、クソっ」
「確かに大勢死にました。でも、どうしようもないじゃないですか……今できるのは悼むことと、もし同じような状況になったら……今度こそ人を死なせないことです」
「そうだな……悪かったな、食事中に」
漆紀はばつが悪そうな様子でシチューを一口軽く口に運び、パンを頬張る。
「なんか今日世理架さんに質問してましたけど、何を話してたんですか?」
「それなんだが……彩那、提案なんだけど辰上家に行ってみようと思うんだ」
「辰上家って、日記にあったあの洋館ですか?」
「ああ。会って敵かどうか確かめる。過去の事だけ見れば、あの家は俺と真紀に恨みを抱いている可能性がある。竜理教も危険だが、辰上家も敵かもしれない……だから、確かめに行くんだ」
宗一の本来の実家、辰上家。それが漆紀や真紀に牙を剥くか否か、それを確かめる必要があった。
「それ、その場で敵対してきて戦いになったらどうするんです? 現状なにもして来てないのなら、下手に刺激しない方が良いのでは?」
「それもそうだな……」
現状としては辰上家と接触しないのが無難であると漆紀と彩那は結論付けた。
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翌日。
この日の漆紀と彩那は警察署へ出向いていた。学校が大爆発した事で、その翌日から生徒達に対する警察の事情聴取が行われているのだ。
学校の大爆発から二日経ったこの日、漆紀と彩那は警察署に行くとそれぞれ別の部屋で事情聴取を受けていた。
「つまり、トイレに行っていて助かったと?」
漆紀の事情聴取を担当する刑事がそう言って確認をとる。
「はい。B棟のトイレがどこも空いてなくて、C棟に行ってたら……その時に爆発音が聞こえて。凄い揺れましたよ、ビビりましたよもう……」
「なるほど……それと、これもまたショックかもしれませんが聞いて下さいね。君のクラスメイトの烏丸蒼白という生徒が、D棟屋上にて何者かに殺害されているのが発見されている。これについて、何か少しでも知っていることがあれば話して欲しい」
「烏丸が死んだ? あいつが……いや、何もわかりません。烏丸のやつが死んでたんですか? あの大爆発とは別で事件が起こってたって事ですか」
「そうなんですよ。我々は何か関係があるとみて捜査しているんですがね。どうです?」
「烏丸のヤツはそうですね……恨まれる性格とはしてなかったですよ。ただのゲーム好きの男子って感じです」
嘘だ。烏丸蒼白の本性は鬼畜の一言に尽きるほど身勝手であった。とはいえ、普段の彼の振る舞いや性格に難はない。
「そうか……悪いですね、時間を取らせて。次の生徒さんも控えてるので、これで事情聴取は終了です。ご協力ありがとうございました」
事情聴取が終わり漆紀は自宅へ帰ると、まだ彩那は来ていなかった。
漆紀は彩那が来るまでに昼食を作っておこうと思いキッチンへと向かった。
料理を終えて一通り調理器具の片付けを済ませると、インターホンを誰かが鳴らす。
漆紀は玄関のドアに付いているのぞき穴を覗くと、彩那が居た。
「私です、開けてくださーい」
「おう、お帰り彩那。昼飯作っといたぞ」
「えっ!? 私、昼飯作るにはちょっと時間が遅いと思ってハンバーガー買って来ちゃったんですけど……」
彩那はそう言ってビニール袋に入ったハンバーガーとポテトを漆紀に見せる。
「とにかく上がれ。じゃあ俺が作ったのは夕食で食べよう」
彩那はビニール袋を中身ごとテーブルに置くと、洗面所へ行き手を洗う。
「事情聴取、どうだった? 俺は不自然な事は言わず普通に答えたけど」
「それは私もですよ。でも、警察の方に本当の事を話さないのは騙してるみたいでなんだか嫌ですね。まあ話したら捕まっちゃうので無理ですけど」
手を洗い終えると、漆紀と彩那は食卓につき、ハンバーガーを食し始める。
「烏丸の事、聞かれたよな」
「ええ、聞かれましたよ。接点ないし知らないって話しましたよ。実際関わりはないですからね、あのクズとは」
彩那は既に蒼白が死んでいるにも関わらずクズと呼んで蔑む。よほど蒼白の傍若無人の域に達した身勝手に気持ち悪さすら感じたのだろう。
特に蒼白の性的発言が彩那に強い嫌悪感を与えたのだろう。
「旨いなこのハンバーガー。新作か?」
「新作ですよ。ほら、CMでやってるパリパリチキンバーガーですよ」
「おー、ありがとな」
他愛のないやりとりだが、つい先日の学校大爆発を思い返すとこういう日常を大事にしようと漆紀は強く思うのだった。




