51. 真紀への吐露
漆紀と彩那に小太郎。三人は話すこと一時半、人が深く打ち解けるには充分だったようだ。一通り三人は秘していた事を話しきったことで、強い仲間意識が芽生えた。
「しかしよ小太郎、グラウンドに一時間半近くもずっといるとかおかしくねえか? いくら何でも遅すぎだろ。そろそろ避難すべきだろ、何やってんだろな」
「教師の方々は酷く狼狽えておりますな。たった三人しかおりませぬし」
「ん、警察の方が前に出ましたよ」
彩那が教師三人に並んで出た警察官を指差すが、それを遮るように大声が三人の間を突き抜ける。
「おーい、辰上! 平野ーっ!」
校舎の方から駆け付けて来たのは漆紀と小太郎のクラスメイト・下田七海だった。
「し、下田!? 生きてたのか!」
「お前らもなー!」
「下田嬢、なぜ今までグラウンドに来なかったのですか! あの爆発に巻き込まれたものかと気がかりだったのですぞ!」
「アタシは購買所に居たんだよ。それで爆発に巻き込まれず助かった。まあ、腰を抜かしたり体を打って怪我したおばさん達を助けてたら遅くなったんだよ」
七海は何度も購買所の人たちに肩を貸したからか、肩を回して疲労をアピールする。
「というか皆さん警察官の方の話聞きましょうよ! ようやく帰れるみたいですよ!」
彩那が三人にそう呼びかけると、三人は警察官の方を見る。学校は警察が封鎖し消防署が消火活動を継続するとの旨を語った。
警察官の誘導に従って、生徒達はグラウンドから続く出入口から街へと出ていく。
「竜蛇、小太郎、病院まで付き合ってくれるか?」
「いいでござるよ」
「もちろんです竜王様」
「ねえ、なんかアタシだけハブられてるけど何の話? てかなんで辰上はキモオタを名前呼びしてるし。なに、キモオタもしかしてゲイ?」
漆紀は七海の方を見つめ、何を言おうかと悩んでいると小太郎が代わって答える。
「これから辰上氏の妹さんの見舞いに行くのでござる。あと拙者そんな気はないでござるよ下田嬢。拙者の恋愛対象は女性でござる。拙者ノーマルでござるよ。なんなら今下田嬢で拙者の性癖を証明してもいいのでござるよ」
「おい近付くな変態キモオタ。しかしまあ、つまんなそうだ。悪いけどアタシはパスだわ。今日は帰るわ」
七海はそう言うと、漆紀達から離れて他の生徒と一緒に流れて移動し始める。やがて七海の姿が見えなくなると、漆紀は一息吐いてから彩那と小太郎の方を振り返った。
「俺らも流れて出るか。行こう、竜蛇、小太郎」
「ねー竜王様。私も名前で呼んでください。それくらいの仲だとは竜王様も思ってるはずですよね。ねえ」
「わかったわかった。彩那、これでいいか。早く行くぞ」
そう呼ぶと、彩那は満足そうに微笑んだ。
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武蔵村山市内の病院にて。
漆紀は病院のエントランスに彩那と小太郎を待たせ、一人で真紀の病室へとやって来た。
「なあ真紀、元気になって来たか?」
ベッドから上体を起こした真紀は、相変わらず人工声帯による平坦な声色の声で言葉を紡ぐ。
「うん……最近は、リハビリ、やってる。体、動かし、てる」
「良かった。俺はな、今日大事な話をしに来た。はっきり言って、良くない話だ」
「……」
真紀は黙り込み、漆紀を無表情で見つめる。
「多分これを聞けば、お前は俺のこと嫌いになると思う。だけど言わなきゃいけない」
「……」
漆紀は心臓の鼓動が高鳴り息苦しさを感じるが、言わなくてはならない。唾を飲み込み、覚悟を決めて真紀に決定的な一言を伝えた。
「父さんが死んだ」
「なん、で?」
真紀は目を泳がせて動揺する。今まで父が見舞いに来なかった事実と辻褄が合うため点と点が繋がったものの、その事実そのものには理解を示せない。
「色々あったんだ。その色々があまりにありすぎて、何から話せばいいか……いや、最初から話そう」
漆紀は真紀が入院した後、今まで何があったのかを語った。佐渡でのこと、そしてここ最近の事と今日あったこと、全て話した。
全て事細かく話すのに、1時間はかかった。
「……」
真紀は信じられないと言わんばかりにずっと目を点にしたまま漆紀を見ていた。
「真紀、許してくれなんて言わない。お前の声を奪ったのは俺だし、父さんが死んだのも俺の力不足だよ……」
「お兄、ちゃん……間違って、るよ……あたし、は……お兄、ちゃんを、恨んだり、しない…………恨む、のは、お父さん、を、殺した、ヤツ」
真紀は漆紀を恨んでなどいない。真紀本人の口からそう言われても、漆紀はまだ納得できなかった。真紀の声が奪われる原因を作ったのは漆紀であるし、入院中の知らぬ間に父が死んだのだ。責任の所在を考えれば漆紀のもとにそれは来るだろう。
「お兄、ちゃん。お父さんは、後悔……したと、思う?」
「後悔?」
「お父さんは、お兄、ちゃんを、助けられ、て……きっと、よかったって、思って、死んだ……と、思う。だから、気負わ、ない、で。お兄、ちゃんは、何も、悪くない」
「真紀、俺はクソ野郎だぞ。お前が何度も止めたのに夜露死苦隊にやり返し続けたし萩原組にも襲撃に行った。それなのに悪くないってのか?」
真紀は少しばかり呆れた表情でため息を吐くと、仕切り直して言う。
「嫌いに、なるわけ、ないよ……」
後に続く言葉は、漆紀と真紀の関係性の全てを物語る言葉だった。
「だって、お兄ちゃん、だから」
真紀が漆紀の今までの行動を含んでも「悪くない」と言う理由は、全て「お兄ちゃん」に集約されていた。それ以上かつそれ以外の答えなどなかった。
「だか、ら。これからも、お見舞い、来てね」
「……」
漆紀は自分でも気づかぬうちに顔を下に伏せていた。肩を震わしながら、目元から熱いものがあふれ出る感覚を覚えた。
それは雨の様に、ぽたぽたと漆紀の目から零れて床を湿らす。
「だから、泣かないで。お兄、ちゃん。どれだけ、バカ、やっても、大好き、だよ」
「ありがと……ありがとう、真紀」




