50. 三者対面
武蔵多摩高校グラウンドにて。
生き残った生徒と教師は例年の避難訓練通りに集まっていた。生徒達は整列することもなく、ただ集まって仲の良い者同士で話すばかりの状況であった。
職員室と3年生教室があるA棟と2年生教室のあるB棟が大爆発した。教師と3年生と2年生のほとんどが死亡し、避難の誘導が出来るのは職員室に戻らず1年生の教室に滞在していた教師三人だけだった。
「大変な事になりましたな……拙者も開いた口が塞がらぬでござる」
グラウンドにたむろする生き残り生徒達の中には漆紀と彩那、そして制服を漆紀に貸した事でYシャツ姿になった小太郎の三人が居た。
「こいつら、怯えてるヤツもいるけど……この非日常にソワソワして楽しんでる馬鹿野郎もいやがる。ふざけやがって、大勢死んでんだぞ」
「こんな事になってしまうなんて……」
その場の全体的な空気は非常に暗かった。非日常を楽しんでいる不謹慎な生徒は数える程度しかいない。多くは動揺や恐怖、早くこの場を離れたいという生徒ばかりだ。
「平野、色々話してくれるか? お前の魔法使い狩りの家系ってどういうことだ?」
「……驚くなかれ。拙者、現代忍者でござる。風魔一族の生き残りの一つである風祭一族の家系で、親父殿いわく先祖代々魔法使いを狩っているのでござる」
「ガチの忍者ってのは驚きだが……で、結論聞くぞ。俺は標的じゃないんだな?」
「もうその気は微塵もないでござる。確かに烏丸氏のあの発言と行動……あれを経ると親父殿が言う通り魔法使いは危険で不安定な存在で殺すべきというのもわからなくはありあせんが、拙者はそうしたくないでござる。こんな状況だから、お互い隠し事なしで話そうではござらんか。竜蛇氏、問題ありませぬかな?」
「私はいいですけど、竜王様は?」
「俺も異存ない。まず平野の方から頼む。どうせ教師連中は警察や消防来るまでこのままグダグダな対応しかしないだろうし、話す時間はある。誰も俺達の事は気にしてないし、魔法の事も遠慮なく話せる。端から聞かれてもゲームか漫画の話と思われるだろうし」
三者共に同意見と相成った。一呼吸置いてから小太郎が口を開く。
「まず私事ですが、拙者……親父殿の探偵事務所が爆発したでござる。それにより、辰上氏の命を狙っていた親父殿が死んだでござる。つい昨日の事でござる」
「えっ、それは……お悔み申し上げます、で良いんだよな? てか、そんな重大な事件が起きてるのになんでお前は普通に学校来てんだよ」
「身内が死のうと平静を振る舞うのが忍者でござる。勿論困惑や悲壮、そういった気持ち自体は胸中にあるでござるが……親父殿がうんざりするほど殺せと言っていた辰上氏を調べ続けなければと思っただけのこと」
漆紀も父・宗一が死に、本土に戻ってからは病院を出ると平静を装って通学を再開したが、小太郎は漆紀以上に無理をして仏面を貼り付けて学校に来ていたのだ。
「恐らく親父殿を殺したのは烏丸氏でござる」
「烏丸が?」
「さっき屋上で、烏丸氏が爆殺したという探偵の話……あれ……きっと…………親父殿です」
「……」
漆紀は俯き、続く言葉を詰まらしてしまう。
だが詰まれば詰まるほど話しにくくなると思って漆紀は思い切って踏み出す。
「こういう言い方良くないかもしれないけど、気にしたらお前まで死んじまうってもんだぞ平野! 俺も父さんが魔法で殺されてるし同じだ。お前の場合は仇討てたんだ、これからは前向かなきゃ」
「そ、そうですよ変態さん。あのとき私の配ってたボールペンを全部受け取った時の元気さはどうしたんですか!」
「仇……仇を殺したという気持ちより、友を殺したという気持ちの方がまだ強いでござる」
小太郎が口にした感覚は漆紀も感じているものだった。どれほど殺意を抱くような下劣で野卑で傍若無人極まりない本性であったとしても、蒼白はつい先ほどまで友達だったのだ。
「ええ。まあ、その話はいいです。すみませぬ。そしたら……今後の事なのですがね……もし辰上氏が困ってたり、このような戦いになるのであれば、拙者を頼って欲しいでござる。こう見えてかなり強いでござる……それに拙者はその……実はお二人の佐渡での事も知ってるんでござる」
「お前佐渡に来てたのか!」
「す、ストーカー……」
「辰上氏を拉致した竜蛇嬢にストーカーとか言われたくないでござる」
小太郎の思わぬ言葉から、漆紀と彩那は口を開いたまま情けない反応を示す。
それで話が止まっては困ると思い、漆紀は気を取り直して小太郎に新たに質問を投げかける。
「俺達をつけてたって言ってたけど、いつから……」
「佐渡もそうですが、佐渡から帰還したあとに辰上氏の動向を探るために……ここ最近まで何度か放課後につけることがありました」
「うわぁー」
彩那はあくまでも小太郎を変態としか思わず、漆紀は自身が疑われていた度合いを知り閉口する。
「まあ、あれこれ質問するのも良いですが、とりあえず拙者の口からこれまでの事を全てお話させて頂くでござるよ」
そこから小太郎は佐渡に渡った経緯や、佐渡での行動を事細かに漆紀と彩那に説明した。
「なんていうか……それ本当なら、お前すげえ強いんだな平野。いつものキモオタは忍者の擬態かよ。ていうか、ありがとな……佐渡で何度も俺を助けてくれたんだな。できれば大竜脈で儀式やる前に助けて欲しかったけど」
「儀式のときも、西アーケード街の入口での乱戦も、黒い服の不審者があなただとは……あれだけの技量なら確かに心強いですが……ていうか、あの時の佐渡全体の大水害の中を魔法もなしに脱出して両津港からフェリーで本土まで帰還するとかあなた本当に人間ですか変態さん!?」
「忍者でござるよ。変態ゆえに生き残れたとも言えますが」
漆紀が思う以上に小太郎は強い上、特殊な境遇に居たと判明した。だからこそ漆紀は、どうしようもなく自身の弱さを痛感した。
「でも、お前の助力があっても父さんは助けられなかった……お前が退いたあと、父さんは殺られたんだ。あの銀髪の、竜理教の魔法使いに……っ!」
「つらいところすみませぬが、拙者は己の素性を明かしました。忍者としては素性を明かすなどタブーでござるが、辰上氏を親友と信じてでござる。さあ、辰上氏……そして竜蛇嬢、今度はお二人が話してくだされ」
これには漆紀と彩那も腹を割って今までの事を話す事にした。
漆紀は自身の魔法が覚醒した春休みでの出来事から今に至るまで、彩那は漆紀と関わり始めた佐渡から今に至ること。
漆紀と彩那が知る限りの魔法についてのこと、竜王という特殊な存在についても話した。
「情報量が多いですな、素人一般人ならば昏倒するレベルですが……拙者は現代忍者、おーけー把握したでござる。まだ困惑はしてますが……質問よろしいですかな辰上氏?」
「ああ。遠慮せず言ってくれ」
「辰上氏は萩原組を崩壊させたのでござるな?」
「ああ」
「竜王という特殊な存在であり、竜理教においては御神体扱いであるのでござるな?」
「ああ」
「竜蛇嬢は辰上氏の彼女でござるな」
「ああ……いや、違う! 急に毛色の違う質問をしれっとするな!」
「竜王様……でへへ~っ」
彩那は小太郎から彼女と言われたのが、顔を紅潮させて身悶えする。
「というかはっきり言わせて貰うでござる。辰上氏と竜蛇氏が佐渡で交わした儀式はキモオタのエロゲ思考で言えばもはや結婚式みたいなもんでござる。とっととリア充爆発しろでござる」
「お前、俺と竜蛇の話を全部聞いて返す言葉がそれか? 爆発しろって言うけどさっき烏丸の魔法で実際に爆発食らったよ。爆発ならもうしたよ」
「それもそうでしたな……まあ、それにしても竜王で妖刀・村雨の契約者で竜脈の巫女と血の契約を交わしている……うん、情報だけ並べると完全にエロゲやラノベの主人公でござるな。もっとカッコつけて生きていいと思うでござるよ辰上氏」
小太郎は上ずった声で揶揄うように言うが、漆紀は首を横に振って小太郎の言葉を受け流す。
「茶化すんじゃねえよ。俺だって色々悩んでんだぞ」
「そうでしょうな。太田氏の死は、辰上氏が助力を乞うて巻き込んだことが原因ですな」
揺るぎない事実を指摘され漆紀は一瞬顔を苦くする。とはいえ逃げ出したり話を変えるつもりもない。友人・太田介助が死んだのは漆紀が夜露死苦隊との戦いに助力を乞うて巻き込んだのが原因である。
「とはいえ、太田氏は元々口では面倒臭がる癖に身の回りの人に手を貸すお人好し気質ではありました。夏休み中に文化祭準備とか、部活の代理とか、色々やってましたからなぁ。こう言ってはなんですが、太田氏も自らの意思で辰上氏に力を貸したのです。その点に関しては彼に後悔などなかったと思いますぞ」
「すまねえ……」
「竜蛇嬢はどういう心情なのでござるか? 辰上氏の家に居候というか、もう同棲でござろうそれ」
「まあその……竜王様とは友達よりは深い仲だと思ってます。友達いないけど」
彩那は恥ずかしそうにそう返すと、小太郎は「なるほど」と相槌を打つ。
「ま、そこはおふざけにすぎぬ質問でござる。辰上氏、おそらくしばらく学校は休校になるでござるよ。そこで……辰上氏の目的はなんでござるか?」
目的。そう、漆紀の今の目的は明確にある。即座にその場で迷わず小太郎に答えた。
「宮田を殺す。いずれ竜理教本部に乗り込み、宮田に指示した竜王も倒す」
「目的が殺人というのはいただけませぬが御父上を殺されている次第ではまあ、わからなくありませぬ。仇討ちへの加勢とあらばいいでしょう。んー……そこで疑問なんでござるが、佐渡の事件から今に至るまで、なんで竜理教は一切手出しして来ないのでござろうか? これまでの話を聞くにやつらの目的は辰上氏の拉致でござろうが、それにしてもここ最近音沙汰なく使者や刺客も放たないのはなぜなのか」
「多分……単純に計画を練っているのではないでしょうか」
彩那がそう答えると小太郎は「ん~」と唸り声を上げる。納得いかない様子の小太郎は漆紀に質問を投げかける。
「宮田という銀髪魔法使いが辰上氏のお父上を殺した理由はなんでしたか?」
「竜王に、心はいらないって。そういって父さんを殺しやがった」
「ふむ……ならば、辰上氏の親族を狙い兼ねないのではないでしょうか」
「というと?」
「家系図にある人物を一通り殺してやろう、そんな算段を立てているのでは」
「それだと真紀が危ないじゃないか!」
真っ先に漆紀の頭に思い浮かんだのは真紀の事だ。入院している真紀は、あと2ヵ月ほどで退院となる。今は無事だが、これからもそうとは言えなくなる。
「妹さんですかな。ですがそれだけですか? 辰上氏、ご自身の家系を本当に良く振り返ってください」
「父さんの実家、辰上家……」
「でも、日記を読むに辰上家の当主は竜王様のお父さんが殺したはずでは?」
「ああ。まあ、俺の害になるような実家だとか言ってたし竜理教に狙われてもまあ、いっか。うん……よし、真紀を守れば良いんだな」
「そうですな。休校中、妹さんを交代で守るでござるよ」
「でも、それだと妹さんには竜王様のお父さんの事を話さないといけなくなるのでは。家族以外の私や変態さんが病室に居座る理由をどう説明するんです?」
漆紀の悩みの一つは、未だに父・宗一の死を真紀に伝えられていない点だ。
宗一の死に関しては漆紀だけでなく、彩那も少なからず関わっている。佐渡流竜理教が動かなければ、本家竜理教も動くことはなかった。
間接的に宗一の死因を彩那は作ってしまっている。そして何より、漆紀を拉致した事実に真紀はきっと憤慨して漆紀と彩那との関わりを絶とうとするだろう。
「やっぱり、俺が覚悟決めて踏み出すしかねえよな。今度伝えるか……真紀にもう、二度とお兄ちゃんって呼ばれなくなるかもしれねえけど」
「それは……つらいですな」
「では竜王様、今日このあとすぐに妹さんのもとに行きましょう。それと、世理架さんにも今日の一連の出来事を話さないと」
「わかった。まずは真紀の病院だな……なあ平野。本当にお前、俺達と一緒にこれから行動してくれるのか? お前にとって得なんかないのに。それに、太田の例もあるから……俺は友達を争いに巻き込みたくない」
そう問うと、小太郎は気を取り直して心の底から思うことを口にした。
「確かに得はないでござる。しかし、拙者は自分の手の届く範囲の人ぐらいは助けたいでござるよ。そういう己の信じる義のある生き方をしたいでござる。その末に死んだとしても拙者は悔いなどないし、そうありたいと思ってるでござる。だから、妹さんを守るというなら守るし、竜理教にカチコミに行くというのなら拙者も参戦するでござるよ」
「ありがとう……お前キモオタだけどキモオタなんかじゃないわ。本当にありがとう、今から小太郎と呼ばせてもらうぜ」
「こちらこそよろしくでござる、漆紀殿」
「はぁー!? なんで私を差し置いてファーストネーム呼び合うんですか! 竜王様気は確かですか!」
彩那が漆紀と小太郎の胸倉を掴んで食って掛かるが、漆紀は呆れた様子で彩那を宥める。
「野郎同士の友情に食ってかかるなよ、これはそういうもんなんだって竜蛇!」
「もう色々話した仲なんですから私の事も名前で呼んで下さいよ竜王様! 同じごはんも食べたし同じベッドで寝た仲じゃないですか!!」
「えっ!? 漆紀氏、ちょ、彩那嬢と一体ナニを!」
「あっ、変態さんは私のこと名前で呼ばないでください」
「おい竜蛇―っ! 滅多なことをあれこれ他人に話すな! 誤解されるだろ!」




