43. 死ぬのに一人は嫌ですよ
「あぁ……あの時だったな。思い出した」
漆紀は母が死んだ時のことを思い出し、顔を顰める。
「呪いで亡くなったんですね。確かに、魔法に〝呪い〟なんてものは聞いたことがないです。ですから、解除の方法も……きっとなかったんですよね」
「そうだな……竜蛇、もし呪いでいつ死ぬかわからないってなったら……お前ならどうする?」
「私だったら……佐渡に帰りますか。もし、本当にもしもですよ? 竜王様が一緒に居ればいいなぁって」
「だから結婚ネタやめろって言ってんだろ」
「もし呪いにかかったらって自分で聞いといてそれですか。モテないですよほんと。だって、こんなに深い仲になってる人って、今だと竜王様しかいないですもん。それに……」
「それに?」
「死ぬのに一人は嫌ですよ……」
「竜蛇……」
「……」
「お前友達いないんだな」
「なにおおおぉぉぉぉ!!」
「ちょ、掴みかかんな! 日記破れるだろアホ!」
漆紀の言葉に何か怒りの琴線に触れたのか彩那は漆紀の胸倉を掴んで揺さぶる。
「私がぼっちだって言いたいんですかコラあああぁぁぁぁ!!」
「事実だろ! 今までの宗教勧誘と説教で学校でのお前の評判クソなんだからな!」
「事実陳列罪! 言っちゃいけない事とかわからないんですか竜王様!」
「なんだよお前そんなに俺と触れ合いたいか、そうかよこれでどうだ!」
漆紀は彩那を強く抱きしめると。
「えっ、ああっ、竜王様! 急にそんなの情熱的ってか痛っててて!! ちょ、力入れすぎ痛いですよ! ベアハッグじゃないですか!!」
「ああそうだ! これからは学校で宗教勧誘と説教やるんじゃねえぞ! それやめりゃ友達出来るから」
「もう宗教勧誘と説教はしてないですよ! 離してください! ちょっとぉ!」
「じゃーこれは嫌か?」
彩那を静かにさせるべく、漆紀は彼女の膝の裏に右腕を、彼女の首の後ろに左腕を回して持ち上げた。
「ちょっ!?」
俗にいうお姫様だっこ、それを漆紀はやってのけた。漆紀の性分だと、恥ずかしいわけではないが臭いからやりたくない事だ。
しかしここ最近彩那と過ごして漆紀は何となく彩那の扱いとうか、癖や好みを理解しつつあった。
漆紀の行動が功を成し、彩那は顔を赤くして黙り込んでしまった。
「部屋に戻すぞ。日記はもう良い……明日も学校あるし寝ないとな」
漆紀は彩那に貸している真紀の部屋に入るとそっと彩那をベッドに横たわらせる。
「ま、まさか竜王様がこんなことをするとは……」
「なんだよ、お前こういうの好きなんだろ。俺は臭いから嫌だけど」
「……わかりましたよ。でもあと歯磨きがありますから」
彩那は起き上がると、視線をやや下に落としたまま漆紀の横を通り、部屋を出た。
漆紀は自室に戻り、ため息を吐いてベッドに横たわる。
(母さんは後悔せず、恐れずに幸せなまま逝ったんだな……)
日記の内容、母の発言の通りならきっと陽夜見は今の漆紀を喜んでいるのだろうか。真紀の今の事を考えると、漆紀は母に顔向け出来る息子ではないなと小さく自責と自己嫌悪を覚える。
(俺が……理不尽を許せない性分なのは……きっと、母さんの事があったからだ。そんな気がする)
呪いと呼ぶべき魔法による陽夜見の死。これは理不尽と呼ばずになんというか、漆紀は自身の性分の理由を、ようやく自覚した。
真紀には小学生の頃に理不尽を許せない性分に関わる理由があると話したが、深い理由はそんな関わりの低いものではない。
肉親を理不尽に失った事実。これ以上ない理由だ、これ以外に漆紀自身も考えられない上に、これが理由だと思い出した。
(ごめんな、母さん……生きてたら……俺のこれまでの行いを許してくれるだろうか)




