40. 回復後の彩那
3日後の朝
「いやぁー軽くなりましたよ。もう健康健康」
調子を取り戻した様子の彩那が両腕をぶんぶん回しながら漆紀に笑顔でそう言う。
「もう本当に平気なのか?」
「私は竜脈の巫女ですよ? 竜脈の力を受けているから体の調子の浮き沈みも普通の人とはちょっと違うんですよ。まあとにかく大丈夫です。今日も朝食ありがとうございます!」
「とっとと学校行くぞ。ほら、食って食って」
漆紀は生姜焼きや目玉焼き、みそ汁といったごく普通の朝食を作り、彩那に食事を促す。
「どうもどうも!」
(……コイツはなんというか、元気な方が可愛いよな)
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放課後を迎え、漆紀は彩那と帰路についていた。とはいえ自宅に帰る前に寄り道がある。
世理架との魔法の練習である。
夜露死苦隊がかつてアジトとして使っていた廃墟。漆紀と彩那はとこに着くと、怒っている様子の世理架が待っていた。
「おい漆紀君、ここ三日ほどなぜ連絡を無視してサボっていた。どういうつもりだ?」
「竜蛇が体調崩してたから看病してた。なんか悪いかよ」
「そうですよ。竜王様のおかげで元気になりましたよ。何か?」
「……そうか、それならいい。さあ、せっかくだから二人には魔法の連携を練習してもらう」
世理架はあっさりと漆紀と彩那の言い分を聞いて気にしなかった。
漆紀は無言で村雨を右手に取り出し、構える。
「さっさとやろう。竜蛇、魔法は出来るか? 連携っても、どうするか」
「私のは体内に宿した竜脈のエネルギーぶつけたり、地中の竜脈や水脈に温泉……水道管なんかを破裂させて水を取り出せたりしますよ」
「ここって地下水とかあるのか?」
「低いとはいえ山ですし、少し離れたところに狭山湖とかありますし……」
「なら水だ、水の連携をやろう」
30分後
「はぁ、はぁ、疲れた……」
「おいおい漆紀君、若いのだからこの程度の練習でバテるんじゃない。ちゃんと筋トレも進めてるんだろうな?」
「あんたやっぱりババアだろ……竜蛇、まだ行けるか?」
「ずーっとノンストップで魔法を使うのは……凄い疲れます……はぁー……でも、体調は元気なんで、まだ行けますよ……でも休憩欲しいです、はぁー」
魔法で出した水を繋げたり、お互いの水の勢いを重ねたり、主に水の連携を行った。やってみた所、二人とも連携自体はそれなりに形になっている。だが相手のペースに合わせるべくお互いがお互いを意識しながら魔法を行使するせいか疲労してしまう。
「病み上がりにしては良くできているよ彩那ちゃん」
「ど、どうも……」
「なあ世理架さん、もう今日はこれで終わらねえか? すげぇ疲れたんだけど」
「ダメだ、今疲れてようが実戦じゃ戦わざるを得ない時だってある。そのまま魔法を使い続けるんだ」
「クソっ……はぁ、やるぞ竜蛇!」
「はいっ!」
漆紀と彩那は息を荒らげながらも魔法を再度駆使して連携練習を始めた。
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翌日の夜。この日は金曜日であり、日頃部活動や習い事などで疲労し夜更かしが出来ない高校生たちが明日は休みだからと夜更かしして趣味やらアレコレ楽しむ曜日である。
「お、また佐渡から輸血パックが届いたのか」
玄関から出て、玄関前に置かれた段ボールが2つあった。段ボールに貼られた紙を見ると配送元は新潟県佐渡市であった。段ボールの中身を開けるなりぎっしり詰まった輸血パックを見て漆紀は喜びを覚えた。
漆紀は佐渡を去る際に自分のために献血を信者や住民たちに呼びかけていた。その際の要望通りに最近は輸血パックが漆紀の自宅に何度か届けられている。
「あー、また届いたんですね。これで更に魔法の回復効果が使えますね」
「ああ、寝る前ぐらいに村雨に吸わせとくか」
血液入り段ボールはリビングに一旦置くと、漆紀と彩那は階段を上がる。
二人は宗一の部屋へ入り、日記の続きを読もうとしていた。
「さてと……確かこの前のはコレか。まあ少し先の描写を見た方が良いか。一冊飛ばして読むか」
「竜王様が誘拐された事件のところでしたっけ、前回読んだのは」
「ああ」
辰上家が漆紀と陽夜見を誘拐。それを救出すべく宗一が辰上家へ突入。二人を人質に取っていた当主・言夜の目的は宗一の殺害。
結果として、宗一は言夜を殺し漆紀と陽夜見を救出したものの、言夜が今際の際で陽夜見に呪いをかけたのだ。
その記述を読んだとき、漆紀はピンと来てしまったのだ。
母が早くして亡くなったのは、この呪いによるものではないのか。
だとすればこれから日記に書かれる事は、どう足掻いても悲劇だ。
母の悲劇を知る羽目になる。それでも漆紀は本棚から日記を手に取り、開いた。




