39. 真紀と彩那の不調
病院にて。
真紀の病室に来て、漆紀は真紀と話していた。大した話はないが、不意に真紀は漆紀の心を抉る質問をぶつける。
「ねえ……お父さん、は……なんで、来ない、の?」
無理だ。答えられない。漆紀は確かに答えを持っているが、それを真紀に告げる事など到底出来ない。
父が死んだ原因は自分にあるのだから。
「真紀、父さんは」
「忙しい? 今まで……そんなに、忙しく、なること……なかった。あたしが、こんな大怪我で……入院してる、なら……無理に、でも休んで、来るはず……」
忙しい、は通用しそうにない。だが話せるはずがない。
「父さんのこと、そんなに聞きたいか?」
「……」
「……」
沈黙。静かな病室で、機材や看護師達の声ばかりが聞こえてくる。
「……いいや、今は、聞かない」
「そうか」
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「悪い、少し遅れた」
漆紀は自宅に戻り、2階の彩那の居る部屋に入って様子を伺う。彩那はベッドで寝転んでいた。
「起きてますよ。相変わらず怠いですが……朝食と昼食ごちそうさまです」
「色々材料買って来た。今から夕食作るから待ってろ」
漆紀はそれだけ言うと自室に戻って着替えてからキッチンへと向かう。
(まず竜蛇はあんまり重いものは食べれない。色々栄養取れるスープを作ろう。ホウレンソウ、マグロの切り身を入れて鉄分取れるスープにするか)
そそくさと調理を進め、漆紀は5分足らずで具材を切り終える。鍋に水を入れ、しばしコンロで加熱し温かくなってくると野菜をまず入れる。野菜を煮つつ、鍋の水にしみ出した目に見える灰汁をお玉で取り除いていく。
やがて野菜が煮えてきて柔らかくなると、漆紀は他の具材も入れて煮ていき、少しずつコンソメや塩、コショウを入れて味付けしていく。
「……っし。これでスープ完成だな」
だがここでふと漆紀は悩む。果たしてスープだけで良いのだろうか。今の彩那の状態を考えるとあっさりしていて色々栄養を取れて温かいスープというのがベストではあるが、スープだけでは殺風景ではないだろうか。
(果物あったっけ)
漆紀は冷蔵庫の中を見る。果物は買ってきていない。いや、厳密には缶詰ならあるが、それは妹の真紀の缶詰だ。
(アイツが退院するまでアレは開けねぇって決めてんだ……あーもうしょうがねえ!)
漆紀はコンロを止めると、財布とスマホを持って素早く家を出て近くのコンビニへと走り出す。
(果物の缶詰ならコンビニでも売ってる。栄養は摂れても、スープだけじゃ心が寂しいよな。フルーツだ!)
15分後
コンビニから帰ってくると、漆紀はキッチンで缶切りを取り出してフルーツポンチの缶詰を開封して皿に盛る。
「これで良い……もう一回スープ温め直すか」
もう一度コンロでスープを加熱して温め始め、5分くらいすると漆紀はコンロを止めた。
大きめの椀にスープをお玉ですくい上げて入れていく。一通り椀にスープを入れると、漆紀は普段使わないトレーにスープとフルーツを乗せていくが。
「竜王、様?」
ベッドから起きてきた彩那が、漆紀の様子を見て首を傾げる。
「ああ、下に降りるの怠いだろうし上に料理持って行こうと思ってな……トイレか?」
「はい……下に降りてきたし後で食べますから、テーブルに置いてて下さい……わざわざどうも」
「わかった。まあ、無理すんなよ。水枕の水、替えとくからな」
彩那がトイレに向かうと、漆紀は階段を上がり彩那が寝ている部屋に入って水枕を取り1階で新しい水道水と氷を入れ直す。
(大丈夫、今のところ彩那はキレてもないし俺は下手を打ってないみたいだ)
漆紀は慎重に彩那の様子を見ながら、彼女の体調が早く治るようせっせと行動をしていく。恐らく世理架からなぜ魔法の練習に来ないのだとアレコレ問われるだろうが、この際それは無視しようと漆紀は思った。




