38. 甲斐性
漆紀はふと目を覚ます。時計を見ると、時刻は五時十七分。
二度寝しようと布団をまたかけ直そうとするが。
「んっ……ん~……」
漆紀のものではない、苦しそうな寝息が聞こえてくる。
「竜蛇か……大丈夫かな?」
彼女の様子が気になり、漆紀はベッドから起きて立ち上がる。自室を出て、妹の真紀の部屋、彩那が寝る部屋へと向かう。
漆紀が扉をゆっくり開けて、部屋へ入っていく。
「おい、竜蛇。大丈夫か?」
「はぁー……はぁー……調子悪い、です」
「体温計取ってくる」
漆紀は1階に降りて体温計を取り、部屋に戻って彩那に体温計を手渡す。彩那は腋に体温計を挟み込んで検温を始める。数分すると、ピピっと体温計が鳴る。
「三十七度八分……今日は学校行けないですね……連絡は自分でします」
「風邪か? でも昨日そんな感じは全くなかったけどなぁ……ま、いいや。怠いか? 体痛いか?」
「まあ動きたくないぐらいには」
「わかった。ちょっと待ってろ」
漆紀は部屋を出て、自室に戻って財布やスマホを手に取る。階段を下りて家を出ると、漆紀は近所のコンビニへと向かった。
15分後
漆紀は自宅に戻り、階段を上がって彩那のもとに来る。
「竜蛇、ちょっと色々買ってきた。ヨーグルトとか、色々……今日休むなら、今のうちになんか作っとくぜ。1階まで降りて来る事は出来るか?」
「身動きは出来ますよ、怠いし重いし痛いだけで我慢すればまあ降りれます……怠いけど」
「分かった、じゃあ朝飯とか昼飯先に作っておくから」
漆紀は1階に降りると、買って来たものをレジ袋から取り出す。食べ物は勿論、彩那の様子から察して生理用品もコンビニで買えるものを買って来た。男が一人コンビニに行って食べ物を買うだけならまだしも生理用品まで買っていたので店員から怪訝な目を向けられた漆紀だが、その内心恥ずかしさは少しある。
トイレに行き、目に付く位置に生理用品を淡々と置いておく。
流れる様にキッチンへ向かうと冷蔵庫にある材料と買って来たものと今の彩那の体調を鑑みて調理を始めた。
(竜蛇、あの調子はまあ生理だよな普通。脂っこいものはダメ、あっさりしてて鉄分のあるもの。でも汗もかくだろうし塩分は必要……まあ塩分や程よい糖分はスポーツドリンクで足りるだろ)
あれこれ彩那の状態を考えながら、調理を進めていく。
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6時50分
「竜蛇、料理作っといたぞ。昼の分もある。スープは少量だけどキッチンの鍋にある。料理は全部冷蔵庫に入れてあるからレンジで温めて食べてくれ……なあ、もしめっちゃつらいなら俺も仮病使って休んで看るけど」
「大丈夫ですよ……料理ありがとうございます。学校行って下さい。もう少し経ったら学校に休む連絡するので」
「わかった。無理すんなよ」
漆紀は本当に大丈夫かと心配しつつも、登校の準備をする。
(竜蛇の分を作らなきゃって思って自分の分作らなかったな……朝食はコンビニ飯でいいか、サンドウィッチとおにぎり、から揚げ……まあ野郎の胃袋なら平気なもんだ)
それと忘れずに漆紀は1階の押し入れから水枕を取り出す。水枕の中に水道水と氷をたっぷり入れて、タオルを巻く。階段を上がって、再び彩那のもとに来ると彼女の頭をそっと触れて持ち上げる。
「竜蛇、水枕だ。熱も出てるんだしこの方が良いだろ」
「どうも……」
「あっ! バッカ俺……あと濡れたタオルも必要だろ!」
再び1階に戻り、タオルを水道水で濡らして、また彩那のもとに来ると彩那の額に濡れたタオルを置く。
「悪いな、体調悪いってのに面倒見れなくて。良いのか?」
「しつこいですねぇ。大丈夫ですよ、学校行って下さい」
「悪い」
それだけ言って漆紀は自室で荷物を持って、それから部屋を出て最後に挨拶と思い彩那の居る部屋の扉を軽く開ける。
「じゃあ行ってくる。放課後すぐ戻ってくるから、待ってろよ!」
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「っし、終わり!」
帰りのホームルームを終えて、漆紀は教室を出て帰ろうとするが。
「おい辰上! ちょい待ちちょい待ち」
クラスメイトの女子らしくない男っぽい野郎感のある女子、七海が漆紀を呼び止める。
「なんだよ」
「お、辰上氏。拙者も聞きたいことが」
「オレもオレも」
キモオタで名が通っているHENTAIキモオタ男・平野小太郎と、クソゲーマーとかいう絶望的な破滅趣味の烏丸蒼白が話に乗っかってくる。
「辰上さー。前まではよくアタシらと放課後にあれこれバカみたいにバカ騒ぎしたり遊んでたのに、最近結構早く帰っちゃうよな」
「それそれ。オレも気になってたんだよ」
「拙者も気がかりではありましたな」
そう言う小太郎だが、漆紀がここ最近なぜ早く帰るのかを知っている。
(まあ拙者の場合は辰上氏が魔法の練習の為に早く帰っていると掴んではいるのですが……まさかそんな真実を漏らすわけにはいくまい。ここは茶化す方向で話を持っていくでござるよ)
キモオタにして現代忍者・平野小太郎は忍者らしく話術を用いて会話の流れを茶化す方向に持っていってやろうと考えた。
「拙者が思うに……まあ拙者がキモオタやめるぐらいありえない確率ではあるのでござるが……辰上氏、拙者が見るに女の影がチラつくでござるよ」
「「は? はぁー!?」」
小太郎の言葉に蒼白と七海が素っ頓狂な声を上げる。小太郎は内心「下田嬢は尾行で辰上氏が竜蛇嬢と仲良くなっていると知っているだろうに」と七海の芝居がかった声に呆れる。
「おいおい平野! それ本気で言ってるのか? この無個性DT野郎が彼女!?」
「おい烏丸、日頃お前は俺に対してそんな風に考えてたのか、屋上行こうぜ」
「いやいやアタシから見てまあ……モテそうな属性自体は感じるんだけど、なぁーんかその……うん、辰上は女と付き合ってるって感じはしっくり来ないな」
「オイ。俺にだって少なからずそういう意欲はあるぞ。彼女はいないけど。将来的にはな」
「コイツしれっと将来的にはとか口にしたぞ。ICCやめんのかコラぁ!」
蒼白が半ば嫉妬交じりに漆紀の胸倉に掴みかかって問いただす。
「ICC抜けんなら指詰めろや!」
「ヤクザかよ。お前あれか、そんなに嫉妬するって事は烏丸は誰かと付き合いたいのか」
「うるせ~!! 指じゃなきゃチ〇コ詰めろや!!」
この発言には小太郎も七海も「うわぁ」と声も漏らしてドン引きする。
「烏丸氏、チ〇コ詰めろは流石に品性とか色々どうかと思いますぞ」
「本当だよ。てめぇが詰めろよ烏丸」
「なんだよ! なんでオレが逆に責められるワケぇ!? そもそも女の影がチラつくとか言い出したのは平野だろうが!」
他の生徒達は次々に部活や下校の為に教室を出ていき、人が減る事で漆紀達の紛糾が悪目立ちする。
「まあ待て待てお前ら。平野の言ってた通り、女の影がチラつくって部分は合ってるよ。でも本当に彼女とかじゃないんだ。妹の見舞いに行ってるんだよ」
「「「妹の見舞い?」」」
「ああ。妹が大怪我してて入院してんだ。だから最近早く帰ってんだ。病院の面会の時間は限られてるし」
「あーそっか……妹さんか……うん、嫉妬してごめん。マジごめん」
蒼白は大人しくなって漆紀の胸倉から手を放す。
「妹さんでしたか。いやぁ、拙者の予想はまあ、形は違えど当たっていたでござるなぁ」
「まあそんなオチだろうとは思ったよアタシも」
「お前ら平然と手の平返しやがって……」
漆紀はため息を吐いて3人を見る。こんな毒にも薬にもならないやり取りをする友人関係だが、漆紀にはこれが心地良く充実しているなと思うばかりであった。
「もういいか? 妹の見舞いなんだ。身内の不幸なんて他人に大っぴらに話す事じゃないから話さなかっただけだ。もう行って良いか?」
「おう。悪かったな」
「妹さんお大事になぁ~」
「行ってらーでござる」
三人からそう言葉を受けて漆紀は学校を出た。




