35. 宗一の過去・その11
「なんか日記の記述見る限り、竜王様のお母さんすごい面倒くさい女ですね」
「多分お前には言われたくないと思うぞ竜蛇」
「なーんでですかーっ!! 私こんな面倒臭いこと言った覚えないですー!」
漆紀が率直な考えを出すと彩那は首を横に振ってそれを必死に否定する。
「助けて欲しいなら助けてって言わんとわからんのにヒロイン脳で私カワイソーアピールしかしてなかったし」
「それこそそんな事言ったら面倒臭い女じゃないですか! 嫌ですよ!」
「もういい、続き俺が読むからな」
彩那が横からあれこれ抗議するが、俺は気にせず日記の続きを読み上げた。
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1998年 12月22日
学徒会で仕事をした時の佐倉を飲みに誘った。女なら天川のことをどうすればいいかわかるはずだろうし、話をすることにした。
だが佐倉に色々話したら「そりゃあんたのこと好きにもなるだろバカ」と天川の肩を持っていた。そう言われても俺は困る。それと「どの女だろうが多かれ少なかれ面倒臭いところは絶対ある。私もそれがあるし、誰だってある」とも言っていた。
天川、まさか本当に本気で結婚する気なのだろうか。
そんなことできるはずがない。あの両親はまず俺など論外だろうし、俺が傭兵やった経歴も知った上で天川にはそれを話さずボディガードをやらせていたわけだ。人殺しまくって金を得てる上に生まれもどこだか良くわからない下級国民の俺など絶対に受け入れるわけがない。
1998年 12月24日
もう天川の両親に関しては諦める事にした。恨まれる前提で結婚を押し通してやろうと思う。天川が心底懇願すれば、きっと結婚自体はできるだろうし婚姻届けも行けるだろうが、まず確実に恨まれるしそのうち俺に対してしれっと暗殺者とか差し向けてもおかしくないと思う。
1998年 12月25日
天川と一緒に俺は結婚についてあれこれ天川の両親に話すことになったが、当然思い切りぶん殴られるし包丁まで持ち出された。ボディガードに過ぎない、馬の骨に過ぎないお前がって、まあ予想通りの文句を言われた。
親父さんに関しては、最終的に承諾はするが生涯絶対許すことはないぞと言った。もし天川を少しでも傷つけたり悲しませようものなら全財産どころか会社の金全部使ってでも貴様を殺して見せると断言した。怖ぇよ、魔法使えても膨大な物量と緻密な作戦で攻められたら普通に死ぬ。
1999年 1月1日
天川はいつになく俺の約束に反して危険地帯に行こうと言った。どうやら初日の出を見たいとのことで茨城県のフロンティア地区の海岸へと行くことになった。
まあ、夜中のうちに行って無事に初日の出を見て帰ってきたわけだが、どうにも実感が沸かない。本当に俺が結婚だと?
冗談としか自分でも思えない。
なんでこんなことになったのか。こんな女だからだろうか。
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「やっぱ爺ちゃんからはめっちゃ嫌われてたんだな。そりゃまあ……そうだよな」
「まあ相手の親の存在は結婚において本当に課題となりますから」
「まあ俺らに当てはめると親両方死んでるけどな! あははははは……おい、なんで黙るんだよふざけただけだろ。仮の話だろ、それに結婚だとか俺に冗談かましたのは竜蛇のほうだぞ」
「はい、うん。あの、ちょっと笑いにくい冗談を言うのでうわぁと思っただけで」
「やめてくれ」
漆紀は日記の内容が一区切りついたなと判断し、次は5冊ほど日記を飛ばして読む。
「ちょっと飛ばしてくか。多分こっから先は結婚生活の話だろうし。なんか俺と真紀の話が出てくる辺りを見たい」
そう言って漆紀は日記を読み始めた。
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2004年 9月11日
結婚してそれなりに年月を経た。なんでこんなことを書くかというと、便利屋稼業が徐々に安定してきているからだ。
そしてもう一つは、陽夜見との間に子供がまだ出来ないこと。不妊というものは双方に原因があるものだ。勿論通院している。
こればかりが本当にずっと悩みであるし、散々この日記にも書いていることだ。
養子という選択肢も視野に入れた方がいいだろうか。
2004年 9月17日
久方ぶりにケイから連絡があった。気晴らしに太陽連盟が主催する魔法射撃大会に出たらどうかと提案があった。まあ射撃自体は散々やってるし人間相手もこれまで撃って来たのだから自信はある。なので陽夜見を連れて大会に行くことにした。
せっかくだから、旦那として良いところを見せたい。
2004年 9月22日
射撃大会に向けての練習がてらクレー射撃にもよく通うようになった。陽夜見は端から見てるだけだが、俺が長物の銃を使ってる様を見るのは新鮮なようで楽しそうだった。
射撃大会ではいい記録を出したいものだ。
2004年 11月15日
今日は魔法射撃大会。わざわざケイが転移で送ってくれた。久しぶりに異界に来たが、相変わらず人工世界の癖に地球並みに世界が広い。と言っても地球程の面積はないし実のところはアメリカ大陸未満らしいが。
射撃大会はなかなかやりごたえがあった。スピード、的の点数、どれを取るか判断力まで問われる。投下されるボムをどのタイミングで撃って爆発で点を取るか、あれも判断の連続だった。
結果を書くと、俺は2位だった。かなりの腕前の射手達が集まっていたが、今回は本当にベストな結果が出たと思う。初めての出場だったがかなり上手くいったと思う。
メダルも貰った。とはいえ、このメダルに関しては表沙汰には飾れない。魔法の存在自体が外界に知られてはいけないものなわけで、仕方ない。
ただ、陽夜見は喜んでくれた。どうせなら1位になりたかったが、まああんな凄腕の射手だらけの中でベスト3まで行けたのだから良しとしよう。
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「なあ、この射撃大会の話……なんだ太陽連盟って。異界って?」
「私もわかりませんが……魔法使いの集団が作っている空間があるのではないですか? その空間が異界で、そこの広さはそれなりにあるのでは? 魔法使いだけが来る空間なら、魔法の研究や教育、そういう社会を作ることも出来るとは思います」
漆紀の質問に、彩那は推測だがそう語る。
「魔法使いの集団が居る事は聞いてたし、魔法の存在がバレるような真似をしたら始末されるって聞いてた。多分、ちゃんとした社会が出来てて、こっちの世界でやらかしたヤツを罰せれる体制が出来てんだろうな」
「なら竜理教が未だに消されてない理由は……竜王様の絶大な力が理由でしょうか。それをバックに上位の信者を魔法使いにしている……まあ、佐渡流も私のような司教家含め上位の者は魔法の存在を教えてますが」
「こんだけ読み進めてるのに、まだ俺と真紀の話が出てこない」
「もうちょっと読んでいきましょう」
漆紀は半分飽きてきた様子で続きの文章に目を通した。




