32. 宗一の過去・その8
1996年9月8日
今日も今日とて危険地帯……こいつは危険地帯に何のロマンを求めているんだ? 全く理解できないが、こいつの中の世界ではこの危ない場所に何か色々あるみたいだ。
だとしてもそれもあと数日だ。
門限を少々破ることになるので天川の両親からは厳しい目をされるだろうが、仕事の遂行のために必要なだけだ。
場所は千葉県の金田の海岸。東京湾の夕陽を見に行く。
仕事だ。恥じるな、照れるな。好意がないなら、ただ平然とそれっぽく演技して言うだけだ。恋愛関係に持ち込んで危険地帯へ行くのをやめさせてやる。
1996年9月18日
少し涼しくなってきたこの頃に、ようやく俺は計画を実行した。俺は天川自体を説得させるために門限を破る旨を両親に説明した。無論渋る顔をしていたが、本人の命を優先しての判断と、あくまで仕事のためと強調したら許してくれた。
それでいい。
天気は良好で快晴。予定通り午後五時頃に金田の海岸に到着。東京湾を輝かせる夕陽がこれでもかと視界に広がる。
景色に関しては俺も想像以上に見惚れてしまった。
天川と夕陽を交互に見やって、色々話をする。お前のせいで何度死にかけたとか、こんなにいい景色があるのかとか。
勿論もっと切り込んだ質問をしてやった。
危険な場所に行く本当の理由を聞かせてくれ。そしたらあっさり答えやがった。
答えはこうだ。危険地帯に行くような娘なら親も見合いを諦めてくれるし、やばいヤツだって事で相手方も退くので、自由に伴侶を見つけることができるから。
どうせ一回の生涯なのだから伴侶は妥協せずに私の無茶ぶりを付き合ってくれて退屈させない人が良いから、とのこと。
あまりに、あまりにも痛々しい理由だ。なぜ抗う、大人にならない。既に年齢は大人だし、自分の生まれに沿った生き方をすれば良いものを。
俺は自分の生まれからして、これしかないから今だってこんな稼業をやって生きている。
天川はなんだ? わからない、こんなヤツが居るのか?
だが、どれだけ動揺していても口説かねばならない。俺は思い切って「俺はそれに近いか」と聞いてやった。
もちろん天川はきょとんとしていたが、俺はあれこれその場の心の限り思いつくことを言った。口から出まかせだが、なんかうまくいってしまった。
これは恋愛関係に持ち込めただろう。最後に言った「だから、危険地帯に行くな。退屈させねえから」ってのが結構効いたのだろうか?
なんにせよどうにかうまくいった。その代わりに、これから俺は天川を連れて色んな場所に行ってやらないといけなくなった。危険地帯に行って死なれるよりマシだし、俺も観光地行ったりいい景色見れて得だ。
___________________________
「あーあ、結婚詐欺成功しちゃったかぁー……」
彩那がため息交じりにそう感想を零す。
「さ、詐欺じゃないから。ちゃんと最終的には父さんは母さんと結婚してるから」
「でもこれこのままだとどこかでヘマしてすれ違いが起こって破局しますよ。これでどうやって本当の夫婦になるんですか?」
「わかんないよ。ただ、結婚して俺も真紀もいるんだから、ちゃんとどこかで本音で話して、その……わ、和解っていうか、あー……あ、愛、愛~」
「愛し始めたと」
「お前なんでそんな恥ずかしがらず言えんの?」
「だって他人の家族様のエピソードですし」
「えー……」
「じゃあ続きいきまぁーす」
彩那はまた日記の続きを読み始めた。




