30. 宗一の過去・その6
「なーんかハチャメチャな生活になりましたねこれ。私が言うのもなんですが、この女性結構面倒くさい思考してそうです」
彩那がそう感想を零すと、漆紀は「はぁ」とため息を吐く。
「なっ! 私に対してですか? 私の事を面倒臭いって思いましたぁ!?」
「違う、この天川っていう……これな、母さんだよ。母さんの旧姓・天川だから」
「え……じゃあなにこれ、これが馴れ初め話ってことですか? うわぁー……」
彩那は引き攣った笑みを浮かべ、漆紀は一切知らなかった母の一面に対して呆然とする。
「じゃあ、私が続き読み上げますからね」
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1996年 6月14日
ついに問い詰めた。なんで危険を冒してばかりなのか、どういうつもりなのか。お前の両親も危険なことをすると聞いて困ってるぞと、はっきり言った。
だが天川はどういうわけか今まで以上にまっすぐな目で「私自身のため」と言い返してきた。自分のために危ない事をする……どういう思惑から危険な事が「自分のため」になるかはわからないが、少なくとも俺が命がけで戦ってきたような意味での「自分のため」ではなさそうだ。俺とは違う理由で危険を冒している。
どういう思惑があるというのか、それまでは話してくれなかった。
1996年 6月22日
今日は見合いがあった。未だにこういう金持ちの家系は見合いがあるようで、天川のそれに俺も付き添った。とはいえ、終わったあとの天川の表情はどこまでも不愉快極まる様子で、ひどく沈んだ顔をしていた。
今まで見せたことのない表情。俺までなんだか下を向きたい気分になった。
1996年 7月3日
ボディガードに非番の日はない。思えば俺は最近酒を飲めてない。なんなら旨い居酒屋やレストランにも行けていない。スーパー銭湯とか、映画館とか、そういうささやかな娯楽すら行けてない。いつも天川の無茶ぶりに付き合って疲れてばかりだ。
天川を守りつつ、そういう場所で旨いものを食ったり娯楽を楽しんだり休むにはどうすれば良い?
俺は高卒程度の学のねえ頭で考えたね。そこで逆転の発想で思いついた。
天川に振り回されるんじゃなく、俺が天川を振り回せばいいじゃねえか。
どうせあいつの行く先は危険地帯ばかりだが、それと比べ俺が行きたがっている場所は安全極まりない。
とはいえ油断さえしなければ良いのだ。
そうと決まれば天川を強引でもいいから誘おう。
1996年 7月6日
遂に天川を振り回すことに成功した。酒も飲めた、旨い料理も食えた、映画館も行った。
気は抜いてないのに息抜きとはおかしな文章になるだろうが、確かに娯楽は楽しめた。
天川も最初はしぶしぶだったが、少しずつ楽しそうな表情になっていた。
とはいえ、こういうのはたまにだ。ボディガードの仕事である限り、俺が天川を振り回すのは本来NGだ。
しかし天川を自宅に送り届けた時、意外だったのは「また今日みたいに回ろう」と言ってた事だ。危険地帯ばっかり行く天川にもマトモな感性が残されていた事に少し感動した。少しだがな。
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「……」
「……」
「竜蛇、これさ」
「はい、私も多分同じこと考えてます」
「じゃあ言うぞ、せーの」
「「これデートじゃん」」
ボディガードが対象とデート。この当時の宗一自身に自覚はないが、漆紀の母こと天川は明らかにデートだと意識している様子が日記から察せられる。
「逆転の発想ではあるけど……まあボディガードに非番の日はないよなそりゃ。そりゃあ……業務時間中に全部やるしかないよな」
「とりあえず続き読みますか。人様の親の過去を見るのはなんだか申し訳なくも思いますが」
彩那はそう畏まりつつも、日記を読み進めた。




