28. 宗一の過去・その4
「竜王様のお父さん、武装市民勢力とも戦ってたんですか」
「らしいな。しかも建物までぶっ壊すって、なにやってんだよ父さん」
若き頃の父の無茶苦茶っぷりに思わず漆紀は吹き出して笑ってしまう。
「あの大抗争時代は確かに法治国家日本のソレではないくらい銃撃戦が多発していたと散々社会の教科書で学びましたが……こんなにだなんて」
「フロンティア地区ってなんだっけ?」
「政府が都市開発を進めたいものの、その地区の住民たちがそれを拒否して戦後間もない頃の文化・文明のままの地域ですよ。最近はそうは言っても、車や電気もそこそこ取り入れてるそうですし、反社会勢力のブラックマーケットの隠れ蓑になってるとも聞きます」
彩那がそう細かく教えてくれると、漆紀は「なるほど」と納得する。
「竜蛇ほんと色々知ってんな。俺よりテスト良かったの国語だけじゃなさそうだ」
「竜王様がいい加減に覚えてるだけですー!」
「しかし、この感じだとまだまだ傭兵仕事の日記が続くだけだな……まだ母さんの事や、俺……真紀のことも出てきてないし。ちょっと飛ばして読むか」
漆紀は持っているノートを本棚の元の位置に収納すると、左端から6冊分ほど右にズレたノートを手に取る。
「んじゃ、ちょっと飛ばしたけど読んでみるか」
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1992年 5月3日
もう最近はひたすら惰性で似たような仕事をただただ最低限引き受けるだけ。食い繋ぐために撃って、殺すだけ。
とはいえ魔法の訓練は欠かさない。これは通常の攻撃手段がなくなった時の切り札でもあるのだから。ケイは相変わらず歳を取ってるように見えない見た目で、しいて言うなら中学三年生程度の見た目になったぐらいか。
たまにデカい仕事も受ける。要人暗殺や建造物への破壊工作。
だが、そもそも傭兵の需要自体が下火になってきた。最近はもうどの勢力も抗争を続け過ぎて疲弊したのか、攻め入ることをしていない。武装市民勢力も次々形骸化して、拠点を持たねえ存在になっている。
増えた依頼があるとすれば、宗教組織だ。
竜理教だけじゃない、アヅマの光、曇天教、などなどよくわからん名前の宗教団体が次々生まれているようで俺に依頼が回ってくる。
正直言って面倒くさくなってきた。俺はなんのために傭兵をやっているんだ? これしかないからやってるだけだろう? 夢? そんなものはない。
ならなんのため。
わからなくなっている。
1992年 5月9日
仕事をせず、今日は高校の数少ない友人と酒を飲んだ。俺の最近の生活について話したら「将来結婚する気とかないのか」と言われた。そんな事は考えたこともなかった。
ただ自分の人生の在り方で、俺はこういう在り方しかできなさそうだから、それに甘んじている。
正直、酒がまずかった。
1992年 5月17日。
珍しく仕事で固有魔法を使った。もう今の俺は銃弾を受けても傷には至らない。固有魔法のおかげだ。俺の生まれ持った魔法。だが疑問はある。これまでの仕事で、俺は魔法を使う敵と会えていない。会いたいと思ったことはないが、魔法というものは戦いにおいては便利なはずだ。傭兵をやっている連中の中には、魔法使いもいるんじゃないかと考えた。
実際はわからない。
だが、俺の知っている魔法使いなんてケイぐらいしかいない。
魔法使いの集団も居るそうだが、一度くらい接触してみるのも良いかもしれない。
1992年5月28日
魔法使い連中とは会えたが、やつら研究やら教育やらそんなものばかりだ。俺のように戦っている仕事人気質な魔法使いがあそこにはいなかった。
大した感慨もない。つまらない体験だった。




