27. 宗一の過去・その3
「魔法を教わるって……父さんが魔法を教わった相手は確か、世理架さんのはず」
「多分当時は別の名を名乗っていたのでは? あの人自体素性が怪しいんですから」
「というか……マジで父さん、悪人……なんで父さんは……」
言葉に困り、詰まる。
だが、漆紀は再び日記を読み進めた。
__________________________
1986年 7月9日
江戸会のフィクサーから一昨日の孤児院襲撃について説明された。情報が漏れたのは、俺とも同じ班に編成されて戦ってた男が敵対組織に寝返ったからだという。
フィクサーの睨みが足りてなかったと言っていた。それでも納得できなかったが、そのフィクサーは俺の顔に札束を投げつけてきた。300万円やるから臭い口を閉じて仕事に戻れ馬鹿がという。
なんだか、その場でフィクサーを殺したくなったし死にたい気分にもなった。
金という暴力で他人の言い分を黙らそうとするのはもうやめよう。
1986年 9月4日
ケイという女から魔法を色々教わった。精霊術とかいう魔法、それを銃で使いたかったから俺は骨董品の銃を手に入れた。日清戦争の頃の骨董品の銃、それをしっかり実戦用にメンテナンスして俺の銃にした。名前は稲黒。この銃を引っ提げて、普通の銃の弾が尽きれば魔法をぶっ放して敵を殺した。
あの女と戦場に行くことも何度かあった。あの女は戦場にあっても非殺傷をすべく素手喧嘩で銃を持った敵を制圧しやがる。正直言ってイカれてる。ライフル銃でハチの巣にされても傷一つないなんて人間じゃねえ。どんな都合のいい魔法だってんだ。
このドンパチの仕事を始めてもう五か月たつが、既にかなりの金が貯まった。そろそろ独立した傭兵になろう。江戸会への手切れ金も用意している。
1986年 9月25日
独立したばかりは、なかなか依頼が来ない。ただ、よく来るのは武装市民勢力からの依頼だ。ただでさえ戦力不足で資金もカツカツでやりくりしている連中は、猫の手借りたいようでエージェントから片っ端から探して貰って俺に行きつくらしい。
今の俺に来る依頼は、ほかの傭兵が断りたがる面倒くさい仕事。さしずめ俺は依頼の最終処分場と化したわけだ。くそったれ。拠点防衛だの物資輸送車の警護だの、敵の制圧と比べると面倒くさい依頼ばかりだ。敵をぶっ殺してはい、おしまい。そういう仕事が恋しいぜ。
武装市民勢力は依頼の日数も多いくせに報酬額が少ない。はっきり言って傭兵からすれば旨味が一切ないクソ依頼だ。
1986年 10月11日
ケイとかいう女、漢字で頸とか書くらしい。見たことねえよこんな漢字。俺の言葉使いにいちいちガキ臭いだの教養がないだのガタガタうるせえんでチャカを頭にぶっ放してやったが相変わらずエアガンで撃たれた程度にしか痛くないらしい。
その魔法を教えろと言ったが、銃が効かない頑丈さは生まれ持った体質だから俺には無理だとか言いやがる。ふざけやがって、俺は相変わらず隠れたり避けたりの銃撃戦やゲリラ戦続きかよクソが。気分はベトコンのゲリラだぜ、最高だなオイ。ふざけんなよクソ女め。
1986年 10月23日
武装市民勢力がデモ行進を安全に行えるよう、警察部隊を遠距離から狙撃する任務についた。武装市民勢力は非殺傷を俺に要求した。敵を殺さず制圧できる手段、俺には稲黒の雷を低圧低流で撃ち続けるほかない。
盾を構えた重装備の機動隊相手となるとなかなか気絶もしないし倒れてくれない。流石機動隊だ、タフで面倒くさい。殺した方がやはり楽だ。
これを何日も続けて報酬は五十万円。あまりにも割に合わない。
1986年 11月6日。
ようやく良い依頼が来た。フロンティア地区を占拠する武装市民勢力の制圧。この前は神奈川の武装市民勢力の後衛をやったが、今度は千葉県の武装市民勢力の制圧……敵味方の関係が簡単に変わる。これが傭兵の世界だ。
金さえ貰えりゃ誰が敵でも味方でもどうでもいいが。
目標の建物は、千葉県のフロンティア地区にある旧日本軍の塹壕。未だに時代遅れの生活をしてる連中が、劣悪な銃火器を持って未だに政府の都市開発に抵抗を続けてる。
正直言ってイカれてる。イカれてる奴は油断できない。
1986年 11月15日
例の千葉県の武装市民勢力の制圧はどうにか成功した。山間部だったため、ゲリラ戦を仕掛けて攪乱して、アンテナへの破壊工作と建造物破壊。この二つで敵を制圧して、残った敵を撤退させることに成功した。
建物を破壊してしまったことから少し評価が下がるが、それでもかなりの額の報酬が手に入った。政府とつるんでるヤクザ連中からの依頼だけあって良い額だ。
1986年 11月23日
また地味な依頼だ。度重なる銃撃戦によりゴーストタウン化した地域で、勢力図がどうなっているのか調査して欲しいって依頼だ。ゴーストタウンでは、そこいらの暴走族の連中が不法占拠して縄張りとしている。ヤクザ連中はどの暴走族を抱え込むか参考にするために勢力図を調べろって話だ。
俺は戦闘や破壊工作に暗殺なら得意だが、こういうスパイがやる諜報任務は無理だ。ケイを連れて、あいつ頼りの仕事になってしまいそうだ。あいつに報酬とは別に金を払ってやらねえと受けねぇだろうな。
1986年 12月6日
学校の方は出席日数ギリギリだが、そもそも俺のいる学区も抗争が起きる影響で登校しないでくれって期間があったりするお陰で首の皮が繋がっている。
問題はない。それより金だ。今まで依頼はいろいろやってるが、まだ俺の貯金は1億以上貯まってない。
一流の傭兵は、1億以上貯め込んでかららしい。俺はまだだ。
1986年 12月31日
思えば長すぎる一年だった。この一年で俺は金持ちだが、何度も死にかけた。その過程でどういう巡り合わせか、魔法を覚えた。俺はただの傭兵じゃない。
頭のすぐ上を弾がかすったこともあったっけ。敵がヤケクソで投げてきたグレネードで吹き飛ばされかけたっけ。
やっぱり相手にしたくなかったのは警察と武装市民勢力。
そして、竜理教。
あの宗教連中が特にやばい。宗教のせいか、本当に死んでもいいつもりでかかってきやがる。俺に対して俺自身が何人も襲ってくる、そんな感覚だった。あれは相手にしたくない。腹のど真ん中撃ったのに、そのまま俺を殺しに銃を向けて来やがるし。
来年も生きてるといいな。
1987年 1月1日
新年早々銃撃戦に遭っちまった。ケイと年始でお祭り気分で新宿へいくなり大抗争勃発だくそったれ。金も出ねぇってのに無意味な銃撃戦に巻き込まれた。脱出は手間取ったが、かすり傷だけで済んだ。
この調子なら1億貯金達成してから死ねるかわかんねえな。




