23. 急接近、緊迫、探り合い
放課後、烏丸蒼白の自宅にて。
「ちょっと散らかってるが汚部屋じゃないだろ?」
蒼白がそう自慢気に漆紀、七海、小太郎の三人に言った。
漆紀、七海、小太郎の三人が蒼白の家へ遊びに来たが、三人が驚いたのは彼の両親が家にいないこと。共働きとか、そういうことではない。
彼には両親がいないのだ。事情までは詮索していないが、ただ蒼白はあっけらかんとした表情のまま「オレん家は親いないから」と軽く言いのけたのだ。
「烏丸、棚にあるパッケージって全部クソゲーなのか?」
漆紀の質問にこれまた自慢げに笑みを浮かべて烏丸は答える。
「そうだぜ、大体クソゲー。この部屋に置いてるゲームの大体はクソゲー」
「もはやクソゲーの博物館ですな。拙者が思うに、これだけのクソゲーを手に入れるにはそれなりにMONEYを費やしたかと察せますが……」
「バイトでどうにかなった。まあ、中には価値をわかってない店から格安で手に入れたクソゲーもあるからさ。金のやりくりは案外なんとかなってる」
「これ、中にはプレミアとかになってるクソゲーもあると思うのですが」
「平野鋭いな。ゲーム史において文化的価値のある高額クソゲーも手に入れてるんだぜ。早速クソゲーやって見せようか?」
蒼白がそう問うと、七海はふと思い出したように新たな話題を切り出す。
「あ、そうだ! こういう友達ん家で遊ぶ時は菓子とかなんか買ってこなきゃ! 忘れてたぁ~……平野、近くのコンビニでなんか買ってこよう。辰上、烏丸、なんか買ってきてやるぜ。駄賃と注文くれ」
「そうだな……オレはタコスチップスとジンジャーエールを頼む。500円渡しとくぜ」
七海が蒼白から聞いた買い物をスマホでメモして蒼白から500円を受け取ると、今度は漆紀へと視線を移す。
「俺? 俺はそうだな……和菓子詰め合わせでも買ってきてくれ。500円……あった」
漆紀は財布から500円を取り出して七海へ渡す。
「よし、とっとと行くぞ。平野荷物持ちな!」
「了解でござるよ。エスコート任せるでござる」
「大げさだな、アタシオタサーの姫になった覚えねーから!」
他愛のない言い合いをしながら七海と小太郎は蒼白の家から出てコンビニへと向かっていく。
漆紀は蒼白と二人きりになり、クソゲーをプレイする準備を始める蒼白を黙々と眺める。
(烏丸、なんでクソゲーなんかやってんだろうな。普通に考えりゃ、クソなんだしつまんないんだから……誰かとワイワイ楽しんでやるわけじゃないならクソゲーなんて楽しくないだろうに)
そう考えると、漆紀は蒼白の価値観を「特殊で独特なものだ」と評さざるを得なかった。
しかし、この蒼白の価値観という言葉に漆紀は何か引っかかるものを覚えた。
(そういえば……世理架さんが言っていた。独自の価値観を持つ者は、固有魔法を持ちやすいって……まさかな)
ふと、漆紀の脳裏にある可能性がよぎる。目の前で黙々とクソゲーを準備するこの同級生・烏丸蒼白は魔法使いなのではないか。
ありえない、ことはない。魔法使いはこの社会に紛れ込んでいる。それが自覚のあるもの、無いもの全て内包して魔法使いは社会に混ざっている。
「……なあ、烏丸」
そう、これはほんの冗談。冗談に過ぎない、深い意味などない質問。
「お前、魔法使いだったりする?」
そう漆紀が問うと、蒼白は動きをピタリと止めた。そしてゆっくりと、漆紀の方を見る。
「オレがこの見た目で30歳過ぎた童貞にでも見えんのか?」
「い、いやいやんなわけないだろ。クソゲーばっかやってるから、魔法使いかなーって冗談で」
漆紀が他愛のない冗談、友達相手の単なるネタという空気にすべく笑い交じりにそう続けるが、蒼白は口元を僅かに緩ませたまま切り出した。
「オレの魔法さー、爆弾作れるんだ」
「は?」
唐突だった。漆紀自身が質問したことだが、その質問に対して適切に返されて漆紀は思考が止まる。
「物品にはさ、価値があるわけじゃん? 文化的価値、希少性価値、物品そのものの金銭的価値、そして個人主観による価値……オレさ、価値のあるものほど強い爆弾に出来るんだ」
「は? あ? なにを言ってんだ急に?」
「クソゲーってさ、ものによってはプレミアついてたり、ゲーム史的に文化的価値がめっちゃあったりして良い爆弾になるんだ。ビル1つぶっ壊せるほどのね……まさにクソゲー爆発しろってやつだよな! んで、爆発のタイミングも、起爆もオレの任意。世界中どこででもオレの爆弾はオレの好きなときに爆破できる。はは……」
「おい、烏丸……いい加減に」
「お前も魔法使いなんだろ辰上?」
「っ!?」
言葉が詰まった。だが何も返さないわけにはいかない。
「だったらなんだ?」
逆に漆紀は強い剣幕で蒼白に問いただす。
お互い無言、身を捩りたくなるほどの強烈な沈黙が空間を支配する。一触即発の空気だ。
漆紀は、この場で魔法使いとしての戦いが始まるかもしれないと腹を括り息を飲んでいた
「……」
「……」
その空気を壊したのは、漆紀の方ではなく蒼白だった。
「ぷくく、バーカ! なに真に受けてんだよ! んなもんあるわけねーだろ! 辰上、遅めの中二病なんじゃねえのか!?」
「は? は、ははっ……なんだよお前、俺から冗談言ったのにそっちがマジになってきたんだろ。ビビったぞオイ!」
「おーい戻ったぞ!」
「ただいま帰還でござる!」
七海と小太郎が戻ってきた。蒼白と漆紀が頼んだものを買い終えたようで、レジ袋には七海と小太郎の選んだものだけでなく、しっかり和菓子詰め合わせとタコスチップスとジンジャーエールが入っていた。
(さっきの烏丸……本当に冗談なんだろうな?)
漆紀は和菓子詰め合わせの袋を開けて、栗饅頭を取り出す。
(冗談……即興……そのわりには、魔法の内容がとても具体的だった……コイツ、まさか本当に……)
同級生・烏丸蒼白が、魔法使いかもしれない。魔法使いだとして、彼が漆紀にとって敵対者でないか全くわからない。
これまで普通に友人関係であったが、今しがた漆紀は疑問で脅かされる。
(なんにせよ、烏丸の動きには注意した方がいいかもな)




