18. 体術、視界を揺らして
夜、七海の自宅にて。
下田七海。彼女は漆紀と同じクラスの同級生である。基本的に奔放で楽しいことが好きで楽しいことをひたすら優先する享楽主義の女子。
あまり過去のことは振り返らない彼女だが、彼女は自室であることを思い返した。
(夜露死苦隊やヤクザと戦ったこと……太田死んじゃったのに、あれ……楽しかったなぁ、最低だけど楽しかったなぁ)
友人が死んでるというのに、楽しいという感情が先に来てしまう。だが、その思い出の中で七海はある疑問を抱く。
(吉祥寺周辺の街中でヤクザと喧嘩したとき、辰上がどっからか刀を出してた。あいつはあそこに行くまでそんなもの持ってなかった。未だに、未だにあれだけが気がかり)
そう、七海は漆紀が村雨を取り出すところを目撃している。そのことについて漆紀は一切話さないし、七海の方からも特に聞くことはなかった。
(今更気になってきた。あいつ、あの刀、あれは一体……?)
疑問。いつになく一つの疑問が七海の脳内を埋め尽くす。
(やっぱ、なんかあるよね。調べなきゃ、調べるしかないか)
七海は楽しいことに目がない。漆紀が出していたあの刀が何か楽しいことに繋がりそうだと七海は確信した。
(よし、決めた。辰上をストーキングしまくって絶対突き止めてやろーっと)
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土曜日。
漆紀は世理架と共に山小屋まで行き、銃の射撃練習を始めた。
「休日でないとこの山小屋には来れないからな。しっかり銃の扱いを覚えるんだ。感覚を忘れるな」
漆紀は新南部M60を右手に持って狙い撃つ。
「んー、結構狙い通りに撃てているね。そろそろ拳銃以外も教えてあげよう」
「拳銃じゃないなら、猟銃?」
「違う、これだ」
世理架は拳銃より大きく、しかしマシンガンというにはコンパクトな銃火器を鞄から取り出す。それは全体的に黒くメタリックな光沢を魅せ、映画の銃火器にもある迫力が確かにあった。
「うわ、それ……ヤクザが抗争とかで使うヤツだ」
「銃の名前までは知らないだろう? これはね、新南部の銃じゃないんだ。佐古工業ってメーカーの銃でね、佐古M69っていうんだ。自動小銃だから、まあアサルトライフルともいわれる連射銃だ。マシンガンほどの装弾数ではないけど」
「へぇ。弾は?」
「5.56mm弾」
「軍隊とかが使うバリバリのヤツじゃん……もし仮に竜理教に突入するとしても、それ使うのガチの決戦の時じゃねえか」
「まあ、小銃と言っても拳銃よりは当然大きいから、まだ筋力しっかりついてない君では使いづらいだろうが……何事も経験だ。持ってみるといい」
漆紀は佐古M69を受け取り、映画で見た兵士を思い浮かべて何となく構えてみる。
「やっぱこれ、ずっと構えてるとなると村雨構えるより疲れるかも」
「どうだろうな。まだ撃つのは難しいと思うから、その重厚さを受け切れるぐらいまで鍛えて欲しいとは思っている。漆紀君、それを構えてちゃんと撃てるように鍛えるんだ」
「了解」
漆紀は佐古M69を世理架に返すと、新南部M60を右手に持つ。
「やっぱり今はこれぐらいが丁度いいや」
「拳銃での射撃に慣れてきたなら、拳銃を持ったままの格闘も練習しようか」
「え、格闘?」
漆紀が首を傾げるが世理架は「体術だよ」と続ける。
「拳銃は軽くて小さくて、体を自由に動かせるのが強みだ。拳銃と体術を組み合わせるのは当然の発想だ。例えば敵に組み付いて投げ倒し、確実に敵の頭に鉛玉を打ち込む。体術を駆使すればこれができるんだ」
世理架が右手で拳を作り、親指と人差し指だけを伸ばして銃の形にする。
「体験した方が早いだろうからな。さ、実演してあげよう。漆紀君、試しに素手でわたしに殴りかかってこい。技をかける」
「わかった。行くぞ!」
漆紀は少し離れてから走り出し、助走の勢いに任せて世理架へと右拳を突き出すが。
「てやあぁぁ!!」
世理架が左手で漆紀の腕を掴み、背に漆紀を乗せてそのまま地べたへと投げる。投げられ倒れた漆紀の頭に右手の人差し指を突き付ける。
「こういうことだ。投げて体勢の崩れた相手の頭に、確実に弾を撃ち込む。体術のパターンはこれだけではない」
「なるほどなぁ……こりゃ、確かに拳銃ならではの戦い方かも」
「とはいえ、拳銃だけでなく、村雨で戦う時の体術も今後は練習しないと」
「やること多いなぁ」
自分にまだ身についていないものが多く、漆紀は億劫さすら感じるほどであった。




