16. 食卓。彩那の魔法について
翌日の夜。(木曜日)
漆紀は家に帰宅し、懲りもせず不法侵入を平然としてきた彩那と共に夕食を食べていたが。
この日は漆紀が夕食を手早く作った。
「竜蛇、夕食は当番制にするか」
どこか諦めた様子で漆紀はそう切り出した。
「はい?」
「だって竜蛇、どうやっても俺ん家侵入してくるだろ? ならもう夕食作るの交代交代でやるかぁって。まあ、実際作る時はお互い手伝いはするけど……メニューは当番で決めるって感じで」
「あぁ……なるほど、わかりましたよ。じゃあ、明日は私がメニュー決めて作ります」
そうこう話していると、ふとテレビから気がかりな話題が聞こえてくる。
『えー、速報です。埼玉県加須市の雑居ビル4階で爆発が起きたと消防に通報があり、現在も消火活動を続けています』
テレビにはニュースキャスターのアナウンスと共に現場付近の上空からの映像が映っていた。雑居ビルの4階部分の窓から大きく黒煙と大火が漏れ出ており、夜であることも相まって火がより一層大きく見える。
「最近多いですよねー、爆発事故」
彩那は気の抜けた声でニュースに対しての感想を漏らす。
「……こういう事故とか、事件も魔法使いの仕業だったりしてな」
漆紀がふと思った推測を口に出すと、彩那は「おー」と言いつつ頷く。
「案外あり得るかもしれないですよ? この前静岡県で起こった爆発事故も、爆発の原因になった痕跡が見当たらないと警察の発表がありましたし」
「本当に魔法かもしれないのか。やりたい放題だな魔法使い」
「それより竜王様、竜理教についてですけど……話、いいですか?」
「ん? ああ、何を話すんだ?」
「後々、本家竜理教と戦うつもりだとは思いますが……どう戦うつもりです? まさか本部に正面から突っ込むわけではないですよね?」
「宮田が竜理教本部に常にいるとは限らないだろ。居場所を調べてからだな……」
まだ宮田をどう見つけ、どう殺すかの具体的なビジョンまでは浮かんでいない。漆紀自身がまだ魔法を使いこなせていない以上は動けないだろう。
「あと、竜王様。佐渡から来た輸血袋はもう使いました?」
佐渡島を離れる際、漆紀は佐渡流竜理教の信者達に献血をするよう頼んでいた。漆紀の契約しているムラサメには傷を癒やす効果があるが、その効果は刀に吸わせた血を使って傷を癒やすというもの。
「段ボール詰めで大量に輸血袋が届いてビビッたけど、充分な量だよ。助かった……ちゃんと村雨に吸わせた」
「良かったです。役に立ったなら、きっと島民のみなさんも喜びます」
「あいつらに喜ばれてもな……」
「まーたそういう事を言う。カルト野郎でも依頼なら助ける、なんて私には言ったじゃないですか」
「それはそれだろ。あと、俺ばっかり魔法の練習してるけど竜蛇はしなくて良いのかよ。佐渡じゃ、魔法の性質上安易に使えないって言ったけど」
「私の魔法はまあ、水脈とか温泉とか、地下にある水を地上に噴き出させるわけですけど……地下にあるなら、水道管とかからも水を噴出させることが出来ます。ただ、それやったら配管が壊れるので街中でやるのはNGですね。あの廃墟でやったとしても、山の方に有毒な地下水が一切ないとは言い切れないですし。練習出来ないタイプの魔法ですので」
彩那の魔法は平常時では練習出来ないネックがあった。漆紀との魔法の連携も練習ができず、魔法の練度に関しては漆紀の方が彩那から距離を離していく一方となる。
「それキツイな……竜蛇はそれ以外に魔法ってないのか?」
「痛いところ突きますね。まあ、あるっちゃありますけど危険度は地下水噴出と同じです」
「どんな魔法だ?」
「竜脈のエネルギーそのものを放出してぶつける魔法です。これ、周りに竜脈のエネルギーが結構散らばるので危険なんですよ」
漆紀はそもそも竜蛇が度々口にする竜脈の概念をよくわかっていない。佐渡の大竜脈や竜脈の巫女などと散々竜脈というが、なんとなく大きな魔法のエネルギーのような漠然としたイメージしかない。
「てか、竜脈って今まで言ってるけど何なんだそれって?」
「本来は竜だけが使えるという魔法のエネルギーです。まあ、私は使えてるわけですけど」
「普通の魔法とどう違うんだ?」
「そもそも魔法って、魔力だのなんだの自分の体のエネルギーを消費して起こしてるわけではないです。竜王様も、魔法使ったからと言って体から何らかの力が抜ける感覚はないですよね?」
「まあ、そうだな。それが関係あるのか?」
「あります。魔法っていうのはただの現象ですけど、竜脈はちゃんとしたエネルギーです。いわば魔力って言ったほうがイメージ付きやすいかと。エネルギー+現象みたいな……それを直接ぶつけたら、やばいです。熱エネルギー直接ぶつけてるみたいなものですからね」
「具体的に竜脈のエネルギーってのを敵にぶっ放すとどうなる?」
「ぶっ放し方によりますけど、ダムの放流みたいにバーって出すと相手を押しのけて圧殺、あるいはエネルギーが体内に入って酸欠とか嘔吐とか息切れとか、浴びせ続ければ死に至る威力ではありますね。直接当たらなくても、周囲に竜脈のエネルギーが漂うので吸ってしまえば諸々の症状で苦しみます」
「それ毒攻撃じゃねえか! そんなやばい魔法持ってたのかよ。まあ、それは父さん助けに行った時も使えないワケだ」
「竜王様は竜王様なので、竜脈は毒とはなりませんよ。多分竜脈にさらされてもピンピンしてると思います。勿論術者の私もセーフです」
竜脈の力は普通の人間ならば毒となるものであると漆紀は記憶し、少し頭を掻きつつ次に何を話すか考え込む。
「なんでそんなやばい魔法ばっかなんだよ竜蛇……ピーキーすぎんだろ」
「竜にまつわる力というのは、所詮は破壊しかできないって事かもしれないですね。ヨーロッパではドラゴンって悪魔と同一視されてたりしますし」
「宗教家特有の謎雑学か……へえー、ヨーロッパじゃ竜って悪魔なのか」
「というか、佐渡流竜理教で竜王様をありがたい悪魔と見なす文化はキリスト教経由なのですよ。江戸時代の天草一揆で生き延びたキリスト教徒が佐渡島に逃げてそのあたりの文化も伝えたんですよ」
「んー……いや待て。竜蛇、佐渡で確か佐渡島の人たちに竜脈の力を与えて魔法使いにして戦うとかいう計画の話をしてたけど、竜脈のエネルギーに当たると苦しむなら一般人を魔法使いにするなんて無理じゃねえの?」
「竜脈のエネルギーを攻撃に使った場合の話ですよそれは。竜脈の巫女である私なら、害なく一般人にエネルギー与えて魔法使いにすることできますよ。現に信者の中でも高位の者には魔法使いになってもらってます」
改めて竜脈のエネルギーの滅茶苦茶ぶりに漆紀は「勘弁してくれ」と愚痴を零しため息を吐いた。
「あとは……ーんー、なんか……話題ないな」
「えー、趣味とかそういう話ないんですか?」
彩那が当たり障りなさそうな話題を出すが、これまた漆紀は思い付くことがなく言葉に詰まってしまうこととなるのだった。




