15. 事実整理、悩む小太郎
小太郎は漆紀と世理架のやりとりを観察した後、帰路についていた。
(辰上氏の魔法……どれも大勢と戦い、殺すのには充分なものであった)
漆紀の魔法は確かに萩原組での事件と紐づけるとするすると説明が出来てしまう。この事実に小太郎は首を横に振りつつも、漆紀の魔法を思い返して身を引き締める。
(信じたくない、友人を信じたい。しかし萩原組の事件があった日に、丁度辰上氏が萩原組の情報を拙者に求めたのは揺るがぬ事実。辰上氏が萩原組組員を大勢殺した……そうに違いないのに……クソっ!)
未だに迷っている。友人、殺人犯、そもそも魔法による殺人など法律外の事であるのだから目を瞑ってもいいのではないか。
(全て忘れたい。いつも通り辰上氏と馬鹿馬鹿しいふざけたやり取りをやっていたい)
正しい事をしたい気持ちはあるが、どれが明確に正しい行為か小太郎にはわからなかった。
小太郎の父がいう「証拠なく人を殺せる魔法使い」という不安定な存在は消すべきという考え。相手が魔法使いとはいえ、一個人の裁量で勝手に殺すのは独善的な正義であるが一理はある。証拠なく人を殺せる存在が、社会の中に紛れ野放しになっているのは危険この上ない。
とはいえ、漆紀の方から考えは一切聞き出せていない。萩原組組員を殺した張本人に「どういう考えか」などと正面から聞くわけにはいかない。
(ここ最近ずっとこの事で悩み続けている。拙者はどうしたいのだ?)
小太郎の腹は決まらない。自分の父が、自分のクラスメイトであり友人である漆紀を殺すと言っているのだ。簡単に同意出来るわけがない。
(……一旦考え直してみよう。辰上氏が萩原組組員を大勢殺した上、本性が単なる殺人鬼のソレなら学校での彼は仮面を被っているに過ぎない。ならば、彼の本性こそ見定める必要がある)
もう一度整理していき、何を調べるべきかを見つめ直す。
(そもそも被害者はどうだ? 辰上氏を始末すると言われ、そちらばかりに気が行っていたが萩原組の方は本当によく調べたのか? 萩原組組員達についてももっと調べるべきじゃないのか)
漆紀ばかり気にしていたが、死んでしまった萩原組組員を忘れていたのはなぜだ。
(結局、友人とロクデナシの犯罪者集団……なんて双方にフィルターをかけて見てしまっていただけでござる。フィルター無しで、その実情に目を向けねば正しい行動などとれぬでござる。親父殿はきっと、拙者とはまた違ったフィルターを掛けたまま辰上氏を殺すべきと思っているでござる)
漆紀に対してはクラスメイトで友人というフィルターを、萩原組組員についてはロクでもない犯罪者集団と、両者を見る時にそれぞれ無意識のうちにフィルターをかけていたのだ。
(萩原組組員にだって、家族や何らかの事情、色々背負って止む終えず犯罪者になっているものだっている。ただ全員が100%の悪意で犯罪をしているわけではない)
ロクでもない犯罪者集団というフィルターを取っ払えば、単なる被害者。それ以上でもそれ以下でもない。
(対して辰上氏も、何らかの事情で魔法を使い殺したのかもしれない。だが、殺した事実はある)
漆紀は加害者。とはいえ、萩原組とトラブルがあったのかもしれないが、そういう頭に浮かぶあれこれの推測はこの際切り捨てる。
(被害者と加害者という情報がある。そこの情報に、拙者の勝手なフィルターや推測を一切乗せず、これから調べて判明した事実だけを乗っけていけばいい。そうすれば、被害者加害者双方の真実の姿が見えるはず)
そうまとめると、これまで何を悩んでいたんだと小太郎は渇いた笑いを浮かべた。
「両者に同情するな……親父殿にも流されるな、事実だけが真実だ」
小太郎はそう考え直し、再調査を始める事にした。




