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大魔導士の弟子(旧)  作者: のぽぽん
第2章 拳神
23/31

005 心の声

「クライおかえりーどこ行ってたの?あ、コクランさんおかえりなさーい」

「ちょっとそこまで涼みにな」

「おかえり、アンタ遅かったじゃないかい」

「あぁ6頭分ともなると作業も時間がかかってね」


 コクランさんと家に戻ったら丁度ティアも出て来たところだったようだ。トリシアさんはコクランさんのために緑茶を注いでいる。


「待っててくれたら私も行ったのに」

「髪びちゃびちゃな奴は連れてかねぇよ」


 ティアの首に掛かってるタオルを持ち頭にぐしぐし押し付ける。


「外で、こう火とか風とかで乾かせばいいのに…」

「涼みに行くのに温風送るなよ、ほら自分で拭け」


 前ががある程度拭かれた後、振り返って後ろもみたいなスタンスのティアにタオルを返す。コクランさんは落ち着いた様子でお茶をすすり、その様子を柔らかな表情で眺めていたが、立ち上がりこっちに来ると俺の肩に手を置く。


「クライ君、涼み過ぎて体が冷えてるじゃないかね。そうだ、私と一緒にふろに入ろうじゃないかね」

「いや、俺風呂もうはいりましたし」

「いいじゃないかい坊や、ちょっと夜風にあたるにゃ長かったんだ」

「よし、今日はコレ(・・)もある。我が家のとっておきをみせようじゃないか」


 酒瓶を持ちながら肩を組んでくるんだが、汗臭い、酒臭い、獣臭いの3重苦な上に俺のパジャマとなるツギハギシャツに土も付くという。4重(カルテット)嫌がらせとは、やってくれやがるなオッサン。


 サバンッ…カポーン


 結局俺は風呂に連行された。各種悪臭を放つオッサンは風呂にそのままダイブしようとしやがったので桶で叩いてしまったのだが明日には忘れていてくれるだろうか。「解体の汚れが目だつので背中ながしますよ」とごまかし、今背中を流しているのだが大丈夫だろうか。


「いやぁ悪いね背中を流してもらうなんて、いやティアに流して欲しかったなんて我が儘は言わないがね」

「いや、聞いてねぇよオッサン」

「ハハハハ君は中々言うようだね」

 俺の心の声が漏れていたようだ。

「すみません、思わず」

「いやいや構わんがね。かしこまった訳でない、君らしいところが見られて喜ばしいがね、できればそのまま先ほど叩いた(・・・・・・)髪も洗ってくれんかね?」

「…オッサンもなかなかのもんだと思うぞ」

 なんだかんだと俺はいい歳のオッサンの髪を洗っていた。このオッサン少なくとも孫が出来るような年で越してきてから70年てことだからな、どうなってんだ年齢。


「ハハハハ私もね、ティアにはこんなことさせられんがね、君ならいいかと思ってね」

「何根拠だよ…ほれ」ザパー

「…ぶは、結構のんでしまったんだがね」

「大きな口空けてるからだよ」ザパー


 いくつか分からんオッサンであったが俺たちは本気で言い合いをした。腹の内を全て包み隠すことなく語り合った。中にはお互い人に触れて欲しくない部分もあったんだ。それすらもぶつけ合った。年齢の垣根を、お互いの立場を、心の壁を越えて話し合い、そして分かり合ったのだ。お互いにもう遠慮など必要のない程に。


「どうかね…どうかねクライ君、家の風呂は君と二人で入ってもまだ広く、これならティアが来たって大丈夫だと思うがね。呼ぶかね?私だけで入っていても一緒に入ってくれないが君がいるのならば、もしや…」

「呼ばねぇし、入らせねぇよ。そもそも風呂の感想なら昨聞いてくれ。何で今初めて入った感じで聞くんだよ」

「昨日までは話しにくかったじゃないかね。私のティアを奪わんとする輩だったわけだからね」

「娘みたいな言い方になってるぞ」

「なにを言うかね、娘といって何か間違っているかね」

「間違って……無いか。チッ」

「舌打ちがなければ満点だったのだがね」


 酒瓶の酒をコップ1杯ほど入れた風呂は先ほどよりも湯あたりも良く、指先から足先からお湯が体に入ってきているかのような温かさを出している。少し温度の下がった湯であったが、俺が神の気で出来るだけ温め直したので適温だ。


 体も温まり酔いが再燃したのか声も大きく賑やかに話す様子はリビングにも響いていた。トリシアもティアも二人が氷解し親しき友のように振る舞う様子を温かく目で見ていた。


「ったく、男同士で何を話してるんだかね」

「コクランさんが楽しそうなところ初めてみるかも」

「あの人は、もとは明るかったのさ、でもあたしもねあんなに楽しそうにしているのを見るのは久しいね。坊や…いやクライ君にゃ見所があるってこったね」

「ふふふ、あ、でも寝る部屋は変えないでねトリシアさん」

「はっは、さてね。あ、そいつコクランの分も作ってくれないかい、あの人大分お酒が回っているからね」

「じゃあ、みんなの分つくりますね」


 ティアはカップの中の緑茶に丸い氷弾(アイスバレッド)を入れ回転させていた。

隣にある大きなポットに再びお湯を入れ、しばらく待ち、今度はポットの中に氷弾(アイスバレッド)を詠唱も呪文もなく放つ。氷の玉を出すだけならもっと簡単にできるのだが弾として対敵を想定した丈夫な氷であるため長く冷やせるのだ。二つの氷の玉をポットとカップの中で回転させながらティアは顔が綻んでいた。



「今日はみんなで一緒に寝ようではないかね。みんなでだ、これならば文句の出所がないと思うのだがね」


 風呂上り冷茶を飲み干すとコクランさん(オッサン)はパジャマの背中がめくれたまま仁王立ちで言い放っていた。


「アンタどうも酔っているようだね、ほれ、もっとお茶のみな」

「うむ、いただくがね。だが酔ってなどおらんよ。たまには良いじゃないか」

「はぁ、どうしたもんかね。どうだいティア、クライ君この人、酔うと面倒でね。付き合っちゃくれないかい」

「俺は別にどこでも」

「ふふ、みんなでって何か楽しいねクライ」


 お茶をつぐカップにカランと音が響く。トクトクと注がれる緑茶は良く冷えていた。話しながら自然に行っているためオッサンもトリシアさんも気にしていないが、綺麗な球形の硬く丈夫な氷を他の会話をしながら出されていく。


「魔法…サイレントマジックで氷弾(アイスバレット)か…」

「シシシシ、気づいた?」


 歯を見せながら笑っているが、これは努力なくしてあり得ないんだ。マスターの言うとおり集中して揺るがないイメージを持ち具象化させるなんてことを、才能や素質なんかでは片づけられないんだよ。魔力が高くても、素質があっても、弛まぬ努力を重ねた魔法しかサイレントマジックなんて出来ない。

  

「頑張ってたんだな、森から出ても…毎日毎日、これはそういうもんだ」

「ふふふ、だって私これでも大魔導士の娘ですから」

「…自慢の(・・・)、だろ?」

「ふへへ」


「何をしておるのかね、小僧ども!さぁ寝に行こうじゃないかね」


「ティア、お前んとこのオッサン変なんなってるぞ」

「…あれ多分クライのせいだからね?」


 トリシアさんの抑制は上手くいかなかったようコクランさん(オッサン)のテンションは上がる一方だった。トリシアさんは額に手を当てたまま階段へ向かってしまった。諦めるのは構わないんだが、せめてこのオッサンの処理をしてほしい。


「さぁ行くぞティア、クライ君!」

「ひゃっ、あははははは」

「ちょ、オッサン」


 コクランさん(オッサン)は右脇にティアを、左わきに俺を抱え持ち上げると階段に向け走る。ダダダダっと勢いよく階段を登るのだがティアの方には壁などに対する配慮があるのだが、俺はさっきから壁にも階段にもぶつかってんだよ。


「っせいッ」

「あはははは」

「せいッじゃねぇよ…」


 布団に投げられたティアは大喜びだった。俺は布団に飛び込んだことよりも入り口突進の頭痛と格闘していた。オッサンはテンションで威厳とか落ち着きとか何か大切なものを失くしていた。隣のへやにティアと俺の掛布団をとってきてバサッと投げ腰に手をやり胸をはるオッサン


「少々狭いがね、だが、そこがいいとは思わんかね?」

「分かったから、オッサンもう分かったから落ち着け」


「…アンタいいかげんにしときな」

「うむ!!」


 オッサン無駄にいい返事だな。有無を言わせないトリシアさんの迫力もあるんだが、爽やかなまでの諦め、本当もう無駄にいい返事だな。


「ティアほれ、こっちおいで」

「トリシアずるいじゃないかね」

「いいだろ、あんたも反対側で挟めばいいじゃないか」

「クライ君が入るところがないじゃないか」

「俺はオッサンの背中でも眺めてるから気にしなくていいって」

「ふふ、なんかいいね、こーゆーの」

「そいつ布団とるんで気を付けてください」

「ちょっとクライ!と、とらないもん」

「あとトリシアさん、その無駄に良い顔で見られても俺には分かんないです」


 トリシアさんは例の男らしい顔をしていたが、もう俺は寝る。ティアは二人に挟まれて、何か嬉しそうだけど恥ずかしいような、はにかむような顔をしていた。各々に、おやすみと呟き瞳を閉じる。


 少し開かれた窓から入るそよ風が心地よい。涼しさから体を布団で守っていると、優しい風に意識が乗って遠のいていくようであった。


 スースーと寝息を立てているのはティアだろう。きっと二人に挟まれて安心しているんだ。

 良い人たちなんだ。本当に。優しく、温かみがあり、ティアを大切に想ってくれている。ここにいればティアは幸せになれるんだ、間違いなく。


「トリシア、いいものだと思わないかね。こんな生活というのもね」

「…あたしゃね、あんたの決めたことを悪いなんて思ったこたないよ」

「すまない」

「昔の事を謝るのなんてなしさ。あたしゃ今まで何度もいったろう」

「昔のことじゃなくてね…」

「なら、なおさらさね」

「ありがとう、愛しているよトリシア」

「はっまだ酔ってんのかい。……悪かないがね、おやすみコクラン」

「うむ、おやすみ」


 聞いてしまってよかったんだろうか…

 そんなことを考えている内に俺も眠りに落ちていた。



 …肌寒い

 そんなことを薄ぼんやり考えているとファサっと、そーっと置くように俺に布団が掛けられた。俺は小声でささやくように


「どうして一つ飛ばしの俺の布団がとれるんだよ…」

「うっ…」

「ほら、朝までは寝とけよ。おやすみ」

「おやすみクライ」


 

 朝が来る。…肌寒い


「はっは本当だね、この子布団とるんだね」

「はは、普段しっかりしているからかね、可愛いもんじゃないか」

「いや、そこは取られてから言ってくれ」


 左右に寝ていたにもかかわらず取られていない2人は好き勝手言っているが、そもそもどうして隣じゃない所からとれるんだよ。日に2度という快挙を成し遂げて満足しているのか、みんな一緒なのが嬉しかったのかまだ起こすのが惜しいほど、にこやかな表情で眠るミノムシ(ティア)を2人は慈しむように眺めていた。



 朝食を用意しているトリシアさん料理を運んでいく。ティアはお茶を入れていた。

 寝起きにすぐ自分がやらかしていることに気付いたようで2重になっている布団をはらうように起きて謝る様子を、俺たち3人爆笑したため少々反省しているようだ。



 朝食の席に全員が着いたところで切り出す。


「ギュンター達に話して早ければ今日、遅くても明日中には村でていこうと思います」


 これは決めていたことだ。


「そうかね。私たちはもっとゆっくりしてもらっても構わんがね」

「そうさ、急ぐこたないどろうに」

「この村は良いところで、このまま居座ると動けなくなりそうなんで」

「私たちは、それもまた一考だと言っているのだがね」

「気持ち、ありがたく受け取っておきます」


 コクランさんとトリシアさんとは朝食中、これまでのお礼を込めてそうした雑談をしていた。2人は俺が出ていく事を知ったうえで、住む着いてしまえなんていう冗談を言っていた。だがティアは、会話に加わることなく神妙な顔をしてながたら、そもそと朝食を食べると部屋に戻って行ってしまった。


 俺は朝食後、そのまま村長の家へ向かう。

 まだまだ緑が鮮やかな麦畑が風に靡く様子を見下ろすように坂を下りていく、家としては隣だが5分ほどは歩く村長の家。コクランさんの家よりも一目見て大きい。

 木の板を少し炙ったような木造の壁が威厳もあるため、この村での権力者というのも納得のつくりであった。それにここまで見てきた限り村長の家だけだと思うのだが庭の前に柱を立てた門のようなものがあった。道と庭の境に四角く加工された柱が立てられているだけで柵がある訳でもないが柱は高く威厳を放っていた。


 窓を開けお茶を飲んでいたエミル姉と目が合う。


「あ、クライくんどうしたの?」

「ちょっとお願いがあって、ギュンター達も中いる?」

「おういるぞー、どうかしたのか」


 ガチャリと扉が開くと褐色の老人が出て来た。


「坊やがゼル様達の連れて来た子だね、よければ中にどうぞ」

「あの、挨拶もせずにコクランさん達のとこで世話になってました。スミマセン」

「はは、構いませんよ。ゼル様達からお話は聞いております。それにティアちゃんからもね。中でお茶でもどうですか」


 村長について中に入る。机を囲み座っているギュンター達のいるところは客間も兼ねているのだろう。簡素な部屋ではある者の部屋の隅には素焼きの花瓶に白い小さな花をたくさんつけた植物が活けられていた。


「おうクライの方から来るなんてな、俺に会いたくなったか?グハハハ」

「私にお菓子をもって来た可能性も」

「多分2人とも違うと思うんだけど」


「3人にお願いがあって来たんだ。俺を都市部まで連れて行ってほしい」

「俺たちはこの後王都に行くんだがよ、都市っちゃ途中にもある。理由は何だ」

 ギュンターの表情は先ほどと異なり、やや真剣みを帯びていた。

「俺は、この世界の事を何も知らない。世界どころか世間も、今いるこの国についても、俺は知らないんだ。都市に行きたいのは、知りたい事を調べるため。それと自力で生きていく術を探すためだ」

「クライは、まだ子供」

「そうだ。俺は子供だよ。それでも、さ」

 ギュンターが目つき鋭く俺を射抜くように見つめると言った。

「世間は、この村のようにゃ甘かねぇぞ。人を襲うことを楽しむような魔物もいれば、そんな魔物よりも厄介な人間だって腐るほどいやがる。面白れぇもんがあるわけじゃねぇと思うんだがよ…」


 俺にとってのこの世界の全てだったマスターの言葉通り、この世界で生きることを楽しめるように。出来るだけのことをやりたい。世界が危険で満ちていて、命を落とすことになっても、守るだけじゃ駄目なんだ、前に出よう。やれることはやったと思えるように。


「行かずに後悔するような生き方をマスターから教わってないんだ」

「グハハハハハ!森を出た時の腑抜けたぁ思えねぇな、いいぜ連れて行ってやる、なぁゼル、エミルいいだろ?」

「クスッ、ギュンターさんクライくんが決意したら聞くって言ってたじゃないですか」

「茶番はここまででいい」

「なっおいクライの前で言うんじゃねぇよ。示しが付かねぇだろうが」

「ありがとう。森からだけでも迷惑かけてんのに、もうしばらくよろしくお願いします」

「チッかしこまった言い方すんなよ、背中が痒くならぁ」

「それと、もう一つこれはこれからなんだけどさ――」



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 コクランさんの家に戻った俺は昨日の夜にコクランさんと話した坂の上、小高い丘にティアを連れて来ていた。夜とは違い、家のと反対側を見下ろす。風に靡いて出来る緑の波が一望できるここは、この村でもっとも綺麗なところだと思う。遠くに小さく見える村を守る丸太の壁の向こうも森の緑、崖の奥の方から流れている小川は、いくつかの支流をつくっている。陽の光をキラキラと返す小川に、波うつ麦畑。


「風が気持ちいいな、ここ」

「…うん」

「マスターからの手紙、読めそうか?別に無理しなくてもいいんだ」


 ティアはマスターから贈られた空間拡張の魔道具である黒い鞄を肩から斜めにかけている。ティアにこれからの事を話そうとしたとき「手紙を読むから一緒にいて」と頼まれた。もしまた感情が制御できなくなってもと思って俺は外で読むことを提案してここに来た。


「ううん。大丈夫。じゃあ…読むね」


 鞄から出した手紙は俺のものと同じように封筒に大きく『ティアへ』と書かれていた。


『はじめにティアを遠くへ預けてしまった事を謝りたい


 この森に封印されているものは私なんだ。

 私はティアと同じ忌み子の忌み子だった。

 そんな私が人の道を踏み外し堕ちたものが封じられている


 瘴気を糧に暴虐の限りを尽くす者が封印から目覚め

 ティアに手をかけることが怖かったんだ

 ただ、素直にそのことを告げられずにいたことを

 深く謝りたい


 話せば私は、自分の弱さを、消えてしまう怖さを

 見せることになっていただろう。

 ティアとクライの前では大人であろうと見栄を張ってしまったのだ。


 本当に、すまないことをした。

 許してくれとは言わない。この謝罪はただの自己満足だ。

 それでも、すまなかったティア』


「ふふ、お母さん謝ってばっかり、そんなこと気にしないのに」


『私の話は、きっとクライが泣きながら話しただろうから省かせてもらう。


 ティアには私から3つの物を贈りたい。


 1つは魔道具である鞄だ。

 これは私が昔使っていた空間拡張効果のある鞄を手直ししたものだ

 使ってくれると嬉しく思う


 1つは私の魔導書だ

 私が身に着けた魔導を可能な限り記した

 呪文の数は多くないかもしれないが

 大魔導士と呼ばれた私が師として残せる全てだ

 魔導書は瘴気を込めることでしか開けないように出来ている

 ティア以外が開けることはないが不要であれば破棄して欲しい

 ただもし、私の奥義を受け継いでくれるのならば嬉しく思う


 そして最後に魔杖『新月』を贈る

 この杖は使い手を選ぶ、少々癖のある杖ではあるが

 ティアならば私以上に相性が良いはずだ

 杖の声に耳を傾け、つかってくれると嬉しく思う』


「全部大切にするに決まってるのにね、ふふふ」


『最後になるが、鞄には私には不要であった金品なども入れておく

 クライにも一部いれてあるがティアの方が上手く使うだろう。


 ここからは私の妄想だと思って欲しい決して強制をするわけではない


 私はティアには国立の魔法学園へ入学して欲しいと思う

 魔法についてだけを言えば私の教えを受けたのだ、不要であろう

 しかしティアには自身の眼で世間を見て欲しいと思う

 

 虎の牙(タイガーファング)には今回の封印でティアが贄になったと

 情報を流布してもらうよう依頼してある

 もうティアを追うものもいなくなるだろう

 私ができることはこれぐらいしかないがティアが

 平穏な日々を送れることを祈ってやまない


 最後にクライのことを少し書こう

 クライは自身の前世の記憶があるということを昔言っていた

 名も思い出せぬほど薄っすらとだそうだが、嘘でもないようであった

 もし負担でなければクライのことも見てやってほしい


 ティア、どうか幸せになれるように生きて欲しい

 私の愛する2人が、どうか幸せであるよう

 命が潰えるその時であっても、この祈りを止めることはない


 ――見栄を張ってしまった母から

           イタズラ好きの我が子へ―――』


 ティアは手紙で顔を隠していた。


「あれ、私…もう大丈夫なのに」


 ティアに近づき手を伸ばす


「こ、来ないで…今来ちゃダメ」


 ティアの突き出す手をを手紙ごと掃いのける。こらえていた涙が頬を伝って顎先から落ちていく。なんで我慢するんだろうな、泣きたい気持ちを抑えなきゃならないなんて、もうティアには必要ないんだ。俺は、そのまま何も言う事なく抱き寄せた。


「うっ…も、もぉ…グス、もう泣かないって…きめ、決めたのにっ…」

「別にいいだろ。我慢ばっかりの生き方より、ずっといいだろ」

「うぁ…うぁぁぁぁ――」


 ティアは声を上げ泣いた。


 瘴気を呼ぶことはなく

 ただただ悲しい気持ちで

 辛い気持ちをで

 そして愛されていたという嬉しい気持ちで

 溢れた心に従って想いをマスターに届けるように

 空いっぱいに響くように声をあげてただ泣いた。



 背中を撫で、髪をなで

 服はまたシャツまで届くほどに湿っているけれど

 いつしか声が収まりティアの呼吸は落ち着いていた


「ティア…俺さ、旅に出ようと思うんだ。ここがどんな世界で世間がどうなってんのか、それが知りたいんだ」


 マスターの言葉通り、生きることを楽しいと思うために…だけど

 ティアのことをについて俺は置いていくつもりでいたのだ



 コクランさんに問い詰められた。ティアの為にではなく(・・・・)俺の気持ちはどうかと。



 畑の野菜を盗んでいた野菜泥棒。魔物に襲われて死にかけた少女。一緒に住んでもまだ小さくおどおどしていたティアが、少しずつ明るくなり大きくなり可愛くなっていく様子を俺は一番近くで見守っていたんだ。



「一緒に行かないか…とは言わない」




 身を震わしてもう声をだすことも出来ずに泣き続けているティアの震えを止めるように、頭に手を回し手と背中に回した腕で、きつく抱きしめる



 これは俺の我が儘だ

 そしてどうか、俺の我が儘を許して欲しい



「ティア、俺に付いてきて欲しい」



 ただ傍にいて欲しい


 いつか君が誰かを好きになって旅立つその日まで

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