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大魔導士の弟子(旧)  作者: のぽぽん
第2章 拳神
19/31

001 旅立ち


ロールアップした裾や袖の目立つ服に身を包み、森を歩いて今日で4日が経つ。

俺の前に歩く虎男ギュンターも、鎧が砕け軽装になったゼルも、体のあちこちに今だ癒えぬ傷を抱えている。エミル姉も骨折などを簡易的に回復(ヒーリング)で治したとはいえ顔色を悪くし辛そうに歩いている。


「おぅクライ…大丈夫か?」

「俺は…皆ほどケガしてないから、俺よりエミル姉のほうが…」

「はぁ…ふぅ…私は、だ、大丈夫」

 全然大丈夫そうじゃないエミル姉を心配そうにゼル姉は眺めていたがゼル姉の方がケガも多い。


「そうじゃねぇ…体だけの話じゃねぇ」

「そんなの…皆おんなじだって」

「私たちは大人、でもクライは子供」

「それでも…おんなじだよ…」


 大人になれば辛くなくなるわけじゃない。

 俺は前世では年齢的に大人だった。俺の中で大人なんて年齢とともに、ただ我慢して自分を隠して本心を見ないようにする…そんな生き方ができるようになっただけだ。

 だけどこっちに来てから思う。年齢に関係なく、目をそらさずに向き合えば悲しいときに嬉しいときにも泣けることに年齢なんて関係がないんだって。

 だから、マスターがいなくなって悲しいことと同様に、ギュンター達だって共に生きてきた仲間を失ったことは同じように悲しいはずなんだ。ただ子供(オレ)の前で出さないように気を使っているだけなんだ。


「大丈夫じゃなくても、マスターの贈り物は俺の手でティアに渡したいんだ」


 ティアにマスターの気持ちを伝えたい。

 俺が旅立ちを決意した最大の理由だ。

 自身が消えるその時まで気にかけていたもう一人のマスターの子に気持ちと預かっている品を渡したい。強い決意を目に宿し魔杖『新月』を手に(ログハウス)を出た。


 意識がなくなるまで声を上げて泣いて、意識がもどると日が暮れ眠りに落ちるまで泣いていた俺。旅の準備が整いつつも、ギュンター達は何も言わず丸1日待ってくれていた。俺が自ら扉を開くことを信じてだ。


 エミル姉がどこか慈しむような表情で俺を撫でた。ギュンターも一人頷くとその歩を進める。


「グハハハハ、男の顔じゃねぇかクライ」

「ふふ、クライくんが来れば絶対ティアちゃん喜ぶよ」

「エミル。いい加減は良くない。ティアは凄く泣く」

「もぉゼル、そこは今言っちゃダメ」

「ティア…大丈夫かな…」


 ギュンターもエミル姉もゼル姉も、らしさ(・・・)を取り戻している。まだ全開ではないけれど、前に進める強さのある3人は立派な大人なんだと思う。

 俺はティアに伝えたい強い気持ちはあるが、伝えることが怖いとも思う。俺のような悲しみをティアが持つこと、そのことが怖い。


「明日には森を抜ける、そこからゼルの里んトコまで近くの村に寄ってから2日半かかる。気合入れとけよクライ」


 ティアに会うまでまだ数日はかかるようだ。

 ギュンターを先頭に俺たちは森の中をひた進んだ。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ 


 森を抜けた。


 俺がこっちで生まれてから初めて、森の外に出た。

 森は少し高い位置にあったらしく眼前には草原が広がっている。ところどころ俺よりも背の高い草が群生しているので人の気配がするような場所ではないが、それでも遥か遠くには草原の色と異なる麦畑の色が見える。


「すげぇ…」

 何にも凄くは無いのだが、木に囲まれた生活しかしてこなかった俺は遠くまで見渡せるとうことに感動していた俺をバシバシ叩く虎。


「グハハハ何か珍しいものでもあったか」

「珍しいのは立って歩く虎くらいだけど、遠くが見えるってイイな」

「クライくん…」

「森の中に軟禁されてる方が異常」


 エミル姉が憐れみを含んだ目を向ける中バッサリ切って落とすタイプの残念美人と無駄に明るい虎が感傷をぶち壊していた。


「立って歩くだけじゃねぇ俺は天才だからなグハハハ」


 お前は、そういう種族なだけだろ。自力で進化してやったぜみたいな発言をしているギュンターをスルーし唯一空気の読めるエミル姉が指さす麦畑に目をやる


「クライくん見える?あのあたり色が違うでしょ。見えるけどここからだと半日ちょっとかかるんだけど、あの麦畑の近くにある集落に向かうんだよ」

「パンと麦酒が美味い」

「そうだクライ折角森を抜けたんだ祝いに今晩は麦酒で景気よく「いーきーまーせーん!」

 ギュンターの提案はエミル姉により遮られていた。残念だったな虎男。

「村には店もあるのか」

「ん?あぁ小せぇ村だが酒場と矢やら薬やら売ってる店くらいはあるな」

「村と言うより集落」

「このあたりは、森の瘴気が近くて魔物も少ない穏やかなとこだから農家の人が多いかな、でも瘴気の影響で引退も早いって村の人は言ってるの」


 魔物の脅威は少なく安全だけれど薄い毒が体を蝕む土地。おだやかだけれど繁栄が約束されない、そんな場所となっているようだ。


「でもパンは美味い。あの村のパンは焼き上がりがいい」

「グハハハそれに多少瘴気があってもお前なら取っ払えるじゃねぇか」

「なら早く村に行って、ティアにもパン持ってってやろうよ」


 俺は今、多分そこそこお金があるんだと思う。マスターの残してくれた装備の一つに肩掛け鞄がある。これは大きさこそ一般的な道具入れのようだが、中は鞄の大きさの何倍も入る。空間拡張が施されている魔道具であった。といっても4次元ポケットとは行かず、大型冷蔵庫並の容量といった感じだ。鞄にしまうと置いた瞬間遠くに行ってしまったような感じに見えるのである。ものが小さくなるというのでなく奥まった先に落ちたような感覚だ。それでも手を伸ばせば届くから不思議である。重さも無視して鞄の重さだけという優れものである。

 その中に硬貨などが詰まった袋がある。中身は主に金貨や錆びているが銀貨であった。これがどれほどのものかは分からないが結構な量入っている。ティア用にも用意されており、ティアの鞄は俺のより少し装飾されていた。俺のザ革の鞄とは異なり、女の子への配慮がなされていた。マスターは最後まで細部までティアの事を考えていたようで、何故かそのことが少し嬉しかった。


 森の中と違い、ギュンター達が通ってきたであろう比較的踏み固められている道を辿り村を目指していた。2時間程あるくと、ようやく当然舗装などされていないが、道らしい道に出た。


「どうだクライ、道だ道だぞ?お前には珍しいだろグハハハハ」

 珍しいのはお前だよ、この虎男。

「…だたの道じゃん」

「おう。ん?森には無いだろ長い道」

「ギュンター俺の事バカにしすぎだろ。道くらい作った(・・・)わ」

 立つ話す斧を振る虎が珍しさを語るなよ

「作ったんだ…」

 エミル姉がさっきとは違うニュアンスの憐れみの眼を向けている。

「今日は丸いパンにする」

 数日一緒にいて分かったがゼル姉は残念美人だと思う。


 この3人これから大丈夫なんだろうか。以前の冷静なエリック兄や何だかんだ常識的なジーノ兄のいたころのバランスの良さが身に染みて分かった。エミル姉1人じゃ自由人2人は重いと思う。

 俺の鞄にはヒビの入ったジーノ兄の剣が収められている。マスターだけじゃない。ジーノ兄とエリック兄を亡くしたことの消失感は俺にだってある。


 この先どうするのか…か


 そんな事を考えていると麦畑沿いの街道の大きな風車の横を過ぎ、ついに人が住んでいるのであろう白い壁をもつ建物やレンガ造りの建物が近づく。建物の付近には木の柵で囲われた中に鶏のような鳥や、ヤギなのか牛なのかわからないので牛としておくが牛乳的なものを採るために飼われている動物などがいた。


「おお!畜産か…その発想はなかった」

「ふふクライくん。さすがにあの森を通って連れてけないよ」

「捌くのは得意」

「グハハハ辿り着く前に食っちまうからな」

「ギュンターとゼル姉のせいでかよ!」

「瘴気とか森の悪路のせいだからね…」


そんなやり取りをしていると、牛のいる家の中から人が出て来た。いかにも農家といった丈夫そうなツナギのような服をみに纏い麦わら帽子をかぶった初老の男性がこちらに気付く


「あんたらか、もう戻ったのか。はは相変わらず早いな。ところで連れの…」


 話し出す男性にギュンターが手のひらを向け言葉を遮る。

 男性は、その仕草で何かを察したらしく口をつぐんだ。


「なぁおっちゃん。ミレーさんとこの店はやってるか」

「やっとるぞ。宿としてはお前さんがたしか使わんが、食堂はもう開いとるよ」

「急ごう。パンは焼き立てに限る」


 ゼル姉は、おっちゃんの話もそこそこに先に歩き出してしまった。

俺も会釈してゼル姉に続く。エミル姉も「もう、ゼルは…」と呆れながら付いて来た。ギュンターは、おっちゃんとまだ話していた。


 少し歩くとパンの焼ける甘くも香ばしい香りが鼻腔をくすぐる。

香りの源、目の前の白壁づくりの家は入り口が両開きの押戸になっていた。中からはまだ太陽が真上に登る前だというのにがやがやと賑わいが聞こえてくる。


「ゼル、ギュンターさんがまだ来てないよ」

「中で待とう。私もパンを待たせているのだから」

 ゼル姉はエミルの静止も聞かず歩く速度を緩めることなく入店していった。

「…エミル姉、ゼル姉って昔からこう?」

「良くも悪くも、ね」

 エミル姉と苦笑いをしながら俺たちも入店した。店内は、ほぼ満席だった。


「エミルっあんたも無事かい!?ゼルもこんなボロボロで、全く男どもは何をなっていたんだい」


 店内に入ると小太りのオバちゃんが大声で話しかけて来た。

オバちゃんは既にゼル姉を焼き立てであろうパンにて餌付けしている。


「はむっ、ぼろぼろじゃ…なひ、わらひたひの、むぐ、ひょうり」

「ゼルっあんた何度言わせるんだい、女の子なんだから食べながら喋るんじゃないよ。まったく、行儀も悪けりゃ何言ってんだかわかりゃしないんだから」

「ミレーさん、いつもスミマセン」


 エミル姉が苦笑しつつ謝っているオバちゃんがミレーさんなんだろう。


「エミル、さぞ大変だったろうに、ささこっち来て座りなさい」

「いえ席が空いてからで、ギュンターさんもまだ来てませんし」

「ほらっ、あんたたち!女の子が二人も立っているのに席を譲る甲斐性もないのかい!?」


 オバちゃんは近くの農作業着の男性たちに大声で捲し立てる。言われた男性たちは「ミレーさんにゃ敵わないな」とすんなり席を立ち、近くのテーブルに相席になると、すぐに談笑しだしていた。

「レ、レミーさん悪いですから」

エミル姉が遠慮していたが、パンを食べ終えたゼルは既に座っておりメニューを眺めていた。

「エミル、男どもの顔をたててやんな。あんた程の美人に席を譲ったとなりゃ自慢の一つにもなるんだよ。この村にゃ何もないんだからね」

エミル姉の為に椅子を引いて胸を張るレミーさん

「何をボサっとしてんのさ、坊や(・・)もこっちに座んな」

「ぁ、ありがとうございます」


 それまでぼーっと眺めているだけだった俺に声がかかり、驚いてどもってしまった。

エミル姉がレミーさんに近づき何かを耳打ちするとレミーさんの表情に影が落ちる。しかしレミーさんはスグ影を払うように明るく声を出す。


「今日は泊まってくんだろう?夕飯には期待いておきな。もちろん、今からの昼食もだけどね。ほら坊や、何か食べたいモノないのかい」

「私は鳥のスープと、さっきの焼き立てパンを2つずつ。それと柑橘ソースのステーキ」

「あたしゃ坊やに聞いたんだよゼル、それにねゼル、あんた女の子がそんな食べるもんじゃないよ」

「俺は、パンと…そうだな、野菜が沢山食べたい」

「ほぉエミル、あんた達が連れてくる子は野菜好きだねぇ。この子も前の可愛らしい女の子とおんなじだねぇ。普通子供ってったら肉、肉とウルサいもんなのに」

「クスッ本当ですね」


 どうやらティアもここにきて同じようなものを頼んだらしい。自分たちで野菜ばかり育てていたら外の世界の野菜のレベルを知りたいというのは当然と言えば当然だが、追い出されるように家を出され落ち込んで食欲がなく衰弱してるのではないかと心配していた俺の杞憂は少し晴れた。


「グハハハハ、遅くなったな。レミーさん肉だ、肉と麦酒をくれ」

「はぁ、おっきな子供が来たようだねぇ、待ってなすぐ焼くよ」


 遅れて来たギュンターの声を聞くと、やれやれといった感じでレミーさんは奥に入っていった。


「ギュンター遅かったじゃん」

「おうクライ待たせたな、明日ゼルんトコの方に馬車だして貰えそうなヤツを聞いて一声かけてきたからな」

「ギュンターさん、ありがとうございます」

「先に運ばれてくる肉は私の」


 ギュンターは、あのおっちゃんに声かけた後、明日の移動のために声掛けを行っていたらしい。前にジーノ兄たちがギュンターがリーダーやればいいと言っていたのも、こういうトコを見ると納得だ。そして鎧もなく銀髪褐色の上スタイルもいいというのに既に俺のなかで残念美人の座を不動のものにしているゼル姉は、やはりブレていなかった。


 食事は、とても美味しかった。

 パンも焼き立てを食べたのは初めてだった。さすがにあの家ではパンを焼くということは無かった。野菜スープやチンジャオロースのような料理もとても美味しかった。ただ野菜の質に関して俺は内心勝ち誇っていた。俺の努力の結晶(やさい)の方が遥かに良い出来だと自信をもって言えるからだ。


「ふふっティアちゃんと同じ顔してるよ」


 内心を見透かすようにエミル姉に声を掛けられた。きっとティアも自分たちで育てたものの方がと思ったに違いない。図星だったことに多少の気恥ずかしさも感じたが、ティアがとった行動や思いが透けて見えておかしくもあり心も体も元気になる食事が出来たのだった。


 今日はレミーさんのところに1泊することが決まっているので、食後の空いた時間で村の中を見て回った。聞いていた通り、この村は農村といった感じだった。家畜にしても概ね牛やヤギと括れる、ほぼ地球と同じような見た目の家畜が多かったし、魔物からの襲撃に備えた自警団といっても、ほぼ魔物なんてこの村には現れないらしく本来は槍をもつはずのところ、手に持っているのは見回りがてら狩りもできるようにと弓であった。


 ギュンターは、今もレミーさんのところで地元の人たちと酒盛りで盛り上がっていた。酔いだしたギュンターが上半身の衣類を脱ぎ「見よ、この美しき肉体」とボディービルダーみたいなことを始めると、対抗した村人も「農夫なめんな」と脱ぎだしたため、俺は笑顔で席を立ったエミル姉に連れられて村を見て回っている。ゼル姉は麦酒を飲みつつ更に追加注文していたが、周りの半裸など眼中にない様子だった。


「だいたい虎が脱いでも毛皮で分からんだろ」

「ふふふ、本当だね。クライくんは大きくなってもあんな大人(・・・・・)になったダメだよ」


 どうやら心の声が口から漏れていたらしい。

 村を一通り見た後宿に戻ると、半裸どころか下着のみとギュンターと、中には全裸になっている村人が正座させられレミーさんに叱られているところだった。

 聞こえた叱責の内容から酔ったゼル姉が審判をするなどの煽りが入り騒ぎになったらしく、正座の列の端にゼル姉がいたことにも納得がいった。普段言葉数が少ないのに、いらんことはちゃっかりするという、ゼル姉は残念さに余念がない。


 正座の列の前をレミーさんに会釈してエミル姉と2階に上がった。


「いい村でしょ、ここ。亜人差別もないし、みんな明るいしクスクス」

「ギュンターが明るすぎて気づかなかったかな」

「ふふっギュンターさんは人気者だから」


 ふっとエミル姉から笑顔が消え真剣な表情で俺の眼を見つめる


「この村ね少し前までは瘴気で半病人のような人も沢山いたの。

 でも今は瘴気に苦しんでる人はいないわ。それはね、クライくんのおかげなんだよ。クライくんが浄化した水で、みんな体から瘴気を消せたから。 今後はもう、この村が瘴気に侵されることもないと思うの。

 私もね、クライくんのおかげで助かったの。クライくんは知らなかったと思うけれど、クライくんのおかげで助かっている人はたくさんいるの。

 だから…力が足りなかったって自分を責めないで、クライくんのおかげで助かった人もいるんだから。自分一人で背負おうとしないで、もっと周りを頼っていいんだよ」

「エミル姉…ありがとう、俺は大丈夫だから」


 エミル姉の眼光が鋭く俺を射抜く


「ううん。大丈夫じゃないから言ってるの。

 クライくん、ティアちゃんにカーティスさんの事、どう説明するつもり?」


 ドキッとした。


「ティアちゃんがいない数か月間傍にいたのに、何もできなかったって自分を責めてるでしょ?何もできなくてティアちゃんに何て言えばいいんだろうって…」

「…………」


「クライくんは、ありのままを伝えてあげるだけでいいの。

 浄化で封印を解かれた魔王自身が持つ瘴気を消して、カーティスさんの命令で避難したのに、また戻ってきて、最後の最後に魔王の一撃も消し去った…事実でしょ?」


 優しい表情に戻ったエミル姉は俺の頭を慈しむように撫でる


「クライくん、よくがんばったね…

 ティアちゃんは、きっと泣いちゃうけど

 クライくんのせいじゃないんだよ?」


 俺は、いつしか涙がこぼれていた


「…あり……ありが…とう」


 俺を抱きしめたエミル姉は、花のような良い香りがして俺は気が抜けたのか、それまでの緊張が解けたのか、エミル姉の腕の中、眠りに落ちた。マスターを亡くしてから初めて心安らかに眠ることが出来た。


 気づけば朝になっていた。エミル姉がシャツにハーフパンツのようなパジャマで俺を抱えて眠っていた。隣のベッドではゼル姉が豪快に布団を蹴飛ばして眠っていた。


「クライくん、起きたの?…よく眠れた?」

「っ…うん」


 エミル姉が薄っすらと瞳を開け微睡(まどろみ)ながら微笑みかけてくる。エルフは貧乳という掟を破るスタイルのエミル姉に抱かれて寝ていたと思うと俺は顔の温度上昇がヤバイことになってきたので、飛び出すように布団を出た。流れる金髪にエメラルドのような瞳に白磁のような肌。単純にそれだけでも魅力的だがシュチュエーション補正がかかり俺の心臓はバクバクいっていた。見た目は子供だが、大人思考の部分が消えたわけでは無いようだ。


 部屋を出て下に降りるとギュンターがいた


「おう起きたかクライ、お前ぇ俺と同室だったのによ、おかげで2台つかって広々と眠れたぜ、ありがとよ」

「寝起きに虎を眺めるよりは俺もいい朝を迎えられたと思う」

「グハハハハ言うじゃねぇか、あの2人は美人だろ?いい記念になったじゃねぇか。ほら、昨日洗ってねぇんだ、今からシャワーくらい浴びてこい」


 どうやらまた心の声が漏れていたらしい。

 その上、言われてみればその通りであんな美人と子供とはいえ一緒に寝れるなんて、もう生涯ないかもしれないのだ。少なくともおぼろげな前世の中では無かった。

 内心悔しくもあったが、朝のエミル姉のことを深く心に刻み込み俺はレミーさんにタオルを借りてシャワーを浴びに向かった。



 旅立ちの準備が整うと俺たちはギュンターが声をかけていた馬主のもつ馬車で村をあとにした。

 ガタガタと揺れる荷台ではあったが、歩くのよりよほど楽だし、何より早かった。それに俺は馬の力というものを侮っていたらしい。2頭で俺とギュンター達3人に馬主の6人が乗った木造の幌馬車が、こんなに速く進めるなんて。これは農作業従事させたくなるというもの。備中鍬なんかよりよほど深く土も耕せるだろうし、切り株だって容易にぶっこ抜ける。

 そんな事を考え外の景色よりも馬を見ていた。


「ティアも、馬ばかり見ていた」

「ふふっティアちゃん、これで耕せばとか呟いてたけど、クライくんも同じこと考えてるでしょ」

「そんな分かりやすいかな」

「グハハハハ顔に書くより遥かに分かりやすいぞ」


 そんな話をしながら農業思考に思いを馳せていると遠くに低い山と森が見えて来た。


「あの山の奥地にティアがいる」

「結局、森から森だったんだな」

「私たちやゼルたちの仲間には、どうしても人里には馴染みにくい人たちがいて…」


 前に本でみた差別てきな文化のことや、ティアを森に連れて来た純血思考の者など理由は様々なのだろう。エミル姉たちのように積極的に人と交流を持つ者もいれば、逆もまた然りということである。


「ギュンターさんがた、ここまででいいかい?」

「おう、悪かったな突然きて無理言っちまってよ」

「いんや、お安いごようさ。あんたがたのお陰でワシがとの村は瘴気が晴れたんだ」


 ギュンターが乗るときに断られた乗車賃を無理やり持たせようとする中、耳打ちするように俺に体を傾けたエミル姉が「ほら、クライくんのことだよ」と言っていた。俺は少しだけ誇らしい気持ちになれたのだった。


 そこからは徒歩で森のなかを進んだ。マスターといた封印の森と違い、おかしな巨木もなければ道を作らせない程お生い茂っているわけでもなく、それほど苦しむことなく進んでいけた。数時間すすんだところで


「こんな森なら枝を飛んだほうが早くない?」

「グハハハ今時エルフでもそんな事ぁ出来んぞ」

「クライくん、多分それ普通じゃないから」

「猿芸」


 どうも徒歩以外は不評のようだった。


 ガサッガサガサ…

 付近の茂みが音を立てる


「おっと、出たな」

「群れ。5…6匹はいる」

「魔物?」

「えぇクライくん、瘴気の森と違って元気な魔物みたい。気を付けて」


 各々が武器を構える。俺も修行用の短剣を手に神の気を溜める。


「キィィィィ―」

「ギィギィイイイ」


 低木を掻き分けイノシシのような魔物がでる水牛のような角にサイのような角を生やしたイノシシは背中にも何本も棘のような角を生やしていた。


 俺は今にも突進しそうな戦闘のイノシシにむけ手をかざす


“閃 光”(フラッシュ)

 神の気に込めた目くらましを放ち駆け出すとイノシシの横に滑り込み体ごと回転し体重を乗せ首筋を下から斬り上げる。


 ドサッ…

 声も上げず倒れたイノシシの横の個体には全力で短剣を投げる。

 喉元に深く刺さった個体は体をのけぞらすように立ち上がると、そのまま後ろに倒れ込んだ。


 ヒュヒュヒュン

 エミル姉が弓を放つ音が聞こえた直後

「キィィィィ…」

 ドサ…っと倒れる音がひびく


 鞄から農作業用の大鉈を取り出し振り返る。

 ギュンターが斧で1体を両断し、ゼル姉は突撃槍(ランス)をなくしたため村で買った普通の槍で1体を貫いていた。


 俺は鉈を咥えると近くの木に飛びかかり木を蹴って、違う木の枝に飛び乗る。上から眺めると1体、まだ目くらましが聞いたのか首を振る個体が木の後ろにいるのが見えたので、枝を鉄棒のようにして回転し、その勢いのままイノシシの真上から落ちる。

 大鉈を持ち直し体重を乗せ角の裏の頸椎に鉈を振り下ろすと、首の中ほどまで刃を受け入れた魔物は眼から光を失い、そのまま絶命したようだ。


「クライよう、光らすんなら俺たちにも声をかけろ。だがまぁ3匹を瞬殺たぁやるじゃねぇか。見直したぞ」

「私も、ティアちゃんにも負けるって聞いてたからてっきりクライくん戦闘は苦手なのかと思ってたのに、すごい」

「眩しくなければ私のが多かったハズ」

「森だといつもこうだったから。それにティアはマスターみたいな魔法使うんだって言ったじゃん」

「あの可愛いティアちゃんからだと、想像が…」

「ギュンターより大きい岩でも吹き飛ばすんだってば」

「グハハハ負けた相手はデカくしてぇもんよ」

「良い土産が出来た」


 既に話もそこそこに俺の投げた短剣でゼルは解体作業に入っていた。俺とギュンターも解体に加わる。普段はギュンターとゼルで普段行っていたらしく2人の手さばきはさすがといったものだった。エミル姉は解体は苦手らしく枝肉になったものを束ねたり、角などの素材となる部分や、体内にあった小粒な魔力の結晶を袋に詰めていた。


 エミル姉の魔法で水を出し、短剣や鉈と解体の汚れを落とすと6体分もの肉を切り倒した丸太にかけギュンターが運んでいた。


 途中休憩も含み更に進んだ小高い山上、森お生い茂った様子から木々が明らかに間引かれ林のような地面の安定した場所に出た。眼下には山間に出来たのどかな村を見下ろすことができた。今朝までいた村よりもよほど大きな規模であり段々畑や水路が見えることから整地や農作業なども、この村の方が遥かにしっかりしている様子が見て取れた。


「ようやく着いたな」

「ここにティアがいるの?」

「ティアは、あのあたりに住んでる」

 

 斜面を下りる。

 村に着く前、エミル姉が少し心配そうに俺を見ていた。

俺は、そんなエミル姉に向かってニッと笑顔を浮かべて見せた。どこか安心したようでエミル姉の顔から心配な雰囲気は消えた。


 村は斜面に向け丸太の柵が出来ていた。先ほどの魔物などから村を守るように崖をのぞき斜面に接する部分にはどこも、この丈夫な柵が出来ているようだ。柵の付近には見張り台もあった。


 村の入り口、見張りをしていた銀髪褐色の男性とギュンター達が話している。


 ようやくティアに会える。

 話さなきゃいけないこと、話したい事が沢山ある。

 

 例えそれが辛い事でも、ティアには知らなければならないことが沢山あるのだ。それを俺が脚色したり、和らげてはいけない。どう感じるかはティアの自由なのだから。


 あるがままを伝えよう。


 決心を胸に俺は村の入り口をくぐった。

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