013 賑やかな日々
ティアには策士なところがある。
ある日の食事の事だった。
「こないだ、エミル姉さまがもって来た果物美味しかったねクライ」
「ん?あー、あのシャリシャリしたやつか」
多分ティアは日本でいう梨のようなものを言っているんだろう。
「あれ、家でもできないかな…あ!」
「マスター1つお願いがあるんです…あの…難しい課題をだして頂いて、それを克服できたらでいいので、聞いていただけませんか」
ティアは突然もじもじしながら敬語で切り出した。マスターも流れから
「そうだな…いいだろう。では、ティアの苦手な風魔法で竜巻でも起こせたら聞いてやらんこともない」
と、結構あっさりお願いを聞いていた。
ここまでは俺も、ティアは普段から果樹園を充実させていと言っているし、完全に話の流れからそうした話だと思っていたのだ。
ティアは、それから僅か2週間ほどで竜巻を起こす。
「マスター見ててください…いきますよーッ」
瞳を閉じ集中しているティアは手のひらを前に向ける、ティアは魔力量が多いからか、かなりの魔力を集めているのが分かる。
ティアが目を見開く
目の前には風が渦を巻き土ぼこりを巻き上げ始めた。そう、ティアは竜巻を無詠唱な上に、無言のまま発生させたのだ。詠唱は魔法の威力をあげる補助だが、魔法の発動には発声ありきである。魔法は魔力を基に想像を世界に干渉させ具現化するものだ。具現化する魔力は発声により名を持ち、初めて存在として確立して事象に至る。
それがこの世界の呪文と詠唱の関係だ。ティアは、それを無言――つまり詠唱どころか名をつけ確立させる呪文そのものすら破棄して事象に至らしめた。簡易な魔法であれ相当な集中力でもって念じることだけで名を持たせ存在として確立させたことを示すのだ。
「ティアよくや―「“昇嵐”!!」
ゴウッッ
竜巻が一点に集中し、地面の一カ所からジェット気流が立ち上る。気流は軌道上の枝を薙ぎ払い空へ向かう。この魔法は知っている。俺が死にかけたヴォルケイノライオスを空高く吹き飛ばした魔法だ。
「まだ詠唱だけだと無理ですけど、こうやって風をおこしておけば出来るようになったんです」
にっこり微笑みながら言ていたが、ティアは苦手な風魔法でマスターも普段行わない無銘魔法で課題をクリアしたばかりでなく、マスターの魔法を真似たのだ。
「それは私の独自魔法なんだがな。昔に一度見ただけではなかったか?」
「一度は一度でも、忘れられない一度だったから…あのマスターお願いは…」
「フッ…よく頑張った。なんだって聞こう」
ティアは、この一言を引き出すために、課題の合格点どころか遥かに難易度の高い事をしてのけたのだ。これだけやれば、マスターの性格なら、そう言うだろうという確信をティアは多分、あの食事の時から計算していたのだ。
「あの、じゃぁ……お母さんって、呼ばせてくださぃ」
「・・・・・・」
マスターはフリーズしていた。
「私、生まれたところでも両親どころか、優しくしてくれる人もいませんでした…マスターは、やさしくて、かっこよくて、尊敬出来て…私にはマスターとクライしか家族と呼べる人はいません。真似だけでもいいんです」
ティアは捲し立てた。
「最初は果樹って思ってたけど、もっと頑張ったら、もっともっと頑張ったらって思ったんですけど…やっぱりマスターみたいな若い女の人に、こんなお願い…ダメですよね」
ティアは前髪で瞳を隠し俯きながら言う。今にして思う。ティアは全て予想していたのだと。その上で、策を練り、マスターの思考を読み、詰める。計算高いとかのレベルでは無い。策士。マスターは、ここまで言われては逃げられない性格だ。
「か、構わん。よ、呼び方など。ティアは使い魔化しているわけでもないし、せ、世間の目をごまかすのにも丁度いいだろう」
マスターが動揺するのを見たのは俺が高熱で寝込んだとき以来であった。
にぱっ
そんな音が聞こえるほどに、俯いていたのが嘘のように満面の笑みを浮かべるとティアはそのままマスターに抱き着いた。
「おかあさん…わぁ、おかあさん、ありがと~」
「た、ただし、人前ではクライと同じようにマスターだ、いいな」
「うん。そう言うと思ってたもん」
それからというもの普段ティアはマスターを、お母さんと呼んでいた。俺は同い年程度にしか見えないので兄でも弟でもなく「クライはクライだよ?」とのことだった。
◆◇◆◇◆
虎の牙の5人が訪れたのは秋の事だった。
「おぉ!クライ、お前また大きくなったな、ふは、相変わらず目つき悪ぃな」
「ジーノ兄ぃ、来るたびに同じこと言うなよ」
「ティアちゃんは、また可愛くなったね。将来は絶対美人になるね」
「クスクス、エリック様、春も同じこと言ってましたよ?」
ジーノとエリックは印象も言葉遣いも全然違うし剣士と魔法使いだけど、芯の部分では似た者同士だと思う。
「ギュンターは?」
「クライ、お前も毎回ギュンターばっかり気にしてんじゃねぇか」
「ギュンターとゼルは途中で鳥肉仕入れてくるって言っていたので夕方には着くと思いますよ」
「ジーノ様、エミル姉さまが見当たりませんけど」
「エミルは森の様子を見回りながら来てるから、あいつも多分夕方着だな」
「ティアちゃんカーティスさんは中?」
「おか…マスターは今日も書物をしたためていますよ」
こいつ今、おかあさんって言いそうになってたぞ危ねぇな。
夕方には虎の牙のメンバー全員が揃った。
ギュンターとゼルが仕留めて来た鳥をティアとエミル姉が料理している間、俺はギュンターの背負子にマスターの作った売り物を、エリックの2メートル四方になる地面に穴が開くタイプの空間魔法に売り物の野菜などを詰めていた。
マスターは書簡をいくつかジーノ兄とゼルに渡して内容について簡単な説明を行っている。
「おう、クライどうだ強くなったか」
「ぐ…多分…」
「クライ君は、あの大魔導士の修行を受けているんです自信を持って大丈夫ですよ」
「最近、ティアにも勝てない…」
「ぐははははは!情けないぞクライ!!」
ギュンターは魔道言語では無口な虎だったが、実際は良く話す虎だった。
「ふっ女に勝てんようじゃ戦士にはなれんぞ。ぐはははは」
「距離を詰める間に魔法で負けるんだもん。ティアこないだマスターと同じ魔法つかってたんだぞ」
「カーティスさんといえど初歩魔法も使いますよ」
「違う、下準備してからならティアはマスターの独自魔法でも真似できるんだって」
「ぐははは!大魔導士カーティスの独自魔法だってよ聞いたかエリック」
「クライ君それ本当ですか?」
「信じないならいいよ、もう。はい、この果物の箱詰めでおしまい」
独身のマスターを母と呼ぶことを飲ませた程、ティアの魔法は凄いんだが実際に見ないと分からないだろう。
「ギュンター達、明日までいないの?」
「今日リビングとお前の部屋を借りて休んだら朝には出る予定だな」
「えぇ、森の外周部以外瘴気もありませんし、少しお水頂いたら出ていく予定ですね」
「昼までいたら、ティアの魔法がホントだって分かるのに」
「クラーイ、おか…マスター、みなさーん。ごはんできましたよー」
ティアに呼ばれ3人でリビングにいくと、ギュンター達が今日仕留めてきた鳥の料理を中心に、机に乗り切らないほど多くの料理が並んでいた。
「ティアちゃん凄いんだねクライくん!料理もだけど、血抜きから捌くのまで一人でやっちゃうんだもん」
エミル姉が既にティアを後ろから抱きながら言う。今や普段から料理はティアが担当しているので珍しくないのだが、確かに今8~9歳そこそことは思えない程、家事をこなせている。
「エミル姉さまも、料理上手じゃないですか」
「私は、ほら冒険者生活長いから、そこそこね」
「・・・私は出来ない」
「ゼルはなぁ~俺と同じで食材の仕入れ専門だもんなぁ」
「今はエミルさんがいますが、昔は私とギュンターで作ってましたからね」
どうやらゼル姉は虎の牙内で料理担当からは外れている様子だ。エリックさんはイメージ通りだが、ギュンターが料理担当側にいるらしい。いつものようにグハハハハとか笑いながらスープでも作っているのだろうか。…なんだかんだ似合う気がしてきてしまった。
「いまやもう、私が作ることの方が珍しくなったからな」
自室から出て来たマスターは、ティアの掛け声に対してなのがジト目でティアを見ているが、ティアはマスターと目が合うと満面の笑みでエミル姉の手をほどきマスターに抱き着いてしまった。俺は見慣れているが、ジーノ兄とエリックさん、ギュンターの3人は目を丸くしていた。ゼルが「親子の――もがっ」と呟くのを暗殺者のようにエミル姉が後ろから口元を抑えていた。ナイス、エミル姉。エミル姉にむけて親指を立てるとウィンクを返して来た。
「と、とりあえず皆、たべよう。俺も腹が減ったし…ね」
俺の掛け声で各々席につく。ギュンターとゼル姉は立ったままの方が落ち着くといって立食だ。エミル姉はティアを抱えている。エミル姉は本当に子供好きなんだと思う。俺にも優しいしティアのことも気に入っている。
「おぉ美味ぇなコレ!焼いたのもいいハーブ使ってるよな」
「ジーノ兄、そのハーブは俺が育ててんだよ」
「ほぉクライ君、これはいいですね、これ売らないんですか」
「ハーブは量産すると他の畑に飛び火するから増やしたくない」
「ぐはははは、クライお前そんな小せぇ事考えてやがんのか!」
俺の背中を叩きながらギュンターが笑う。この虎人間何てこと言いやがる
「ぐふっ…小さくない、ものによってはハーブテロになって畑つぶすんだってば」
叩くのが強いんだよギュンター。
「今日はゼル姉さまたちが鴨を沢山仕留めて下さったのでスープが、とっても上手くできました」
ティアは料理が褒められてとても嬉しそうにしている。
「どうですか?今日のスープ美味しくできてますよネ、おかあさん」
ブハッ
思わずスープを噴出したマスター。虎の牙を気遣ったのか横を向いて噴出すところまでは食卓が汚れずに済んで良かったが、俺の座っているポジション的には良くなかった。
食卓の空気が凍り付いていた。誰一人動けるものがいないかのように、一枚の絵画であるかのように時が止まる。
「あ!」
ティアがわざとらしく舌を出し眉をハの字にしてウィンクする。言っちゃったゴメーン的な表情を作りながらマスターに目を向けていた。
「…りょ…寮母的な、そう…寮母的な意味だ!!」
マスターが言い繕う
「ティアは私が預かっているからな。使い魔化したわけでもないので、マスターというのもな、だ、だからだ!」
マスター…変に言い訳すると悪化しますよ。
「…カーティス、お前やっぱり」
焦るマスターとティア以外が凍る食卓でギュンターが氷解の言葉を口にした。氷解の言葉ではあるのだが、どうもチョイスが良くない言葉に聞こえる。
「ち、ちがう!見て分かるだろう!」
マスターはついに立ち上がっていた。ティアはニコニコで場の流れを見守っている。ティア度胸ありすぎるだろ。
マスターがついに立ち上がって弁明を始めた。普段口数の少ないマスターが慣れないことをしている様が珍しく俺も眺めてしまった。
「すみません。やさしくてかっこよくて、心の中で、そう呼んでたんですけど、皆様といると楽しくて…つい」
俯きながら申し訳なさそうな感じで上目遣いでマスターを見ながら言うティアだが、目線の高さが低い俺からはティアが楽しそうにしている表情がありありと見えた。
わかってやってやがる。こいつ将来とんでもない大物になるんじゃなかろうか…
「グハハハハ、カーティスが取り乱すとは嬢ちゃん、やるじゃねぇか!」
「ふふ、あはははは、ティアちゃんなかなかやりますね」
「ふはははは、クライ、お前手玉に取られんなよ」
ジーノだけなぜか毛色が違う事を言っている。俺を巻き込むんじゃない。
「ティー…アァ」
マスターが低く唸るように声を上げると、ティアは席から立ち上がり保管庫から瓶を2本ほど持って来た。
「マスターこれ、ゼル姉さまが今回は何本も手に入ったからって、皆様でどうですか?」
それは果汁で味を調えた甘めのお酒であった。マスターは、味覚や好みが割と乙女なのでこういったものを好んでいる。
「ギュンター様達は蒸留酒だとおもうので、氷もだしておきますね。まだまだたくさん保存庫にありますから♪」
トテトテっと走り、酒盛りの準備を整えていく
「グハハハおう、カーティスと飲むなんて初めてじゃねぇか。なぁみんな!」
ギュンターが酒盛りモードに既に入っている。
「ふははは、いいな!よしエミル、ゼル、カーティスを挟め!」
「まさか飲めないなんてことありませんよね?」
男性陣がマスターを焚きつける。
「ほぅいいだろう。ティア私にも氷を頼む」
マスターの矛先が変わった。多分ここまで、ティアの思惑通りにだ。
「はい。氷をご用意したら、私とクライは先に寝てますね」
「いや俺はまだ眠くな「クライも氷運んでー」
ティアに手を引かれ保管庫の冷凍ドアの向こうにある氷を大きな陶器の器に盛っていく。
「クスクス、ふふ、アハハハハ今日は楽しいねクライ」
「お前、明日どうなっても知らないからな」
「んー…やっぱり明日怒られるかなぁ」
「そりゃあんだけやれば」
「クスッそしたら一緒に謝ってねクライ」
「バッ、バカ俺を巻き込むな!実践訓練がマスターの憂さ晴らしになったらどうする!!」
青くなりながら訴えるが、ティアは聞き入れる様子はなく氷を食卓へ運んで行った。本当に、本当にやめるんだティア。
酒盛りの笑い声やら、なにやら爆裂音などが時折響くのを遠くに聞きながら俺は自室の布団に潜る。
ガチャ
……ごそごそ…ばさっ
「ふふ、おかあさん凄い楽しそうにしてたよ」
「いや、そうじゃないだろ。ティア自分の部屋で寝ろよ」
「えー今日くらい、いいじゃんかぁ」
「何の根拠で今日くらいって話になるんだよ、はぁ」
とりあえず明日どうあっても俺を巻き込む気持ちなのは分かった。
「おやすみクライ、ふふ」
ティアは楽しそうにしたまま寝付いた。マスターのベッドに帰れよ。
俺も、そのまま普段より少し狭いベッドで眠りについた。
目が覚める。ガヤガヤ聞こえるところからまだ酒盛りは続いているんだろう。
「さむい…」
目が覚めたのは寒いから。掛布団がないからだった。隣のティアは俺の布団を全て巻き込んでミノムシになっていた。器用に隙間から俺のシャツをガッシリ掴んで穏やかな顔で眠っている。
「この…人の布団に侵入してミノムシとか…」
ティアの体から、掛布団を引きはがす。気づけば枕も完全に我が物としているじゃないか。溜息をつきながら、はがした布団を掛け直す。
「ん、クラ…一緒…あやまって、ふふ」
なんかもう俺が謝ることが前提の夢まで見てやがる。
「はぁ、もう分かったから布団とるなよ。おやすみ」
敷布団の角を折り曲げ枕にしていると寝返りを打ってこっちを向いたティアは反対の手も俺のシャツを掴んで握りしめていた。俺は諦めて、そのまま眠りに落ちた。
朝目覚めると、やはり俺から布団は無くなっていて、隣には掛布団のミノムシがいた。俺はミノムシの手をシャツから剥がしてリビングに出ていく。
死屍累々となった虎の牙の面々がそこにはいた。マスターは部屋に帰ったらしい。俺は、そいつらを無視してそのまま外に出た。外は外で大型の虎男が上半身裸で大の字に寝ていた。
酔い覚ましにもなるだろう。薬草畑から毒消しと、ハーブ園からも薬効のあるものを摘んで戻ると、ティアも起きてきていた。髪の毛がボサボサになっているエミル姉と麦粥をつくっている様子だった。ジーノ兄やエリックさんは、目こそ開いていたが動けないらしい。ゼル姉に関しては、髪も整ってしっかりした状態で机に座っていた。どうもゼル姉は酒盛りからは抜け出して、しっかり寝ていた感がある。ゼル姉はマイペースな人だった。
「ゼル姉、エミル姉おはよう。ティア、これ毒消し草とハーブ」
「クライおはよー。うん、このまま粥に入れちゃうね」
「マスターは?」
「ふぁ~…カーティスさんは、多分しばらく起きてこないと思うなぁ。ギュンター倒すまで飲んでたから」
エミル姉が眠そうにしながら答えてくれた。相当飲んだらしい。
「解毒の魔法とか、かけたら効果ありますか?」
「あるけど眠気まではとれない」
ゼル姉が答えてくれた。
「でも解毒魔法使えるエリックが今とても魔法が使える状態じゃない。放っておいて粥を食べよう」
ゼル姉は、そんなことより朝飯だという状態に入っており、倒れている者に興味が無かった。
昼頃、それぞれがようやくまともに話せる状態で揃った虎の牙は、家の水をまた大量に持ち出して帰っていった。
「クライ、ティア、すまない今日は自習してくれ。クライ森の見回りを頼む」
マスターは、そう言うと水を飲み部屋へ戻っていった。まだ酒が抜けず本調子ではないらしい。自分で解毒魔法なんかも出来そうなのに、しないのだろうか。しても既に酔った脳の状態や疲れた内臓までは回復しないということなのだろうか。とにもかくにもマスターは、また眠ってしまうようだった。
「怒られなくて良かったねクライ!」
ティアは楽しそうにそう言うが
「俺が悪さしたみたいに言うなよ」
そもそも俺は怒られる筋合いじゃないだろうが
虎の牙は、その日から2か月と立たずまたやって来た。
その後からは毎月来て必ず一泊していくようになっている。最近やたら来るんだよ虎の牙。暇なのかな、このパーティー。
「クライ、ティア。今日は二人で森を見回って、その後は遠距離からの魔法を使った訓練だ。クライは攻撃魔法なし、ティアは魔法のみ」
「「はい」」
マスターは最近、指示だけ出して森を見回ることも俺たちに任せている。外に出る機会も減った気がする。訓練もティアと二人で行うことが多くなっていて、マスターとの近接訓練は無くなってきていた。
「今日もだな。マスター、なんか最近おかしくないか?」
「…おかあさん、なんだか元気ない気がする」
マスターは一年近く書いている書物をまとめ本のようにしていた。虎の牙が来ている時にティアと二人で何かいているか見ようとしたことがあるが、本を閉まってある箱自体に封印魔法が掛けてあり、ティアでは解呪することができなくて内容は今なお分からなかった。
虎の牙が頻繁に来訪するにつれ、マスターは元気がなくなっているように感じる。俺とティアは、もうじき10歳ほどになろうとしていた。
そんなある日、ギュンターが言った。
「俺たちの装備をな、少し貯蔵庫の隅に置かせてくれ」
「別にマスターがいいならイイけど、なんで?」
「いや、近々な。ちょっと大物を…な」
「ふーん」
この森に、大物なんていないんだけどな。ヴォルケイノライオスだってマスターが瞬殺しちゃうしさ。
家の貯蔵庫には今、虎の牙の物々しい装備が積み重ねられていた。あの人たち、こんな凄い装備もってんだってほど、素人目に見て分かるほど立派なものが多かった。確かに重装備となりそうだったので、普段装備するのは憚られるようなものが多かった。
森の様子も安定してき今、なんで大物なんだろうと考えていた。ティアと話していても見当もつかなかった。
そんなある日、マスターが何の前触れもなく言った。
「ティア。お前は今日からゼルと共にエルフの隠れ里へ行き、そこで暮らせ」




