反乱
◆
「俺が司令官に選ばれた理由だって?」
エリの存在感が揺らいでいるのを気にしながら、俺はオウム返しに応える。
やはり、駄目だ。皆を呼ばなきゃ駄目だ。エリが消える。
『司令官。ちゃんと聞いてください。私との最後の会話かもしれないんですよ』
『恐らく何か想像もつかない理由で、“本部”はあなたを“司令官”に選んだとか思ってません?
私もミスリードしましたからね。そう思って当然です』
エリは無理して微笑もうとする。
『“本部”が司令官を選んだ理由は実は、簡単なんです。
敵がこの時代に狙いを絞り、あなたへの攻撃を開始した時に“本部”は決断しました。
重要人物であるあなたを艦隊の司令官として手元に置いて、守ろうとしたんです。
敵に殺されたりしたら、修正不可能な影響を受ける事になって歴史が変わり、“本部”も終わりですから。
ちょっとまってくれ。言ってる意味が全くわからない。
「俺はごく普通のどこにでもいる大学生だ。
重要人物とか意味が分からない」
『あなたの子孫はそうじゃないんです。
あなたの子孫達は数十世紀の長期に渡り、絶望的に劣勢な戦争を勝利に導いたような英雄で溢れています。
あなたが居なくなれば、子孫達もいなくなり“本部”の知っている地球の歴史では無くなってしまいます。
異星人との大規模戦で負けたら、地球人は全滅するかも知れないんですよ』
この艦隊自体、もちろん地球もついでに守りますが、最大の目的は重要人物である司令官を“敵”の手から守る事です』
エリは、悪戯を見つけられた少女のように微笑む。
『“本部”の目論見では、司令官は仕事なんかしなくても、余裕で地球を守れるくらいの十分な戦力を与えられているはずでした。
しかし予想以上に“敵”の攻撃が執拗だった為に、遊んではいられませんでしたよね。
本当は、私達と楽しく遊んでいれば良い位の考えだった筈です。
しかし“本部”の想定以上にあなたは優秀でした。そこは計算違いです』
『さて、ここからが本題です。よく聞いてくださいよ』
エリはにっこり笑う。多分笑ったんだ。色が希薄になり、身体が透け始めている。
『“本部”はあなたを恐れています。あなたは“本部”を操れるのです』
『もし、あなたが“本部”の敵に回ったら?
もし、あなたが自分の意志で、結婚せずに子供を残さなかったら?
もし、あなたが事実を世界中に公表し歴史を変えてしまったら?
あなたの、カードはいくらでもあります。
彼らにとって、どんな気に食わない事をあなたがやろうが、“本部”は殺したり消したりは出来ません。
そんなことは自滅行為です
あなたは、最強のカードを“本部”に対して持っているんですよ。
“本部”がやたら破壊的な力を見せつけて威圧するのは、彼らの恐れを表していると思います。
“弱い犬ほど、よく吠える”って言うじゃないですか?』
『本当は、もっと早く伝えたかった。報復が怖くて』
『でも、もう消えちゃうんだから。私に怖いものは何もありません』
エリが抱きついてくる。紙が触れた位の感触しか無い。存在感がまるで無くなっている。
『あなたみたいな地球人と知りあえてよかった。
わたし、地球人って嫌いだったんです。
でも、あなたは残忍な“本部”とはまるで違う。
だけど、もうお別れです』
……いいや。お別れじゃないな。
君はヒントをくれたんだろう?
「ジュピター」
俺は、ジュピター本体を呼び出す。
「情報封鎖を解除だ。本部に直通連絡」
「“エリを元に戻せ。 さもなければ俺はそちらの敵に回る”以上だ」
『司令官。どうされたんですか? エ、エリさん、大丈夫ですか?
今そちらに行きます』
「ジュピター、もう時間が無い。いいから通信を本部に送ってくれ。頼む」
『しかし、この文面は…』
「頼む」
ジュピターはしばし戸惑うが、応答する。
『了解です。
前にも言いましたが、私はあなたの味方です。
送信完了致しました…しかし応答ありません』
エリの存在感はもう殆ど残っていない。
抱き合ってる筈なのに何も感じない。
“本部”、この野郎。いい加減にしろ。
でも俺はブラフは得意なんだぜ。
「ジュピター。俺とエリがいる区画をパージしろ」
『そんな事をすればその区画ごと本体から切り離されるんですよ。
圧も抜けちゃうし、ここ非空間なんです!どうなると思ってるんですか。無理です。嫌です』
「やれ。俺の味方なら命令に従え。戦艦ジュピター、命令を履行しろ」
『……』
「大丈夫だ。頼む。お願いだ。やらなければエリが死ぬぞ」
『…了解しました。…司令官、ご無事で』
ガツンと床に衝撃が伝わる。ジュピター本体から、今居る区画が切り離されたようだ。
周りが暗くなり、非常用電源が入る。人工重力が消え、身体が浮く。
同時にしゅーっと言う音が聞こえる。船内の空気が外側の非空間に溶け出している。
このままでは、死ぬだろう。
本部よ。俺は歴史上の重要人物なんだろう。いいのか?
歴史が変わるぞ?
俺はエリを見る。
…色が濃くなってきている。彼女の身体の重さを感じる。
彼女の身体が元通りになっている?
エリの存在感がありすぎる、スタイルの良い身体に俺は抱きすくめられる。
本部が負けを認め折れたのだ。
『司令官。ありがとうございます。大好きです!』
いや。エリ、俺達、まだ助かってないからな。
俺はジュピターが聞いてる事を祈って、脳内で呼びかける。
ジュピターごめん。謝る。命令強くいいすぎた。
助けてくれ~。一生のお願い。このままじゃ死ぬ。しぬ。
『知りません』
いや、そんな事言わないで。息が苦しくなってきたし。
ジュピターにひどく拗ねられたあげく、散々文句を言われたが、俺とエリは取り敢えず命を繋ぐのに成功する。
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