”本部”
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『私の持ってる情報は“本部”の正体と、敵対している“敵”に関してだ』と男は言う。
何故、俺達の“本部”の事がこいつの口から出てくるんだ?
しかも、この男は“本部”に対して恨み辛みを持っている気がする。
何故だ?
情報は欲しい。“本部”は信用しきれないのだ。
エリ達が何か企んでいると疑うつもりは無いが、全部を話してもらっていないのも事実だ。
俺は彼女達の方を伺う。
ジュピターは困惑して男の方を見ている。俺の視線に気がつくと、俺の脇に寄り添い身を寄せる。
サキは男を警戒しつつ目を離さない。
エリは、エリは、エリ…いや、それはマズイ。
「エリ。攻撃は止めろ」
彼女はビクッとして、振り上げようとゆっくり動かしていた手を止める。
『ほう。司令官。それは正しい判断だ』
俺は男に言う。
「話したいことがあるなら話せ。 気に入ったら聞いてやる」
エリが、こちらの目を覗きこむようにして言う。
『司令官。私を信用できませんか?』
「すまない。エリ。
俺は地球人の代表として、“本部”について詳しく知っておく義務がある。
君とは後でゆっくり話をしたい」
彼女はうなだれる。
男は恭しく俺に改めて挨拶をする。
『まず自己紹介と行こう。
私はそちらとの交渉用に誂られた通信用の身体だ。
戦闘機械を統括する中枢と直結している。
惑星サルガスの機械知性を代表するものと理解してもらって良い』
「コミュニケーションは取らないと聞いていたんだが。
予想通り、元々こちらの言う事は分かっていたと言うことか」
『そりゃあ言葉くらい分かる。
ケプラーの奴らは弱すぎるから話す必要が無かっただけだ。
あなた方は強いからな。必要性がある』
「何故ケプラーを攻撃した?」
『単に手近にあった目標だったからだ。
資源と労働力の確保が目的だ。つまらないだろう?
よくある話だと思うが?
あなた達のおかげで、努力が無駄になったがな』
「“本部”について話してみろ」
『その前に、我々サルガスの機械知性を造った創造主―まあ製作者だな―について説明しておこう。
製作者の種族は一万年ほど前に滅んでいる。知っていると思うが?』
俺は頷く。
鈴木さんから、聞いたと思う。
『その種族は、一万二千年程前に高度な文明を築き上げ、我々機械知性の先祖にあたるものを創造した。
数多の星に進出し、種族は繁栄し芸術・科学技術において多くの事を成し遂げた。しかし、残念ながらその繁栄は単独で成し遂げたものでは無い。
そこで出てくるのが、あんたらの“本部”だ。
“本部”は製作者達を援助し、基礎となる技術を与え、繁栄を助けた』
俺はようやく、何故あいつらの船が俺達の船と似ていたり、設備が似通っているのかを理解した。同じ“本部”の技術を使っているのだ。
彼らのは劣化コピー版だが。
『“本部”は助けただけじゃないぜ。
最後には我々の製作者達を滅ぼした。
製作者の種族全体を滅ぼしたのは“本部”だ』
滅ぼした…だと?
『笑えるだろ? あいつら神にでもなったつもりらしい。製作者達は何も悪いことはしていなかったんだ。
苦労して開拓した惑星の太陽を破壊して、人間ごと、ぽーんだ。
この惑星だけは見逃されたようだが』
俺はエリ達の方を見た。
ジュピターとサキは驚き、抗議する。
『そ、そんな事。嘘です!』
『いくらなんでもそれは嘘でしょ? いい加減な話をして騙そうとしないで』
エリは何か言いたげにしたが、黙りこむ。
サキが俺の腕を掴む。
『私の知っている限り、“本部”がそんな事をした事実は無い。信じて』
『“本部”が都合の悪い話はしないだけじゃないのか? 私は嘘は言ってない』
男は話続ける。
『製作者達も、黙って滅んだ訳じゃあない。
必死で抵抗したし、“本部”の正体を突き止めた』
『感謝しろよ。司令官。何十億、何百億もの人間の血を代償に得た情報だ。
それを只でくれてやる』
『あいつらは何百億年か、もしくはもっと先の未来から来た知性体だ。“敵”も同じだ』
『2つの種族がお互いの過去に干渉して、自分たちに都合が良く、相手に害を成す事柄だけを残そうと競争してるのさ。
例えば“本部”が俺達のような機械知性から発達した種族だとする。
じゃあ、機械知性という発明が過去になかったように、敵側が歴史を修正したらどうなるか?
“本部”は未来において存在出来なくなる。元が無いんだから当然そうなる。
そうなれば、未来は“敵”の天下だ。例えばの話だがな』
『我々の製作者は“本部”にとって都合の良い何か、例えば“機械知性”を発明するとか何かの仕事をさせられたんだろう。
だから本部は援助した。
一旦発明してしまえば、それ以上製作者達を生存させると、”本部”にとって何か都合の悪い事件でも起こす可能性があったのかもしれん。
危険だと見なされた製作者達は処分された。まあ、そういう事だと思う』
『君らや私達は、奴らにとってチェスのコマにすぎん。あいつらは我々を使って自分達の生存をかけたゲームをしてるって訳だ』
『いい話だろう? 先輩からの忠告だ。
あなたの星もいずれ捨てられるぜ。いつかはな』
「その話が正しいという証拠は何処にある?」
『証拠? 無いな。 信じるか信じないかはそちらの自由だ。
ああ、しかし、そっちの“コミュニケーター”君は知ってるようだ』
エリの方を見ると、彼女は決心したようにこちらの目を真っ直ぐ見つめてくる。
『司令官。この男の話は真実の中に嘘が混ざっています。あなた方の地球はこの人達とは立場が違うのです』
『好きにやってくれ。
司令官、当方の降伏条件はさっき言ったとおりだ。
答が決まったら呼び出してくれ。
じゃあな後輩!せいぜい頑張れよ』
男の姿は消え失せた。




