切り札
◆
最悪だ。
敵は大陸上に設置した無数のレーザー砲でジュピターを狙っている。
恐らく、これが最初から敵の狙いだ。
200隻余りの巡洋艦は注意をそらし惑星上に隠された切り札を隠す為の、陽動だったのだろう。
始めから、巨大な戦艦であるジュピターが最大の脅威である事は明白なのだ。
「ジュピター!」
俺はジュピターに命令する。
「重質量砲準備!
敵の予想攻撃力、攻撃タイミングを知らせろ。今すぐ!」
日頃、元気すぎるように思えるジュピターが、青ざめた顔で情報の分析に集中している。
『重質量砲1門が、20秒で発射可能です。
敵レーザー砲のエネルギー予測値、1エクサ・ジュール(=百京・ジュール)規模。
現在の私のシールド耐久値を超過しています。
30秒後に敵レーザー来ます!』
考える時間は無い。
「ジュピター。重質量砲を大陸のど真ん中に撃ちこめ。」
『重質量砲準備……発射! 着弾は40秒後』
間に合ってくれ!
前回の地球防衛戦の時に敵砲艦が装備していたものが重質量砲だ。
あれよりは小型だが、ジュピターも装備している。
使用する重質量弾は、大人1人位の大きさの筒状の弾だ。
内部に構造は何もない。ただし直径1km規模の隕石と同等の質量を持った物質が閉じ込められている。
攻撃方法は単純で、高速で惑星表面に落とすだけ。
ただし破壊力は圧倒的だ。
地球の恐竜が滅亡した理由は、直径10kmを超える隕石が落下したのが原因だという説がある。
ジュピターの重質量弾は直径1km相当の隕石と同等の質量だから、それよりは小さい。しかし物理的な破壊力はそれでも依然、破滅的だ。
現在サルガスに生存している動植物類にも深刻な影響が出るだろうし、気候も変わるだろう。多数ある遺跡も多くが瓦礫に成る。
通常なら使ってはならない禁則兵器だ。
俺の地獄行きは、これで決定しただろう。
『敵レーザー砲、励起状態になりました。発射まで5秒』
大陸上にある数百万のレーザー砲から照射された光が同期して収束、ジュピター本体を襲う。
光速で到達するので回避は不能。
前触れ無く、突然ジュピターの艦首部分が燃え上がり、太陽のように光を発する。
放熱が間に合わない。
シールドがもたない。
ようやく、こちらの重質量弾が惑星表面に着弾する。
衝撃波が周囲の地形をなぎ払う。
大地がえぐられ岩石が溶解し、広範囲の地面が一瞬で粉砕され膨大な質量が地表から舞い上がる。
レーザー砲が設置されている大陸の三分の一程の部分が、巻き上がった物質で黒く覆われる。
ジュピターへのレーザーの照射が止まる。
「ジュピター!」
『戦艦ジュピター、シールドエネルギー残存0。
現在シールドエネルギーの緊急回復を行っています。
敵レーザー砲の三分の一が無効化出来たと思われます』
敵は諦めたか?諦めてくれ。
『敵が生き残りのレーザー砲を集めて、再構成しています。まだ撃つ気です』
こっちはシールドエネルギー0だ。
重質量砲を全門発射して大陸を破壊することは出来るだろうが、
弾が飛んでいる間に敵のレーザー砲を食らって、ジュピターも死ぬだろう。
相打ち、共倒れだ。
「スミス。全周波数を使って惑星に呼びかけろ。ケプラー語を使え。
内容は、“直ちにレーザー砲の攻撃を停止しろ。停止しない場合はこちらの持つ全ての重質量弾を惑星に向かって発射する。発射を停止すればこれ以上、重質量弾での攻撃は行わない”以上だ」
敵は過去に、人間とコミュニケーションを取った事は無い。
しかし、これだけ狡猾な作戦を実施する知能があるのだ。
言っている意味は分かっている筈だ。
なんとかして、シールドエネルギーの回復時間を確保しなければ。
敵は相打ちを選ぶだろうか?
じりじりと時間が過ぎる。
『シールドエネルギー5%回復しました。敵レーザー砲チャージ終了まで1分』
回復速度が遅すぎる。シールドは間に合わない。
『司令官。重質量砲の発射許可をください。
私が生きている間に撃たないとケプラー軍や重巡の仲間がレーザー砲で殺されます』
ジュピターが破壊されれば、残りは順番に殺されるのは明らかだ。
無効化フィールドで守られた俺達を除いて。
ジュピターは握った手に力を込める…が、手が震えている。
本体が無くなれば、生身の身体も死ぬのだ。
「スミス、もう一度、惑星に向かって警告しろ。最後通牒だ」
『了解です。司令官。…送信しました』
これでも駄目なら。
ジュピターが驚いたように報告する。
『レーザー砲のエネルギー反応消失。励起状態が解除されました』
助かった。
わーっと艦内のサキとエリが歓声を上げる。
俺はジュピターを抱きしめ無事を喜んだ。
ジュピターが泣きじゃくりながら、甘えた用に言う。
『私頑張りました。頑張りましたよ!』
※各種の数値はフィクション上の設定です。




