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ブラフ

俺は戦場を俯瞰ふかんするのを止め、視点を戦艦ジュピターの本体から自分の目に戻す。

案の定、抱きついていた生身の身体のジュピターをサキの方を気にしつつ、なんとか引き離して自分の席に着いた。


現在、俺達が搭乗している旗艦スミスは、敵艦隊目掛けて最大戦速で突っ込んでいる。足が遅い戦艦のジュピターは、後ろから俺達を追う。


巡洋戦艦を助ける為には、出来るだけ多くの敵をこちらに引きつけなければならない。

スミスの主砲で落とせる敵の数は、敵が200隻以上である事実から考えれば、誤差の範囲内だ。


どうすればいい?


敵の目から見て俺達の事は、単艦で突っ込んでくる正気とは思えない重巡洋艦1隻にしか見えない筈だ。


しかし、重巡がミサイル代わりに突っ込んでくるとしたらどうだ。

重巡の積める限り一杯の反物質を、爆弾代わりに抱えて突っ込んでくる、としたら。

艦隊の中心で爆発すれは、敵は一瞬で壊滅かいめつするだろう。


宇宙における艦隊戦では、ミサイルという武器はほとんど使われない。

長い距離を非力なミサイルのエンジンで飛んでいっても、途中で高出力の艦砲に撃ち落とされてしまうからだ。

しかし、俺達はサキの無効化フィールドのお陰で撃ち落とされる事はない。


もちろんスミスには反物質なんて積んでいない。ミサイルも積んでいない。

当たり前だが自爆する気など毛頭ない。

しかし自爆目的で艦隊に突っ込んでいる可能性を、敵は否定できない筈だ。

つまり、これはブラフだ。


「スミス。敵の中心部に進路を向けてくれ。

サキには負担をかけてすまないが、無効化フィールドの維持を頼む」


俺達を落とす為に、敵が3隻ほど回頭を始める。

「スミス、射程に入ったら主砲も副砲も撃ちまくってくれ、目標はまかせる。

戦場をかき回してくれ」


『了解です。いやー撃ちたいだけ撃てるの久しぶりだな。楽しみです』

性格にジュピターが混じってないか?


先頭の部隊がこちらの主砲の射程に入る。

準備を終えた、スミスの2連装200センチプラズマ砲の1門が火を噴く。


着弾。敵艦1隻の大破を確認。


ジュピターがはしゃぐ

『スミスさん、一番槍いちばんやりですね。おめでとうございます!』


スミスは最大戦速で、そのまま敵艦隊の中心部目指して直進。

敵主砲の射程内に入ったらしく、回頭を終了した敵の巡洋艦3隻のうち1隻の主砲が火を噴く。


残りの2隻は撃ってこない。いや撃てないのだろう。

恐らく砲が突然故障したか、制御部が爆発でも起こしたか。


サキの展開する無効化フィールドは一見、強度の強いシールドのように見えるが、全く異なる原理で動いている。


フィールド内で保護している物に対して、外部からのエネルギー照射や物理攻撃による”破壊が許されない”と定義する事がサキの能力だ。


“破壊されない”という結果があらかじめ設定されており、結果を守るように物理法則のほうが改変される。


無理に結果を合わせなければならない物理法則の立場にしてみれば、砲が発射されなければ一番楽だ。だから敵の2隻は主砲が発射出来なかった。


なんとか発射出来た1隻の主砲の方はスミスに直撃する。

2億度のプラズマが直撃しても効果が無いようにする為に、物理法則の方が改変される。

量子力学的に有り得ない確率の事象が起こり、たまたま宇宙空間に浮遊していた数個の水素原子が奇跡的にプラズマ砲のエネルギーを全部引き受けて、熱エネルギーを拡散した……ような事が起こった筈だ。


ばかな、そんな事は物理法則に反している。と言う人がいるだろうが、そのとおりだ。

だから俺は言っただろう。物理法則が改変されるって。

フィールド内の物が破壊されないと言う事が最上位の法則となり、それ以外の法則はゆがむしかない。

唯一ダメージを通せるのは前回、地球防衛戦の時に“敵”が使った情報攻撃だけだ。


俺達が何のダメージも無しに、自分達の中心に進んでいるのを見て慌てた敵は、陣形を乱し始める。

こちらを射程内に収めているだろう30隻ほどが、あわてて回頭を始める。

どんどん撃ってこい。巡洋戦艦側に行く敵をもっと少なくするのだ。


スミスの主砲のチャージが終了し、発射される。

着弾! 今度も敵は大破だ。


敵が回頭を終了する。30隻全艦が主砲を発射……少なくとも撃とうとしたんだと思う。

実際は4隻だけがなんとか、主砲のプラズマをサキの無効化フィールドに当てるが当然効果は無い。

残りは突然主砲が故障したか、何らかの原因で作動不能と推測。


無傷で中心方向に進む続けるスミスに、敵の全体が浮足立つ。

自分たちの攻撃が全く効果が無い事をようやく認識したようだ。


全ての敵がスミスから距離を取ろうとして陣形が乱れる。

艦隊の中心部で、反物質爆弾などで自爆をされたらお仕舞いだからだ。

いや、反物質なんて持ってないんだけどさ。


俺達は、巡洋戦艦の方向から敵艦隊に向かって突進した。

敵はスミスから距離を取ろうとすると、巡洋戦艦を射程には収められない筈だ。

もう少し敵をかき回していれば、ジュピターの射程内に敵が入る。


勝負あったか。とりあえずよかった。


『司令官。惑星上の大陸表面に、大規模な変化が観測されました。

広範囲に渡って構造体がせり上がって来ています』


ジュピターが緊張した声で割り込む。


脳内に惑星図が表示される。

地球で言えば、アメリカ大陸に匹敵する規模の領域全体が銀色に輝いている。


『急激なエネルギーの上昇を確認。

構造体の正体が分かりました。高出力レーザーの照射体が無数にあります。

大陸全体に何百万個も!』


『敵のターゲットは、……私、戦艦ジュピターです』


最悪だ。


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