悪魔との対話
シャルディの授業が始まってからも、カインの書庫篭りは続いていた。
むしろ、魔法の授業の前には、あえて魔力を減らす為に、ここで念入りに自分の魔力を調整する必要があった。
「…やっぱりないなぁ。憑依魔法」
カインは、書庫にある魔法書を片っ端から見ていったが、憑依魔法の記述を見つけることができなかった。
「…」
カインは、おもむろに立ち上がると、魔力を込め始めた。
「久しぶりです」
カインが話しかけた先には、禍々しい空気と蠅の羽をもった男。ベルゼブブがいた。
「…お久しぶり。ではない。
やっと、我と契約したくなったのか」
ベルゼブブは、傲岸な顔をして満足気に笑った。
「いや、その話はあとでお願いします」
「じゃあ、何で呼んだ」
「ちょっと聞きたい事があって。ベルさん話しやすそうですし」
「聞きたい事とは………ベルさんとは何だ」
「ナイス、ノリツッコミです」
「…のり…何だ。お主の言うことが、よくわからんのだが」
「お笑いの為の手法のひとつです。
とりあえず、人間にとり憑くことってありますか」
「憑依のことか」
「そうです」
「なんだ。我に身体を差し出したいのか」
「いや、聞きたいだけなんですけど」
「我は、悪魔なんだぞ。何故、そのような願いを聞くと思う」
「優しい悪魔って、言葉聞いたことありません」
「…あり得ないだろう。そんな存在は」
「まぁ、そうですよね。とりあえず、教えてくれません」
「何が、とりあえずなのかわからんが。
簡単なことだ、我らは召喚で呼ばれても、人間界で許容できる力しか発揮できないが、憑依した場合は、本来の力を使う事が出来るのだ」
「リミッター解除みたいな事なんですかね」
「りみったー、というのは知らんが、我ならば、この世界を壊すことも可能だぞ」
「なるほど。神様も降りてくるんですか」
「そうよなぁ、神であれば死人くらいは蘇るらしいぞ」
「便利ですね」
「まぁ、わざわざ神が自らそんな面倒な事はしないだろうけどな」
「じゃあ、何しにくるんですか」
「最初こそ、魂ごと魔力をいただくが、その後の、我らにとっては、集団の欲望。神であれば祈りか。それらは人間でいう酒みたいなものよ。たまに味わうに良いものだからな。代価くらいは払ってやるさ」
「アル中の悪魔がいなくて、幸いですね」
「…人間の言葉は難しいな。
さて、そろそろ契約を始めるか」
「さて、お疲れ様でした」
「おいっ」
カインは、そう言うと魔法陣を出現させた。
「ありがとうございました」
「ちょっと、まて…」
ベルゼブブが言い切る前に、彼の身体は魔法陣に沈みきってしまった。
「あー、また片付けしないと…」
カインは、独りきりになった書庫を見渡して、面倒くさそうに呟いた。




