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出来る限り魔力を消費しながら、ベルゼブブが散らかした本を片付けたカインは、書庫に展開している結界を解くと、脱力感にさいなまれつつ、ひとつ息を吐いた。
今、カインの中に残る魔力は、蝋燭ほどの火を灯すと、ちょうどゼロになる。
普通であれば、急激な魔力の消費によって意識を保っているのも辛いはずであるが、同じ事を2年続けているカインにとっては、通常運転と変わりない。
頭痛と眩暈をやり過ごしながら、カインは書庫をでると、扉の前には獣耳のメイドが立っていた。
「カイン様、お体の方は大丈夫ですか」
心配そうに問いかけた彼女は、カインが覚醒した時からカインの専属としてついているメイドである。
「ちょっと調子悪いけど、大丈夫だよ。
マアト、ありがとう」
カインは、少し微笑んで返した。
「いえ、もうすぐアベル様もお戻りになるので、夕食まで、そう時間もないですが、一度、お部屋へ戻られますか」
「そうだね。少し横になりたいかな」
「かしこまりました。では、行きましょう」
アマトは、カインを伴い部屋へと向かった。
基本的に家族に対して罪悪感を持っているカインは、決して我儘を言う事はなかったが、唯一、無理を言ったのが、一人で書庫で過ごす事だった。
始め、両親には反対されたが、2歳の時に寝込んでからは、ふさぎごみがちで、床に伏してる事が多く、アベルとは違って外に出る事もままならないカインの願いは、結局受け入れられることなった。
それからのカインは、まず子供向け本を一冊目を通すと、残りの時間は、ひたすら魔法を使う事にしていた。
実際、魔力や物理的なもの全て遮断する結界魔法を覚えてからは、かなりの大技も試していた。
それこそ、悪魔を召喚してしまうくらいには。
しかしカインは、魔法に傾倒している自分を自嘲的にみていた。
たとえ長男で領主になる可能性があるとはいえ、双子である。カインとしてはアベルが継ぐのが妥当だと考えている以上、前世の知識を使っての、憧れていた内政チートなど考えられなかった。
とりあえず、家を出てからも一人で生きていける為に魔法を覚え始めたが、それも今は、自分を痛めつけて罪悪感の緩衝材としているだけで、ただの惰性であることに気が付いてはいるのだ。
(人間の本質って、本当に変わらない)
カインは、転生しても結局、楽な方にしか行動出来ない自分が情けなかった。
「お帰りなさいませ、旦那様、アベル様」
鬱屈した思考に沈みこんでいたカインは、突如聞こえたアマトの声に驚き、顔を上げた。
目の前には、外から帰ってきたらしいアベルが、父と共にいた。
「カイン、今日も書庫にいたのか」
「…はい」
父親の明るい声に、カインは小さく答えた。
「今日から、アベルに剣を教え始めたんだが、アベルは筋が良さそうだ。カインもきっとすぐ上手くなるだろうから、元気になったら楽しみにしてるといい」
「はい」
気遣うかのような父親の言葉に、カインは申し訳ないない気持ちであったが、かろうじて同意を示した。
「お父様、僕はカインなんかに抜かされないからね」
アベルが父親の手を掴みながら、割り込むように声をあげた。
アベルとは目をあわさないようにしていたカインだったが、ついアベルの方を見てしまった。
カインとそっくりな少年は、父親を独り占めするように、じゃれつきながら屈託ない笑顔を見せていた。
(あぁ、嫌だな)
この世界に生まれて、初めて会った時こそ、アベルは、赤ちゃんながらの直感だったのだろう、カインに懐かなかったが、今では、双子の兄として接していた。
しかし、最初にアベルが見せた絶望を忘れられないカインは、出来る限りアベルを避けていた為、今では双子の兄弟でありながら、殆ど交流がない。
「アベル、お前達は、こんなに似てるんだから、カインもすぐ追いつくぞ」
父親は、アベル頭を撫でながらも、たしなめるように言った。
(あぁ、嫌だ。嫌だ。嫌だ…)
「そうかなぁ、僕とカインって、そんなに似てないと思うんだけど」
純粋に不思議、といった風のアベルの言葉は、カインの目の前を暗くした。
(そうだ、俺はアベルの兄なんかじゃない)
カインは手をギュッと握り締めると、拳の中に小さな明かりを創りだした。
「カイン様っっ」
「カインっっ」
魔力切れをおこしたカインの意識は、自分の殻の中に閉じこもろうとするかのように暗闇の中に落ちていった。




