空想魔法科学
「さて、カインは今日どうするんだ」
なんとか酒盛りの開始を阻止し、奪ったライスワインを片付けているカインを、マリンはジットリした目で追いながら新たな煙草に火を付け問いかけた。
「カメラ製作の続きをしようかと思ってるんですけど」
「風景を写すってやつか。なんかよくわからんが、まだ諦めてなかったのか」
「諦めてないですよ・・多分、もうちょっとで問題点が解決出来そうなんですよね」
「じゃあ、気がすむまでやってみな」
それだけ言って自らの読書に戻ったマリンを見届け、カインは自分の思考に沈んでいった。
マリンの魔法授業は、カインの自主性に任される形で進められていた。
魔法書に書かれている魔法は、ほぼ読んだだけで行使できるカインにとってはひたすら読書に勤しむだけである。
既存の魔法を覚えるのとは別に、この師弟が大幅に時間を使っているのが、魔力の結晶石に組み込むプログラム作りであった。
これは、カインの元日本人としての知識が大きく作用した結果である。
生活水準の向上を図ろうとしたカインの発明、実際は前世で利用していた道具を魔法で応用しているだけではあるが、これはマリンを驚かせ夢中させるのに充分な発想ばかりであった。
そしてマリンが最も得意とする、既存の魔法の応用、新規魔法を作り出す才能は、飛躍的な結果をもたらすこととなった。
この師弟は、この二ヶ月の間で冷蔵庫や掃除機などの家電に類するものを作りだし、現在マリンの家のみ、この世界にはありえない急激な進化を遂げていた。
あらかたの生活家電を現実のものとしたカインが次に考えたのが、趣味となるような遊具であった。手始めに前世でピンホールカメラを作ったことを思いだしたカインは、その知識をもとにカメラの製作に挑戦していた。
(…問題は現像なんだよな)
ルーペをレンズ代わりにした加工した簡易カメラは問題なく製作したが、問題はフィルムであった。
フィルムと現像の仕組みを知らないカインは、ポラロイドに似せた一体型にすることで解決したのだが、そこから進まないのである。
「師匠、相談なんですけど」
「なんだ、もう根をあげたのか」
「ちょっと、僕には手がおえないというか…
この紙なんですけど」
カインは、製作したカメラにはめ込んだ紙を取り出してマリンに見せた。
「この紙、粉状の結晶石を塗ってあるんですけど、この紙に光が入った瞬間に映る風景を残すプログラムってありませんか」
「んー、聞いたことはないが…
ちょっと、その紙貸してみな」
カインから受け取った黒い幕を貼った紙を、マリンは数秒み見つめると魔法を展開し始めた。
「こっちの白い方に写るようにすれば良いんだよな」
「そうです」
「そうだな、基本は光と闇を使って…あと定着は…これで、どうだ」
マリンはブツブツと呟きながらも、プログラムを凄い早さで作りあげていった。
「おし。これで確認してみな」
マリンはニヤリと笑って、手渡された紙を確認したカインは思わず嘆息を漏らした。
「師匠、天才ですね」
「フフ…、そうだろう。もっと褒めて良いんだぜ」
「いや、ホントに。僕、このプログラムの為に数日かかりっきりだったんですけどね。
まさに師匠の美貌と魔法には感服です」
「…ん、なんか含みを感じるが。
とりあえず、それで上手くいきそうか」
「たぶん大丈夫だと思います。
ちょっと試してみるんで、師匠、そこに立っててもらえます」
「ん、ここにいれば良いのか」
「はい。少しの間、動かないでくださいね」
カインは紙をカメラにセットしながら、マリンから少し離れた。
「なんだ、いつまでこうしてれば良いんだよ」
「すぐなんで、ちょっと我慢してください。
ついでに笑顔見せてもらえると、なお嬉しいです」
短気さを見せるマリンを宥めつつ、カインは魔法で部屋を明るくしてから、カメラのレンズをマリンに向けた。
「チーズって、言ってみてください」
「…チーズ……って、なんだよ」
カインはシャッターを押し、レンズに光を通した。
「はーい。ありがとうございましたー」
達成感と期待でつい気分が上がっているカインは、カメラをおろして、営業っぽい言い方をした。
「ご機嫌だな。もう動いて良いのか」
「そんなことないですけど・・もう、大丈夫ですよ」
マリンに指摘され、カインは少し顔を赤くしながらいそいそと紙を抜き取った。
「・・・できた」
カインの持つ紙には、目の前にいる姿と寸分違わぬマリンが微妙な笑顔を浮かべて写っていた。
「なんだ、成功したのか」
満面の笑顔を浮かべるカインのもとへ近づいてきたマリンに、カインは両手で写真を持って自慢げにつきだした。
「はい、まだ改善点はありますけど、とりあえずは成功です」
「・・・私だな、これ」
「本物通りに美人に写ってますよねー」
「そこまで直接言われると照れる」
「・・・珍しいですね、照れるとか。これ、せっかくなんでプレゼントです」
「いや、なんか自分そっくりなのとか持っててもどうしようもないし、カインが持ってろよ。
まぁ、何に使っても良いんだぜ」
「・・・師匠、僕の年齢覚えてないんですか」
ニヤニヤしているマリンに、カインは真顔で答えた。
「あぁ、忘れてたわ。大体、さっきのプログラム解析に使う必要があるだろ」
「ちゃんと、そう言ってくださいよ。ただ、プログラムは見てたので大丈夫ですよ」
「・・・その辺、お前は可愛げがないくらい優秀だよな。
それにしても、このカメラってのが凄いのはわかったけど、何に使うんだ」
マリンの問いに、沈黙がおりてきた。
「それこそ、何かいろいろと、かな」
「やっぱり、可愛いよ。カインは」
その晩、カインはマリンの写真を丁寧に包み、引き出しの奥にしまった。




