学校的社会
授業態度がどうであれ、成績優秀なカインにとっても憂鬱な事があった。
剣術や体術の基礎訓練、いわゆる体育の授業である。
上着をロッカーに片付けるカインからは、何度目かわからない溜息がもれた。
(アベルと一緒に習っておくんだったなぁ)
この幼年学校に通う生徒たちは、勉強につおてはともかく、ある程度の剣術は習得している子供ばかりであった。
そして、二割ほどいる女子生徒においても変わらない。
そのような状況において、カインは女の子にすら及ばず、子供らしい劣等感の苛まれることとなった。
「今日は模擬戦をします」
生徒たちが全員、訓練所となっている校庭に出ると、爽やかな風貌の若々しい青年が待ち構えるかの如く声をあげた。
「循環系の魔法を使える子たちは、こっちでペアを組んで。残りの子たちも、それぞれで組んでね」
未だに友達ができる気配は全くないカインは、ペアを組む生徒たちを離れたところから眺めていた。
「カイン様、僕と組みませんか」
人好きする笑顔を浮かべた少年が話しかけてきた。
「あ、じゃあお願いします。えーと…」
「ジョルジュ。ジョルジュ エペです。カイン様」
どこか大人びた少年、ジョルジュは名前を覚えてないカインにも笑顔を崩さないまま答えた。
「ごめん、ジョルジュ君。あと別に様とかつけなくて良いよ」
「じゃあ、カイン君。お願いします」
「じゃあ、改めてお願いします」
二人は視線を交わすと、間をとって模擬剣を構えた。
グレゴリの予想外に真剣な目に、カインがのまれかけると、グレゴリはその瞬間を逃さず剣を振りかぶった。
結果、試合が始まってほんの数秒。カインが剣を落とされ、勝負はあっけなく決まった。
確かに、カインは他と比べて剣術の技術において圧倒的に劣っていたが、実際、運動神経自体は決して悪くはない。むしろ大量の魔力を体内循環させる事で身体能力はかなり高いと言えた。
普段であれば、なんとか基礎能力で勝負を長引かせる事も出来たのだが、グレゴリとの勝負はカインにそれすらさせない差を見せつける試合となった。
「ありがとうございました。
手、大丈夫でしたか」
グレゴリは、変わらない笑顔で落とされたカインの剣を差し出した。
「大丈夫です。ジョルジュ君、強いんだね」
「そんな事ないです。でも、何でも凄いカイン君でも苦手な事があるですね」
「まぁ、僕も普通の人間だからね」
「そうですよね」
勝ち誇るように答えるジョルジュに、カインは微妙な笑顔を返すしかなかった。
「早く終わってしまいましたけど、もう一回しますか」
(嫌味言われてるのか、これ)
剣を受け取ったカインが返答に困っていると、一人の少女が近づいてきた。
「カイン様、大丈夫ですか」
おずおずとカインに声をかけたのは、クラスで一番可愛いと評判の少女だった。
「大丈夫です。えっと、マリーさん」
カインと目があったマリーは顔を赤く染めて、焦ったように視線をそらした。
「ジョルジュも、ムキになって酷いのよ」
「別にムキになんかなってない」
「だって、なんかいつもより真剣だったじゃない」
「僕はいつも通りだけど」
さっきまでの大人びた雰囲気とは打って変わったジョルジュと親しげに話すマリーを前に、カインは会話に入れず所在無く二人を眺めていた。
「煩いよ、マリー。
カイン君、もう一回お願いします」
「ジョルジュ」
突如、巻き込まれたカインは、
「えーと、二人は仲が良いんですね」
「あ、あの、ジョルジュと私は幼馴染なんです」
再び赤くなりながら答えるマリーと、そんなマリーを苦々しく見つめるジョルジュを見て、カインは現在の状況を悟った。
「(面倒臭い…)そうなんだ。僕、幼馴染とかいないから羨ましいなぁ」
「そんな、カイン様が羨ましがる様なものじゃないですよ」
「そんな事ないでしょ。
結構、時間たっちゃったみたいだから、僕は先に行くね」
カインは、この場を離脱すべく、完璧な笑顔でマリーを黙らせると、素早く二人から離れた。
(ちょっと、初友達できるかな。
とか、思っちゃったじゃないか)
マリーの熱い視線を背に、カインは自嘲的な笑みを浮かべていた。




