教えの代償
「我が国は、現在の王家が全ての貴族の頂点に立ったとこで成立した・・・」
教壇では立派な口ひげのおじいさんが、アデン国の歴史を滔々と語っている。
アナウンサーばりの良い声で語られる内容は、カインにとって興味をひくものではなく、睡眠導入剤としては最適である。
懐かしい日本語で書く落書きにも飽きて、窓の外を眺めた。
校庭では、別のクラスの少し年上の子供たちが、柔らかい初夏の日差しの中、剣の鍛錬に勤しんでいた。
(絶好の昼寝日和だなぁ)
カインは一息つくと、机の上で腕を組み合わせ本格的に寝る体制に入った。
六歳になったカインは、王都にある幼年学校の教室にいた。
幼年学校は、六歳から十二歳の王都に住む貴族の子弟たちが基礎学問から上流社会のマナーを学ぶ為通っている。
王都に住むマリンの弟子となるため、パラディウス領を離れたカインは二ヶ月前から、そこの生徒となっている。
三十路の理解力と六歳児の記憶力を持つカインにとって、授業は目新しいものはなく、半ば義務的に通う大人びた少年が教室で浮いて
しまうのは必然であった。
加えて、地方の大貴族の息子という立場は、子供ながら既に階級社会を教えこまれている同級生達を遠ざけるのに充分である。
本来の目的として、マリンの教えを乞うためだけに王都に来たカインは、早々とクラスに馴染む事を諦めたのだった。
(師匠のお土産、タケハヤ産のカラスミにしよ…)
カインは夢うつつで黄色い塊を思い浮かべたとことで、完全に夢の世界の住人となった。
結局、残りの授業を全て睡眠に費やしたカインは、一度、帰宅し制服を着替えるとスッキリした顔で街へ出た。
「お邪魔しまーす」
「休憩中」と書かれた紙が貼られた古びた本屋の扉を勝手知ったる様子で開けた。
薄暗い店内の奥にある本の塊の中から、煙草の煙と共に、白く細い腕が生えてくると、声も無く手がヒラヒラと振られている。
カインは一つ溜息をつくと、本の塊を覗きこんだ。
「師匠、これお土産です」
本屋に住む妖精かと見間違う美少女、マリンは、読んでいた本から目を離すと、煙草を咥えたままカインの手にある袋をひったくった。
「嬉しいねー、今日は魚玉屋のカラスミか。
これ、どうしたんだ」
「家にあったんで」
「流石、大貴族のキッチンは違うなー」
マリンはおもむろに煙草をねじり消すと、機敏に立ち上がった。
「…酒盛りは後にしてくださいよ」
「ケチー」
両頬を膨らませて軽く睨みつけるマリンを見て、カインは顔をそらした。
(ちょっと可愛い…とか、思ってないからな)




