神童
ピアノ弾きの少年、アポロが音楽の才能を見せたのは、わずか三歳の時だった。
下級貴族の家に生まれ、裕福な生活ではないが、両親と姉に見守られ、それなりに幸せな家庭であった。
しかし、彼の父親は、そのような生活に満足はしいなかった。
かといって、成り上がるためのツテもなければ、特に目立った才覚も無いことがわかっている彼が目をつけたのは、五歳上の姉であった。
運良く、それなりに美人に生まれてきた姉に自分の人生をかけたのだ。
貧乏貴族には不相応な金をかけて、彼女を磨くための衣装を揃え、マナーや教養を身につけさせるのに躍起になった。
その分、アポロは放っておかれる事になったが、それが幼い彼の日常であった。
しかし、アポロがピアノを弾いてから全てが変わった。
ある時、相変わらず放置されていたアポロはピアノを一度も習ったことが無いにもかからず、姉が習っている曲を難なく弾いてしまった。
そして父親に聞かれてしまってからの彼の生活は大きく変化した。
アポロの才能に目をつけてからの父親の反応は素早いものだった。
姉の為に使われていたお金と時間は全てアポロにつぎ込まれ、アポロは幼いながら貴族のなかで音楽の神童としてもてはやされるまでになった。
王宮に呼ばれるまでになったアポロは、演奏旅行で忙しい日々を過ごしたが、単純にピアノが好きで、初めて父親に大切にされる生活に満足していた。
現にアポロには、類稀な音楽の才能があった。
一度聴いた曲は、ほとんど弾きこなすことができたし、父親が連れてきた高名な音楽家の教えもあり、五歳になるころには作曲までこなしていた。
しかし、アポロが十二歳を数える頃になって、状況は再び変化を始めた。
アポロの成功を見た成り上がりを望む他の貴族たちが、自分の子供に英才教育をしだしたのである。
アポロより若い子供たちが、可愛らしい姿で音楽を奏でると、皆の関心がアポロから離れだしたのだった。
なにより不幸だったのは、アポロの才能が本物であったことである。
最初は父親の期待に応えるだけで満足だったが、今では父親の持ってくる営業が彼にとって迷惑なものでしかなくなってしまっていた。
ただ、そんなアポロに対して父親は冷たかった。
音楽しか知らないアポロは、同じくらいの年頃の少年に比べて妙に気難しく、また価値も低くなってしまったとあっては、父親の関心は離れるのにそう時間はかからなかった。
十五歳のアポロは、期待など持つことはなく、ただピアノを弾くだけの日常を過ごしていた。




